第三回【なんでしょう句会】文庫評 壱

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130 歩きそうな文庫の上の小石かな    凡コバ夫 (凡)
科 (2 点)
"科科,好,酒,智,和,ち,鶴,二,友 (10 点)"
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酒◯【評】その本の読後感が小石をそう見せたのかもしれませんね。小石の印象より、河原で読書してうたた寝する春ののんびりした時間の印象が残りました(いまの時期に読まれた句だと知っている所為もあると思うけど)

好◯【評】なぜか小春日和を強く感じさせる句ですね。素直でかわいい句。

智◯【評】本の内容のせいか、それとも小石のかたちなのか。ちょこんと乗った印象が面白い

ち◯【評】文庫本を読みながらうたたね。寝ている間の夢と小説の間だけを行き来している男。生活力なし。小石は神様が置いた。現実に戻ってきたときの彼の居場所がなくならないように。

鶴◯【評】外で読書することの孤独と楽しさがひとつの句のなかにあって、しかもそれが、ちょっとだけいきすぎている感じが「歩きそうな」から出ていて微笑ましい句だなと思いました。

友◯【評】その本が読みたいと率直に思いました。とにかくいい本に違いない。

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131 テレピンを足して冬晴れ灯台へ    ちゅう (ち)
噛 (1 点)
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噛◯【評】日当たりの良いアトリエで絵の具が乾くまでの間に読む「灯台へ」 きっと描きあがった絵はすごく満足の出来だったんだろうなって感じる。文庫かって言われると微妙だけど絵の内容にかけてるのもいいなと思って

友選外【評】『灯台へ』と青空だと、どうしても岩波文庫より池澤全集版の表紙が思い浮かびます……。

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132 きのうから轢かれっぱなしボッコちゃん    フジノ (藤)
鶴 (2 点)
"鶴鶴,崖,炭,百,虎,蓬 (7 点)"
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崖◯【評】そんなことしないで、読もうよ! まぁ、忙しい時もあるしねー。あの作品、文庫になる前は違う題名だったから、あの作品。二重に文庫しばりですね。なかなかの技。

鶴◎【評】ボッコちゃん、うすいから…うっかり落として、椅子の足とかで、踏んでしまうんだろうなあ…。「あっしまった」を何度もやってしまう、人のおろかさ。

炭◯【評】車通りの多い道路でずっと轢かれている「ボッコちゃん」が見えた。いくらロングセラー作品で本の冊数が多いからって、その扱いはひどいだろう!見ているほうも拾ってくれ!

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133 中指の爪ほどの小口開きたり    兄妹 (妹)
"じ,知 (2 点)"
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じ◯【評】文庫自体を表現しようとしたのがおもしろくて選んだ句。文庫本って棚にきっりりと揃うから、指いっぽんで上から引き出して取る。まさに中指の爪ほど。

知◯【評】小口に惹かれて取りました。文庫本は小さいから小口も小さいです。細い指で開いてそう。

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134 仰向けで蒲団かぶって読める本    サトミ (里)
ひ (1 点)
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ひ◯【評】文庫本そのものの説明だけでなく、いまどきの季節感も表現されている。冬の寒さが気鬱を呼び、ものぐさに拍車をかけるけど、好奇心は健在。健全な倦怠に共感しました。

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135 どうせなら文庫貫く弾丸で    鯖好き夫 (鯖)
"ふ,茅,森 (6 点)"
"ふふ,茅茅,森森,舘,ひ (8 点)"
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ふ◎【評】気持ちならとっくに知ってる。聞いたことがあるようなのはいらない、私の愛するこの本をこえる、“あなたの言葉”で打ち抜いてほしい。と。ザ・女。(言ってみたいな私も…)

茅◎【評】非常な色っぽい感じに惹かれたのでしたが、それとは別に胸に本を入れていて助かったという描写をみるたびに、ほんとに?と思っていたので貫いていただけるとうれしい。

舘◯【評】あなたの言葉はこの文庫本の内容より心躍らない。わたしの心を震わせることを言ってみろ、話はそれからだ、ふん。

ひ◯【評】重厚な連載ではなく、一気の書き下ろしで感動を与えて欲しい。プロットも複雑じゃなくて良い。ラストシーンで殺して欲しいなんて読書欲を感じました。

森◎【評】紙って丈夫よねと改めて感心。プロレスラーが漫画雑誌ちぎる例のパフォーマンスとも呼応してる気がして面白すごいと思った。ほんとは「文庫」って入ってない句を取ろうと思ってたけどとても気に入ったので特選に。

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136 雪晴れやボックス席に伏す「大地」    よもぎ (蓬)
"碍,虎 (4 点)"
"碍碍,虎虎,幹,朝,爽,崖,平,る,猪,雪,科,黄 (14 点)"
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崖◯【評】ちょうど、いま三巻目を読んでます(岩波の方ね)。王虎が息子にイライラしてるところです。

幹◯【評】未読です。内容云々でなく、「大地」なのに椅子に伏せられている、という言葉の面白さでとりました。

碍◎【評】大劇場の開演前のボックス席に文庫だけが伏せてある。雪晴れの外、薄暗い劇場内という明と暗。大地という言葉がもつ広がり。4巻本が示唆する長い時間。17字の中にこんなに詰まっている!手練の句。

爽◯【評】「大地」が「伏してる」ってしただけですごい!

平◯【評】図書館の窓際、ふと射した光につい外を眺める。そんな一瞬と解釈しました。ぼーっとする時間はたぶん一瞬なんだけど、長い物語の歩みをふと止めてしまうような、雪晴れの光。

る◯【評】「ボックス席」は自分の中ではローカル線。雪晴れの白い光の中、読みかけの長編小説が伏したままごとごと進む列車。「大地」という作品も知らなかったけど何だかやたらおもしろそう。

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137 なだれ落つ文庫本踏む去年三月    yagimeiko (芽)
舘 (2 点)
"舘舘,じ,崖,妹,ん,藤 (7 点)"
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崖◯【評】景が浮かびますね。何も書いてないけど、音や、「あーあ面倒」な感じも季語が受け止めてくれています。

妹◯【評】通常、本って、絶対に踏んではいけないもの、だと思っているので、「(棚いっぱいの文庫本が)なだれ落ちる」ことと「文庫本を踏む」ことの両方で、「去年三月」の事の大きさを言ってる、と解釈。

ん◯【評】文庫本の方が単行本よりやわらかくて雪崩っぽいなと思いながら読んでいて下五でハッとしました。こんな光景がいろんな場所であっただろう去年の3月のことを思いました。

舘◎【評】あの地震のあとすぐにもっと大きい地震が来るよとあちこちで聞き、なら片付けても無駄じゃんと思ったなぁ。忘れちゃいけないことだと思ってても薄れていく記憶。色々思い出しました。

じ◯【評】家の中でいろいろとなだれ落ちたとして、踏めるのは文庫くらいだなって思いました。去年、と言えるのは今年だけなのだな、とも。

藤◯【評】去年三月に床に落ちた文庫が、一年近く経った今でもまだ落ちっぱなし且つ踏みまくり。時間は経ったようで経たないし、経たないかと思えば経ってる。そんな実感がよく伝わってきます。

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138 探偵をあつめて妖し創元社    あら丼 (丼)
妹 (2 点)
"妹妹,子,数,爽,珍,珈,白,智,百,千,炙,じ,地,鶴,蓬 (16 点)"
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子◯【評】私でも知っている超有名句のリズムにそっくりだなぁと思いつつ、その気持ちよさと、うちにもあるあるという親近感におもわず○。実際に、創元推理文庫に探偵小説が多いのかどうかわからないけれども。

妹◎【評】そっくりな句はいっぱいありそうだけど、わたしは素直に、上手だなあって、ほんとうに声に出して言ってしまったので、特選です。

珍◯【評】こういうのも本歌取りというんですかね。パロディ句。「妖し」への変換が効いていて、「おもしろ句じゃん」と切り捨てるに至らず。ミステリ好きなので贔屓もあるかも。

爽◯【評】あらがえませんでした。

珈◯【評】自分には馴染みのないこの出版社のイメージを、親しみのあるリズムでさらりと差し出されて感動。勢い、創元社の本を読んでみたくなった。東京創元社はこの句を掲げて探偵フェアをやると良い。

白◯【評】創元社というだけで文庫感あるのに、「あつめ」る感じもさらに文庫らしさを足してる、ところにぐっと。

智◯【評】あからさまなパロディ句だが選ばざるを得ませんでした。「探偵」「妖し」「創元社」この3語の選び方がもうあまりにもぴったり。推理でも怪しでもハヤカワでもないんです。

地◯【評】パロディだけど納得させられた。すなおにおもしろくて笑った。お上手です。

数◯【評】創元社はたしかに何か妖しげ。いろんな探偵が待っている気がする

鶴◯【評】こんなに探偵が沢山、一度に活躍したら世の中たいへんだよなといつも思います。「あつめて妖し」って痛快でした。

酒選外【評】たしかに「あははー」となったけど、これはアリとして良いのかな。と言いつつなぜナシなのかきちんと説明もできない(オモシロやパロディそれ自体を全面否定はできない)僕に、爽さん評がグサリと刺さりました。

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139 冬電車京極夏彦取り落とす    ことら (虎)
和 (2 点)
"和和,は,崖,丼,林,珈,平,朧,里,る,数,森 (13 点)"
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崖◯【評】誤解を恐れずにいえば、持ってると恥ずかしい本と、自慢になる本ってあると思うんですが、京極さんの本だけはどっちにも振れる微妙さがある。私は好きでたまに読むのですが。その立ち位置の微妙さがいいです。

は◯【評】京極さん、私はあんまり読まないんですが、想像してみるとありそう!と思わせる句でした。取り落としたのは重さのせいか、内容のせいか。

丼◯【評】分厚くて持ちにくい京極堂シリーズの文庫本。ウトウトして取り落とすと目立つうえに、『魍魎の匣』だと女性のヌード(人形だが)の表紙まで見られてさらに恥ずかしい。

林◯【評】ばさっと分厚い本が落ちる感触が、身に覚えのある気がして。うとうとして手から滑ったのかも。魑魅魍魎の夢から、はたと電車内へ意識が戻る。ちょっと気まずく思いつつ、無言でかがんで足元の本を拾う。

珈◯【評】連なる漢字にまず興奮。 自分の足もとに落ちた本が京極夏彦だとわかったら、なんとなく、どうにかして落とし主の顔見てしまいそう。

平◯【評】冬夏の二字と、暖房がんがんの車内で怪談。電車の中って意外と季節感ないよなー。舞台!事件!って構成もミステリー的だし、落とすなら分厚い京極本だよな、ってリアリティも良い。

朧◯【評】冬電車というと、降りる人や乗る人が自分で扉を開けるタイプの電車を想像してしまうのだけどそれはやっぱりすいてる電車であってほしい。そうゆう電車内で本を落とすの似合うなー。

和◎【評】最初、ぎゅうぎゅうした字面がインパクトがあり、読み返すうちに寒いのに足元だけがもわっと暖かい冬電車に取り落とすのは京極夏彦がぴったりな気がしてきて。句に冬と夏が入っているのはわざとなのでしょうか?

里◯【評】知識不足のため、作品や作者名のある句は文庫と単行本の違いが見えず、でもこれはなんとも言えないむずっとした感情を抱き(崖さんの評を見てなるほど!)、「電車」でも文庫を類想させられたので選びました。

る◯【評】「ばさっ」とかじゃなくて「ごとっ」っていう音が似合う京極本。他の文庫本とちがい、ほとんどサイコロ状の物体が床に落ちた時には思わず皆が振り向きそう。タイトルに意味がある句。

数◯【評】電車じゃないですが、私も取り落としまして。単純に共感して選びました

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140 読んでから見るか見てから読むか雪    帽子 (帽)
"栗,茅,噛,黒,二,千 (6 点)"
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茅◯【評】子供はまっ直線に雪に行くけど大人はちょっと冷静(を装う)。雪国じゃないところですね。「文庫」感は薄いけどわくわく感が好きです。

噛◯【評】待ち合わせの喫茶店でふと見たら雪。もう少し見ていたいけどでも本の続きも気になる。すぐ止んじゃうかもなのに見るのを迷っちゃうほど面白い本と出会えたのが羨ましい。口に出した時のリズムも好き。

栗◯【評】角川文庫の往年の名コピーに、季節を絡めたことに感心。映画と原作文庫、どっちを先にしようか迷っているうちに雪が降りはじめ、文庫の勝ち。晴れたら映画館に行ったのだろうか。野性の証明

黒◯【評】映画と原作、どちらを先に楽しむのかは悩ましい。映画化と同時に書店に山積みされた原作の文庫を眺めている気持ちを読んだ句だろうか。最後の「雪」がすうっと爽やかで良い。

千◯【評】どっちにしたのかという結果はあまり関係なくて、あくまでもその何気ない過程が切り取られていいと思った。雪、のさりげなさも。

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141 初笑ひ文庫の帯に何も彼も    黄犬 (黄)
"子,珍,じ (3 点)"
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子◯【評】ネタバレはなはだしいと。怒るというより'あーあ'と半笑いの感覚がよい。

珍◯【評】子さんに同じく、好意的な笑いではなく「なんじゃこれ」という苦笑、と読みました。実感こもってます。翻訳でないバカミスかな。

じ◯【評】お正月に文庫買いに行ってることと帯にネタバレ書いてることとのバランスがちょうどいいなって思って選びました。

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142 吊革と眉とスピンゆれて雪国    マオリ (森)
C (2 点)
"CC,爽,凡 (4 点)"
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C◎【評】通勤なら「雪国」でない方が良いし、旅なら「つり革」でない方が良い。文句たれつつ、だって、今回の中で一番好きなんだもんという事で特選。眉が凄い。

爽◯【評】雪国のもってる鉄道のイメージをかりつつ、それ以外のこともちゃんと言ってる。鉄道はゆれるんだなあ。

凡◯【評】たまたまだろうけど昔、僕が模索した「五九四俳句」だ。5の後、転調してワルツのように読んで心地よい。川端の雪国なんだろうが、雪景色の中の通勤と思いたい。

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143 朝焚火彼の文庫本燃えろ燃えろ    舘ざんす (舘)
"智,子,碍,夕,里,光,幽,猪 (8 点)"
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子◯【評】放火魔が火を見て気持ちが晴れるかのように、彼への恨みが燃やされているような。しかも、朝に!と、ハッとしたので○。「彼の文庫本」が、彼が置いていったのか、彼がくれたのか、それとも彼が書いたのか。

碍◯【評】朝だから、彼は一晩帰ってこなかったのだ。腹いせに、彼の本棚から文庫本を一冊一冊抜き取っては焚き火に投じるのだ。燃えろ燃えろ。早く帰ってこないと、本ぜんぶ灰になるぞ。恐ろしいけど爽快な句。

智◯【評】よく晴れた寒い朝、文庫本を山積みにして燃やしている。晴れ晴れとした笑顔が怖い。持ち主の彼はどうなってしまったのか…。

夕◯【評】嫌いになって別れた彼が残した本まで忌々しい。捨てるなんてぬるい。目の前で灰にするしか。火を付けた瞬間奴の存在を抹殺しているような気がして愉快な気持ちに。残った本も次々火にくべる。激しい爽快。

里◯【評】ふっきれましたね。おめでとうございます。朝っぱらからそんな情念のこもった焚き火は怖いですが、夜だと放火疑いで通報されますからね。もしくは、夜が明けるまで、本を仕分けていたんでしょうね。

光◯【評】夜喧嘩して、朝目覚めて、「もー別れる!これもこれも燃してやる!えいっえいっ!トルストイとか読んでかっこつけてんじゃねー!」という勢い。よしよし燃えろ、とつい応援してしまった。

幽◯【評】「彼の」は字数から「かの」と読んでしまいましたが、「かれの」のほうが解釈は面白いんですよねえ。ともあれ勢いに押されました。

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144 トルストイ冬の長夜になえて閉じ    メタル彗星 (彗)
"朝,ん,く,平,炙,地 (6 点)"
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ん◯【評】ほんとは冬の長い夜じゃなくても萎えそうだったんじゃないかな? かわいい言い訳俳句と思いました。

平◯【評】トルストイのどーんとしてながーい作品はほんとぐずぐずと明けない冬の夜のよう。文庫を上からみて、うわ、まだ半分もいってねぇ。みたいな。でも閉じてもすぐまた開くんだよな。だって夜は終わんないもん。

地◯【評】長夜って言ったのに、閉じちゃった。読む気ないだろう。もう寝るんだろう。そして春になっても読まないんだろう。わかるわかる。

く◯【評】長い夜だからこそ重い長編を読もうとしてるはずなのに、やっぱり寒いし暗いし萎えるわー、ってなるのわかる!ただ、「文庫」っぽくはないのがひっかかった(大きい分厚い本を閉じてるイメージ)。

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145 底冷えの腑や美しいアナベル・リイ    はやし (林)
"好,百,黒 (6 点)"
"好好,百百,黒黒,黄,幹,鯖,炭,く,幽,森,科 (14 点)"
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幹◯【評】総毛立ったのでしょうか。寒さの中にいて、ふと内臓の奥に凍えた少女が住まう幻を見たような気分になりました。

鯖◯【評】アナベル・リーって読んだ事なくても(人の名前っぽいなとしかわからなくても)ぐっとくる不思議に魅力的な文字列。美し「き」じゃないのは良いか悪いかですが嘘がない感じがあってよいと思う。

好◎【評】ポー? 大江健三郎久世光彦?(「一九三四年冬ー乱歩」ね)。底冷えの腑、という措辞がアナベル・リーの美しい怖さに呼応してます。

幽◯【評】「美しい」って評価を書いてしまうのが良いのか悪いのか。普通に美しいのはアナベル・リイでしょうけど、そう書いてなくても美しくない娘を想像する人はあまりいなそう。でもあえて書く意味もありそう…

黒◎【評】「美しい」が説明的すぎるかとも思ったが、「美しいアナベル・リー」までが原文からの引用なのね。ところで「底冷え」と「(凍死した)アナベル・リー」の関係も「ついてる」と言うのでしょうか?

炭◯【評】「アナベル・リイ」については知らなかったのですが、調べてなるほど、と。簡単に意味が分かったようになるのは危険ですが、「寒さ」が「死」を感じさせて、美しい句だと思いました。

く◯【評】読んだことはないけどかっこいいタイトルだなあとは思ってて、うまく俳句にしたもんだと感心。いつか読むときには絶対この句を思い出すはず。

森◯【評】美し「き」の方が俳句っぽいと思ったが、もし歌になっているのなら「い」かも知れないなと思った。

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146 春まだき8行分を乗り過ごす    オカヤ (茅)
"黄,幽,蓬 (6 点)"
"黄黄,幽幽,蓬蓬,C,朧,ふ,好,鯖,噛,く,平,百,和,ひ,ち,地,猪,珈,鶴,雪,虎,友,麗 (26 点)"
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ふ◯【評】冬の電車はあたたかくって心地よい。読んでる本も面白い。で、乗り過ごしたことに気付いて一瞬慌てるけど、でもまいっかー(心はぽかぽか)。…と思ったけどやっぱホーム寒っ! そんなイメージ。

好◯【評】ああこれよくやる!こないだなんか表参道で降りるのに赤坂まで行っちゃった。

鯖◯【評】駅の間隔が8行分は都会で本数多いから深刻でなくてよいですね。「春まだき」ってことが頭ではわかってるのに春の陽気の読書を思い浮かべるぼくの頭の雑さもまいっかと思えるいい感じの句。

噛◯【評】分かる!よくやります!なんどサクラサクラのベルを聞いたことか。8行分が絶妙。そう!この位で気付くんだよ、うんうんってなった。

平◯【評】8行って分量が絶妙。秋冬はゆっくり読書していい季節なのかな、春がまだ来てないことが、うっかりしても大丈夫な言い訳になってる気がして楽しい。過剰な盛り込みのないスレンダーでグッドデザインな句だなぁ。

朧◯【評】時間ではなく行数で乗り過ごしの分量を言い表したところがとてもよかったです。

幽◎【評】ストレートなあるある句(そんな言葉ないか)はあまり好きじゃないのですが、これは別の物語も見える気がして特選にしてしまいました。乗り過ごして焦るんじゃなくて、まあいいかと思わせる春マジック。

C◯【評】うっかりと8行分乗り過ごすのは難しいはず。これは確信犯だな。理由はわからないけど、あえて8行分のりすごしたのだと思う

ひ◯【評】切りの良いところまで読みたい、少し急いで読んだけど間に合わない。電車の中は暖かいし、腹を括って読んじゃおう…あれ、もう次章か。

ち◯【評】こういうふうに人生のいろんなことを乗り過ごしてきているんじゃないかな。それは失敗ではなくて、ちょっとした余裕。8行分の糊代。あくせくしてなくて、好きです。8ページ分乗り過ごしたらそれは問題。

地◯【評】わざと乗り過ごした感じがする。あと8行、電車の中で読みたい。そんな気分。のんびりしていてうらやましい。

珈◯【評】降り忘れるぐらい夢中になれる本を読みかけている期間って幸せですよね。電車の中で本を読んでる人も好きです。顔が好みなら降車駅まで恋をする。

鶴◯【評】だいぶ熱中していたね。こんこんと読んであがった8行ぶんの体温と、春に向かってあがっていくだろう気温の対比がすてきです。

く◯【評】うっかり乗り過ごしてもしあわせなかんじ。「電車」とは言ってないし、「本(文庫)」とも言ってないのにちゃんとわかるってとこも地味にすごい。

虎◯【評】「8行分」「乗り過ごす」という、その表現にたしかに!と目を開かれました。春まだき、という季語の美しさも含めて音楽のような心地よさを感じる句でした。

麗◯【評】あまりに夢中になって読んでいて、乗り過ごしてしまった冬の電車、こんな風に説明すると野暮だが、この句はとても洗練されていて、素敵。8行目で気づいて、目を上げて、でもまたすぐ本の続きを読むのだろうな

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147 初不動見違える娘の手にカフカ    酒井 (酒)
"穂,猪,知 (6 点)"
"穂穂,猪猪,知知,藤,波,C,幽,虎,友,麗 (13 点)"
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波◯【評】まるで別人の〜♪とか、きれいな指してた〜んだね〜♪といったBGMが流れ出した。見違えるほどきれいになったその娘に今さら声をかけたところで、もうキミはあしらわれるだけなんだぜ〜♪

C◯【評】最初はこちらを特選にしていました。勉強になります。見違えたときはだいたい手遅れです。せつないです

穂◎【評】久々に会った親戚の娘? 年賀状で急接近した同級生かも。一月末の寒い中、待ち合わせ場所に行くと普段と違う私服のあの娘。手の中に文庫本。「あ、カフカ…」男子はなにを思ったのかな。

幽◯【評】はじめカフカと見違えるはちょっと作為的すぎかと思ったが、普通良い言葉として使う「見違える」が、カフカの3文字で負への方向転換をするのでアリではないかと思い直し、さらに「不動」で選ぶに至った。

藤◯【評】見違えるほどきれいになっただけでなく、見違えるほどとんがってるんだと思う。人で賑わうお不動さんに来て、わざわざカフカ読んでるんだから。これこそが正しい中二病というやつではあるまいか。

虎◯【評】久しぶりに見かけると、見違えるように綺麗になっていた人。カフカを読む若い女性、知的で少し癖がある感じ、そのイメージの鮮やかさに惹かれました。初不動の縁日にカフカ持って歩いてる?不思議な魅力。

知◎【評】見ている私は娘の叔父。子供の頃しか知らなかったのに、久しぶりに会うと見違えるくらいになっている。黒髪で綺麗な子。カフカでどんな娘か分かる。

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148 電車混み文庫を拾う見知らぬ手    鶴谷 (鶴)
"平,幹,ん,舘,科 (5 点)"
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幹◯【評】電車混み、が説明調で気になりましたが、車内でさっと本を拾う、その手だけに焦点をあわせたのが良かったです。手から想像を広げて車内の退屈を紛らわせられたでしょうか。

ん◯【評】中七・下五が好きで選びました。自分だったら文庫の題名の方が気になりそう。きっと魅力的な手だったんだろうな。

平◯【評】満員電車なんて敵陣の真っ只中で、自分と同じく戦う(逃げてる?)同志を見つけた気分でしょうか。蜘蛛の糸、または神の御手。まぁ本落としてる時点で救う側の方がピンチなんですが、それはそれでまた象徴的。

舘◯【評】劇混みの電車から降りようとしたらマフラーが人に絡まり死にそうになった事がある。でも誰も助けてくれなかった。だから自力で何とかした。いいなぁそんな小さなもの拾ってもらえて。セクシーな手だった?

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149 早1年鞄の主の文庫本    (夕)
丼 (2 点)
"丼丼,朝,里,和,知,屁 (7 点)"
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幹◯【評】電車混み、が説明調で気になりましたが、車内でさっと本を拾う、その手だけに焦点をあわせたのが良かったです。手から想像を広げて車内の退屈を紛らわせられたでしょうか。

ん◯【評】中七・下五が好きで選びました。自分だったら文庫の題名の方が気になりそう。きっと魅力的な手だったんだろうな。

平◯【評】満員電車なんて敵陣の真っ只中で、自分と同じく戦う(逃げてる?)同志を見つけた気分でしょうか。蜘蛛の糸、または神の御手。まぁ本落としてる時点で救う側の方がピンチなんですが、それはそれでまた象徴的。

舘◯【評】劇混みの電車から降りようとしたらマフラーが人に絡まり死にそうになった事がある。でも誰も助けてくれなかった。だから自力で何とかした。いいなぁそんな小さなもの拾ってもらえて。セクシーな手だった?

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150 寒中の葉書文庫本の重さ    けば名人 (ふ)
"芽,朧,舘,藤,黒 (5 点)"
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芽◯【評】 相手が喪中だったか、自分が喪中だけれど心を使って寒中見舞いをくれたのか…それにしてもこんなに沢山の葉書に寂しさを感じます。そしてその1枚1枚に人の思いを感じて、印刷だけの年賀状より感慨深い。

朧◯【評】出さなきゃならないけど出し忘れていたはがき一枚をしわにしないように持つのに、文庫本はジャストサイズだ。ふだんは文庫本を持ち歩かない人が出がけにつかんだ文庫本の重さ。

舘◯【評】大往生だったから出すお相手も少なかったのね。会社に行きがけに投函しようと革のバッグに入れても忘れてしまいそうな軽さ。でもこれはいい軽さなんだ。

藤◯【評】折れないようにと葉書を文庫本に挟んでも、ちょっとだけはみ出してやっぱり折れちゃう寒中葉書。それでも、葉書一枚ではあまりにもこころもとなくて、つい文庫本の重量にすがる気持ち、すごくよくわかる。

黒◯【評】まだ年賀状の返信を書いてません。寒中見舞い勘弁してくれと思って。そしてまだ寒中見舞いも出してません。ダメ人間でごめんなさい。出さなくてはならない寒中見舞いの重さは、まさに薄い文庫本ぐらいです。あー。

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151 つづき待つグリーンマイルの6ヶ月    まる子 (子)
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152 一面の菜の花畑レクラムの表紙    まへ (屁)
"崖,炙 (2 点)"
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153 色褪せて それでも棄てれぬ 文庫本    あぶれ (炙)
夕 (2 点)
"夕夕,二 (3 点)"
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夕◎【評】褪せまでも愛しい。自分にとって響く事が書いてあるのかそれとも思い出か。もしかして読み返す事ももうないかもしれない。褪せる位だからずっと本棚から動かしてないのかもしれない。でも手元に。

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154 母からの 手紙がわりの 文庫本    ふみ (二)
炙 (2 点)
"炙炙,夕,ふ,林 (5 点)"
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ふ◯【評】いい母さんだ。それに気付くあなたもいい息子(娘)だ。(句中にスペースが入ってても、「いいな」と思う気持ちの方が上回ったので選びます)

林◯【評】母の本棚の茶色く古びた『惜しみなく愛は奪う』に、熱心に線が引いてあったのを思い出した。友人母の本棚には『眼球譚』が。いや、いいのだけど。この句の母も思わぬチョイスをしてくる予感。母は手ごわい。

夕◯【評】この句でもらった文庫本が153の句になる様な気がする。母親から文庫本が届いたりしたらきっと読むのめんどくさい。でも何かあるんだろうなと思う。その何かを想像するのも楽しい。

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155 ポケットのポルノ小説どぢやう掘る    崖元 (崖)
"波,る (4 点)"
"波波,るる,森,碍,朧,凡,光,幽,栗,黄,屁 (13 点)"
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碍◯【評】ポルノ小説とドジョウがややつくような気もするけど、まあいいや。ポケットにポルノ小説押し込んで、手ぶらで出かけた先がドジョウ掘りだなんて、なんという、生に貪欲な男! たくましい句。

波◎【評】ポルノ小説とどぢやうの組み合わせが素晴らしい。ぬるっ、つるっ、どろっとしていて可愛いようなちょっと汚いような、ポルノ小説の文庫本のニュアンスをしっかりすくっているように思った。

朧◯【評】小説の中の人がどじょう鍋を食べる。どじょう鍋をつつく仲の二人は、そのあとでうーんといやらしいことをしそうだ。精もつくし、どじょうをつるんと食べる女の口元を見た男はいてもたってもいられない。

凡◯【評】韻律の揃え方も含めて心でこしらえた俳句ぽいけど、ポルノ小説もまあそうだしいいか。いや、ポケットから出させたら案外高尚な文学でね、「こんなのポルノですよ」という批評だったりね。

光◯【評】さっきまで読んでたポルノ小説のせいで、つい粘膜を連想させるぬるぬるを纏った食材を選んでしまったっていうね。うなぎよりどじょうの方が俄然エロい。どこでも入れそうだし。やあねえ。

る◎【評】個人的には、あんまりポルノ小説をポケットに入れて持ち歩かない気がする。つまり、この人はプロのポルノ読み。どじょうは本当に掘っているというより、ポルノ小説の読み応え自体を言っているのかも。

幽◯【評】ポケットにそんなものを携えてるところをみるとどじょうのことそんなに好きではないのではないか。そんな温度感のある食材ですね。言うに事欠いて食べるポルノとか言いだしそう。

栗◯【評】どじょうといえば、谷崎がうかんだ。谷崎に憧れ、谷崎のような好事家老人が女性との情事にどじょうを使う、隠微なエロ小説を外套のポケットに隠す男。実際、谷崎はどじょうが好物だったそう。重層的エロ。

森◯【評】どぢやう掘るという季語に感心。ポケットの中で陰部をまさぐっているのかと思った。

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156 漱石を供に倫敦冬鴉    甘噛 (噛)
"地,子,麗 (6 点)"
"地地,子子,麗麗,朝,白,好,帽 (10 点)"
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子◎【評】冬のロンドン、コート、文庫というのがかっこいい。

好◯【評】漱石の倫敦は冬のイメージが強いですよね。全体的に付き過ぎ感はあるけど、忌日や人物の句はそれでいいのでは。

白◯【評】なんだか雰囲気が出来すぎてて、っていう気もしたのですが、文庫ってそういうのを引き受けられるな、って思ったので。

地◎【評】ちょっとかっこよすぎて、いけすかないけど特選。その漱石は何度も読んでボロボロなんでしょう?ますますかっこいい。

帽◯【評】季語にもう少し距離がほしいし〈を供に〉は少々隙アリながらシチュエーションが好き。

麗◎【評】漱石で倫敦(ロンドンでなく!)で冬鴉。かっこいい。ロンドンでこそ、漱石の文庫を読みたいよな、とも思うし、ロンドンの曇った空は鴉がよく似合う気がする。

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157 茶けた背の青背読みけり黒ジャンパー    炭余分 (炭)
智 (1 点)
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智◯【評】色だけの勢い。よれよれの文庫を読むよれよれのジャンパーが浮かびます。

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158 感冒や指栞して廁まで    藤幹子 (幹)
"光,珍,く,平,智,じ,雪 (14 点)"
"光光,珍珍,くく,平平,智智,じじ,雪雪,妹,碍,鯖,酒,ん,林,爽,茅,夕,猪,珈,帽,藤,千,屁 (29 点)"
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妹◯【評】文庫なら厠まで指栞で連れて行ける。でも、連れてくときっと厠で読んじゃうから、感冒なら、枕元で留守番させて、ぴゅっと行ってぴゅっと帰るのがいいですよ。厠、寒そうだからこじらせちゃう。

酒◯【評】熱で横になっている時って、食事排泄くらいにしか立たないし、具合悪くても本は意外と没頭して読めちゃったりする。下痢を俳句にせんでも…とも思ったけど、よほど面白い本なんだろうなと納得。何読んでるんだろう?

珍◎【評】「指栞」できて病床で読めるサイズ重さの本なら文庫に相違なかろう。達者。うますぎ。「感冒や」がやや説明調なのが気にはなりましたが、ひと目で特選。

碍◯【評】風邪引いてお腹こわして、ベッドとトイレを行ったりきたり。でも本だけは手放さない。具合悪くても夢中になって読めちゃう、そんな本との出会いがうらやましくて、選。

林◯【評】「指栞」は、辞書で見つからなかったけれど、俳句で時々使われるのでしょうか。赴きのある言葉ですね。七・五がとてもいいので、上五はもう少しさりげなくてもいいのかな。わからないけれど、何となく動く気も。

爽◯【評】感冒のときに読んだ本って忘れない気がする。しかも厠まで連れて行くんだな。健康になる前に読み切った方がいい気もするけれど、養生してください。

茅◯【評】なんだか不安なんですよね、風邪の時のトイレ。寒いし。それでなにかしら持って行っちゃう。全部の単語が古めかしいのに嫌みじゃなくて好きです。

ん◯【評】指でしおりは文庫本ならでは! 風邪でしんどいけど、おもしろいからトイレまで連れてっちゃう気持ちわかります。本の影響受けて句まで文語調に?

平◎【評】身体つらいんだけど、まぁゆっくり本読めてラッキー、みたいな。で、面白いからもうトイレにも持ち込んじゃう、みたいな。情景も描ききれてるし、侘しいんだけどなんか楽しそう。こういうユーモア欲しいなぁ。

智◎【評】弱っているはずなのに、夢中になって読み切ってしまいたい。「感冒」と「指栞」の字面がよいなあ。

夕◯【評】具合悪くて布団の中で読む文庫本。トイレ行きたいけど中断したくなくて指栞でそのまま行く。持っていた所でそんなに読めるわけじゃないのに。でも気持ちわかる。

光◎【評】体調崩して、休んで過ごす時間のなんと贅沢なことか。実はたいしたことないので、つい積ん読を手に取って、もうトイレまで一緒。薄くしあわせなかんじ。少しだけ非日常の幸福感が好きだ。

鯖◯【評】「鼻風邪や指栞してトイレまで」だと採らなかっただろうか?だとしたら何故?字数が多くて恰好悪い?上五下五共に「か」な事が大事?昔風なのが良かった?どうなんだろう。

じ◎【評】そんなでもないことをここまでカッコよく言われちゃねー、特選にしちゃうわー。指栞するのはいいんだけど、ズボン下ろす時ちょっと手間ですよね。

凡選外【評】取りのがしたかなあ。最初は「当たり前」にみえたんだよね。風邪ひいたから文庫くらいしか読まない(だから厠までしか運べない)のが。いい句だ。でも厠という割に洋式ぽいよね(でないと指栞で運ぶ意味が)。

帽◯【評】季語が状況説明になってるのが惜しい。そのせいで句の柄がちっちゃくなっちゃったなー。中七下五がくっきりしてるのでいただき。

く◎【評】「文庫」と言ってないのに文庫感がある!と思って特選。指栞っていう言い方をはじめて知ったけど、いい言葉だな。これも風邪ひいたとき思い出しそう(つかえる!)。

藤◯【評】「感冒」という言葉の語感が、なんだか本の中から帰って来れないときのぼんやりした感覚を思い起こさせる。でもトイレに行かないわけにはいかないのだ。

千◯【評】指栞、という言葉を初めて知った//。字面がいいなと思った。どんな本を読んでいるのかも想像してしまう。

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159 狐火や胸の谷間に『罪と罰』    碍子 (碍)
"C,ひ,鯖,茅,穂,森,虎 (7 点)"
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鯖◯【評】「文庫にしても乳でっけ!」と最初は思いましたがそれはそれとして、「読んだのは単行本でも胸の内に収まるのは文庫の形なのかもな」と考えたことないイメージが発生したので並選。

ひ◯【評】腹に一物、手に荷物、胸に邪な奸計を廻らせながら、実現の可能性と倫理との間を逡巡している感じ。女の人って怖いなぁ。

茅◯【評】試されてる感じしますね。でもついて行っちゃうんだろうな。

穂◯【評】そこだけ妙にぼんやり明るく見えて、ああ、いかんいかん! という逡巡が『罪と罰』に出ている気がした(字面だけで小説の内容は関係なし)。その女性、狐が化けているのかも…。

C◯【評】カッコイイ。何をしたんだ?怒らないから言ってみなさい。聞いたらドン引きしそうな事を言いそう

森◯【評】胸の谷間に(個人的に)クローズアップしすぎて意味はよく分らなかったが、それこそこの句の意味するところかなと選。

虎◯【評】「狐火や」の妖しさから中七下五へと語選びに隙がない!のに、この女は隙だらけっぽい!という、その計算されつくしたゆるゆる感に撃たれてしまいました。かっこいい。清らかな娼婦ソーニャのイメージ?

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160 初雪は安吾を買って出れば止む    山科 (科)
"幹,爽 (4 点)"
"幹幹,爽爽,幽,凡,ふ,は,蓬,鯖,酒,好,丼,数,黒,帽,噛 (17 点)"
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幹◎【評】そう決めていればそうなのである。すごい説得力。誰かに言ってみたい。

鯖◯【評】「初」だからすぐ止む可能性高そうだし止まない雪はないのだし「あの雲を超能力で消す」的な手口だな。なんのためだよ。

ふ◯【評】動じなさ、はしゃがなさ、に打たれた。(たぶん割と薄着)

は◯【評】「安吾」というところに妙に納得させられる。実際やったらできそうな気さえする。

酒◯【評】あっ、そうか。「初雪の」じゃないから、本屋出たら止んでたヨーという描写ではなく、予言や宣言の類なんですね。(ですか?)読み違えてました。…となると、安吾が、座ってるようにも、座ってないようにも…

丼◯【評】安吾を読むことも雪を気にせず進むこともかっこいいと思う。止むというのは、気にせず進むことの宣言と読んだ。

爽◎【評】なんでこんなに断言できるんだろう。でも妙な説得力。かっこいいな。浅蜊の句といい、押しが強いのに弱い気がしてきました。

凡◯【評】今はいない文学青年の言葉みたいなフィクションぽさが新鮮。安吾が動くか動かないかってところで、この句は勝ったね。

幽◯【評】何の因果なの?と頭を捻る前に言い切られて「ああ、そうか、初雪止むのか」って思っちゃう。安吾という選択もベストな気がします。

数◯【評】何故かわからないけど安吾なら有り得る。安吾の世界観が、こちらの世界にまで何か影響を与えそうな…そんな力が表現されている

黒◯【評】初雪にも目をくれず、安吾を買いに行くなんて超クール。書店から出て雪が止んでても「あ、止んだんだ」ぐらいの感じだし。この手の人は異性より同性にモテるぞ。

帽◯【評】〈は〉をうまく断言して使ってる。既成事実の報告というより「初雪なんて安吾買ってるうちに止むさ」という決めつけの感じ。新刊書店でなく古書店の店内から外の降雪に気づいてのひとことととりました。

噛◯【評】「止む」と言いきるハードボイルドな感じと初雪のはかなさの対比が良いなと。この人多分少々の雨や雪では傘ささないタイプだな。

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161 レモンエロウ題名ままの表紙かな    渡邉朧 (朧)
"子,鶴 (2 点)"
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子◯【評】読んだことないけど見たことある名作というのは画として記憶にある。この句は読んだ瞬間に、においたちそうなくらいあの黄色が目の前に広がった。

鶴◯【評】レモン色だけ。そんな表紙が本当にあったら素敵だなと思いました。

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162 手のうちにしなる表紙やわが睦月    雪 (雪)
"炭,科,妹,酒,好,知 (6 点)"
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妹◯【評】文庫だけを片手に(お財布とか携帯とかはぜんぶポケットに入れて)お散歩するのが似合いそうなひと。このひとのまわりは、陽射しがぽかぽかあったかそう。

酒◯【評】なんか、シュッとしてる。この人は自句自解とか高得点句への嫉妬とか、しなそう。かっこいい。(なんだこの評…)

好◯【評】文庫だということが「手のうちにしなる表紙」で分かる。「わが睦月」ってなんだかとてもかっこいい。岡井隆っぽい?

炭◯【評】文庫本を「しなる本」と表したのに「おおっ!」と思った。「わが睦月」の「一月を持っている」ような言い方も凄い。

知◯【評】文庫という言葉を使わず文庫と分からせ、わが睦月がかっこいい。「わが」使ってみたい。

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163 終電車コートのポケットには「こころ」    波平 (波)
"夕,千 (2 点)"
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夕◯【評】胸ポケットだったらタイトルと場所が重なって素敵だなと思いました。同じような憂鬱を抱えてるのかもしれない。もしそうだったらもう一層重ねて。

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164 ケツポケにあるは安吾か探梅行    紀野珍 (珍)
"林,碍,ち (3 点)"
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碍◯【評】尻ポケットに安吾に探梅行! 三拍子そろってカッチョイイ! こんな爺むさくない探梅行、初めて見た! ただ、「ケツポケ」という言葉は避けてほしかった。俳句だからこそ、略語はあんまり使いたくない。

林◯【評】ポケットでなくあえてケツポケ。男二人で山野をうろうろしているのか。桜ならぬ梅の幻想に取り付かれそうなシチュエーション。「探梅行」がこわい季語に思えてくる。

ち◯【評】略語がうまくはまった俳句はあんまり知らないのですけれど、安吾と配されたケツポケは無頼っぽくていいかも。探梅行の季語が幻覚っぽくてさらに安吾感が高まる。

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165 文庫本革ジャン着せて旅支度    ちねり (C)
"は,里,ん (6 点)"
"はは,里里,んん,妹,ふ,屁 (9 点)"
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妹◯【評】文庫カバーを「着せる」って発想はありそうだけど、「革ジャン」にしてるのが、旅の友みたいでいいな。せっかくだから、おまえにも一張羅着せてやるよ相棒、みたいな、いい間柄。

ふ◯【評】この人にとって、本はまさしく“友”なんだなあと。お揃いの革ジャンで旅に出る、うきうき感がよく出てる。(当然バイクで!)

は◎【評】お供は文庫本、革ジャンを着せる、というところが大人の旅っぽくていいな、と。文庫本も心なしか喜んでいるように感じます。

里◎【評】かぁっこいいー!!きっとバイクの一人旅。バービーに服着せるのとは訳が違う。文庫に革ジャン着せる!なんてかっこいいんだ。「かっこいい」以上に何も言えず、文句なく特選。

ん◎【評】一番最初にいいと思って特選に。好きな本と「一緒に」旅に出る感じが好きでした。革ジャンが似合う文庫本を考えるのも楽しいなと。

屁◯【評】本への愛着が、てらいなく、ストレートに表現されているのに好感もちました。

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166 寄せ鍋や父の文庫の小さき字    トモサダ (友)
"凡,珈 (4 点)"
"凡凡,珈珈,子,好,黒,ん,爽,珍,芽,茅,白,光,幽,ち,帽,黄,麗 (19 点)"
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好◯【評】昔の文庫の字はほんとに小さかったですよね。この句の「父」はもうこの世にはいない感じがします。「寄せ鍋」は違うのでは?

珍◯【評】父親が卓上に伏せた文庫本を子が取り上げ、「うわー字ちっちぇー」と。むかしに比べればだいぶ大きくなったのだよ、という説明をどこか誇らしげな表情でする父。そんな場面が見えました。

爽◯【評】帰省中ですかね。文庫の小さい字をみてちょっと安心したのでは。

芽◯【評】久しぶりの帰省で鍋を囲み、食べ疲れたし、ふと父の本棚から古い文庫を抜き出して見る。「うわ、こんなに小さいのかー。それに安い!」って驚く姿を微笑んで見る家族。いつまでも子供は子供なんです。

茅◯【評】年をとった父との会話がなくてどうにか見つけた糸口が古い文庫だったんでしょうか。冬の籠もった空気と文庫のかび臭さ。

白◯【評】寄せ鍋がよくわからなくもあったのですが、実家に帰って、久しぶりに家族みんなで寄せ鍋。手持ちの本がなかったから本棚を覗いたら…ってことかな。

凡◎【評】今回、本の中身を語った句は苦戦したと思う。文庫を物として扱った句ばかり選んでしまった。これは地味に更新されていく景色を無理なく句にしてる。

光◯【評】食卓まで本を手放さぬ父。母に行儀が悪いと怒られて仕方なく伏した文庫の文字の小ささに「大人」を感じる、幼き日の自分。父の印象と情景とを綺麗におさめていて美しいなあと。

幽◯【評】この字は、父が文庫に書き込んだ小さい字、と解釈。ただでさえ小さい文庫に書き込むのは相当なもの。父のちまちました性格を、寄せ鍋で思い出す様子が見えました。思い出って妙に些末なところだったりするし。

ち◯【評】お父さんのことを思い出しているのかな。今は自分が家族を持って鍋をしている。父はそう言えば愛読書を食卓にも持って来るような人だったな、って。鍋の湯気に一瞬現実がかすんで、ふと昔を思い出す。

黒◯【評】岩波文庫だろうか。昔の文庫は字も小さければ紙も薄く、今見ると読みづらくて仕方ない。本棚の時間が止まっているあたりに父の不在を感じる。寄せ鍋は実家の定番料理なのかも。

珈◎【評】ウチの家族は私たち三姉妹と母を合わせて四人の女が絶えずしゃべりながら食事のしたくをしていたのだけれど、その間、父は黙ってテレビを見ているか、本を読んで待ってるんですよね。開高健とか読んでたな。

帽◯【評】父が現前してるかどうかはともかくこの文庫本は古いと取った。むかしの文庫本は字が小さくページのまんなかにぎゅっと寄ってて黒い感じ。季語の家族っぽさも頼もしい。

麗◯【評】実家に帰省。母親は鍋を用意してくれて、「鍋、できたよ!」と声をかけてくれるも、自分は父親の本棚から動かずそこにある本を読んでいる…、という景色が浮かんだ。距離感がいい。

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167 うたたねの文庫枕に春近し    ちこ (知)
二 (2 点)
"二二,波,炙,数 (5 点)"
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波◯【評】文庫を読みながらごろごろしているのは、幸せなことだ。この光景は比較的多くの人が思いつくことものかもしれないが、小さくても確かな幸せを感じて、私は心が動いた。

数◯【評】うたたねできるくらい暖かくなって来たから、春が近いんだろうな。そういう自然な流れがいいと思いました

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168 なつのひかり80ページのような笑い    かとちえ (千)
鯖 (2 点)
"鯖鯖,幹 (3 点)"
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鯖◎【評】「読みたくなる句」という観点からどんな事が書かれているか気になってしょうがないこの句が特選。もし80が適当な数字ならキライだけど本当だと信じてる。575じゃない調子もなぜかしっくりきた。

幹◯【評】書名も知らないのにとってしまった。どんな笑いかもわからないまま、私の中に架空の「なつのひかり」という本が作られてしまいました。

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169 ななななな四十七の三を買う    しっぽ (ぽ)
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炭選外【評】「四十七の三」って何かと思ったら、「パラレル」の整理番号か!挨拶句でもあり、着眼点に一本取られたので、選びたかった句でした。

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170 書棚にて太宰の隣にエロマンガ    箱 (は)
"崖,光,る,数,雪 (5 点)"
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崖◯【評】私にとってエロマンガは夏の季語です。くはがたを採りに夏の森に向かうと、なぜかエロマンガが散らばっていました。それらを拾い集めている純粋な少年が状態の良いものを持ち帰ったんでしょう。

光◯【評】人間だろうこれが。見せ本棚とか構成しないのまじかっこいいっす。

る◯【評】この「エロマンガ」は長嶋さんの「エロマンガ島の三人」、つまりこの場への挨拶句と理解しました。それなら太宰の隣でも違和感ない。というかエロマンガの文庫って少ないし。さりげない挨拶句でいいと思う。

る◯【評】この「エロマンガ」は長嶋さんの「エロマンガ島の三人」、つまりこの場への挨拶句と理解しました。それなら太宰の隣でも違和感ない。//

数◯【評】なんか太宰の隣ならいいかなって思っちゃう。太宰だろうがエロマンガだろうが本だし、みたいなこだわりのなさが潔い

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171 雪明かりベンチで凍っている文庫    小嶋智 (智)
"百,朝,碍,珍,和,麗 (6 点)"
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碍◯【評】ベンチの上の凍りついた文庫本にばかり目が行くけど、本には人間がつきもの。そう、ベンチの下には、帰る家もないまま静かに息を引き取った哀れな凍死体が‥‥、という叙述トリック句。なわけはないか。

珍◯【評】文庫ならこういうこともあるだろうなと。どこかに飛んでいったカバーには「\100」の値札がついているのでしょう。もの悲しいより滑稽さな句として読み、選。たぶんこの人、書名たしかめに行かないしね。

麗◯【評】しんとした景色だなと思う。この文庫本の中には、どんなお話が眠っているのかな、とも。忘れ去られた本と物語の存在を強く意識して、(日常にもそんな忘れ去られた物語らがたくさんあるよなと思って)選。

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172 さらば夏の光よ棚の奥にさす    栗人 (栗)
"藤,千 (4 点)"
"藤藤,千千,ふ,林,茅,平,ひ,地,雪 (11 点)"
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ふ◯【評】長く愛読していたであろう本をついにしまう“行為”、夏の光=青春に別れを告げる、日差しも日に日に弱まり…、といくつものイメージが重なる。どこか淋しくもあるが、ぐっと上を向いた“決意”に胸をつかまれる

林◯【評】知らない作品だったけど&季語的には夏の句になってしまうのだろうけど、他の本の間に封印されたように埋もれている様子に味わいを感じて選。若い時代への決別、みたいな印象を受けました。

茅◯【評】もうたぶん読まない(し、記憶のトリガーになるからあんまり見たくない)けどとっておきたい本ってありますよね。かっこよいタイトルをかっこよく使っていて切ない。

平◯【評】不定形な韻律が決断っぷりを引き立てる。夏が終わり、本も片付け、秋の西日は棚の奥まで射し込む。そこにあった言葉たちを思い出す。本のタイトルと情景、気分を素敵に絡めてて巧いなあと重った。

地◯【評】かっこいいタイトルだな。「奥に」ってどうなの?もう読まないのか。でも手もとに取っておきたい本。文庫だから場所も取らない。ちょっとせつない感じもするけど、新しいなにかを見つけた人の句にも思える。

藤◎【評】書名がいちばんうまく使ってあると思う。本を棚の奥にさすと同時に、ほんものの夏の光が棚の奥をさっと照らす感じがとてもすてきです。

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173 我が輩も猫であればとこたつにて    なご (和)
"じ,C,夕,里,は,二 (6 点)"
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夕◯【評】猫はいいよなーと一緒に猫とこたつにあたりながら。のんびり羨んでる感じが好きです。

里◯【評】漱石も猫も好みませんが、古い作品のチョイスが説明なくとも「文庫だ」と思え、名作とコタツという相反しそうなものがうまくまとまっているのもいい。なにより自分も「猫であれば」と思ったので選。

じ◯【評】我が輩っていう人が猫になりたいってとこがかわいい。もうすでに猫っぽい。かわいい。

C◯【評】人間の足がつっこまれた中に入ってくる猫。考えてみれば不思議な動物。

は◯【評】猫ならこたつに居座っても許されるし、歌にもなる。冬だけは猫になりたいと思ってしまった。

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174 新潮が並んだあたり爪研ぎ場    ミホノフ (穂)
"ち,屁 (4 点)"
"ちち,屁屁,藤,噛,丼,珍,子,智,里,栗 (12 点)"
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珍◯【評】今回「猫」句(あと「君」句)はばっさり切ったのですが、本句は「猫」を用いず猫を見せていて、かつ猫を持ち出す必然性も感じ、選。ページに閉じ忘れた紐がね、やつらを喜ばせるんですよ。

丼◯【評】凹凸のある新潮文庫の天を猫が爪を研いだ跡、とみる面白さに選。

ち◎【評】猫という語を出さないで、猫の句。文庫の語そのものを出さないで、文庫感。削ぎ落とし方が大好きでした。

里◯【評】本に詳しくない私でも、「新潮が並んだ」で見事に単行本でなく形状の揃った文庫と想像できました。これも猫句だけど、上中句のうまさで選(猫句好きでないと言いつついくつ採ってるんだ)。

栗◯【評】言葉をそぎ落としてるのに、見事に本棚で爪を研ぐ猫の姿が浮かぶ。ノラや、か、タマや、が並んでてほしいけど、新潮文庫じゃなかったか。本と猫の関係も読み込んでいて、なおかつすっきり嫌味がない。

噛◯【評】確かに本屋さんで目当ての文庫を探すときって人差し指でツツーっと進んでいく!それを爪研ぎ場って表現するのを思い付いたのが凄い!って感動。って思ってたんだけど猫句?猫句なの?

藤◯【評】紙の色がいいのか、なにかいいにおいでもするのか。たしかに、たくさんの文庫本を並べてみたら、ねこまっしぐらなのは新潮文庫であるような気がする。

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175 上巻を入れて下巻を出す鞄    レゴ黒木 (黒)
"崖,帽,朧,ひ (8 点)"
"崖崖,帽帽,朧朧,ひひ,智,蓬,珈,幹,鯖,凡,く,ち,地,科,黄 (19 点)"
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崖◎【評】無季ですね。一瞬、若い頃の寺澤一雄さんの句かと見まごう句だと思いましたが、こういう時、一雄さんならきっと季語を入れます。が、とても良い句だと思います。

ひ◎【評】即の再読を行いたくなるほどの本に出会えた喜びが伝わってくる。スジを追うのに夢中で、改めてディテールを味わいたかったのか、読み落した伏線を確認したかったのか。古い鞄に幸せが詰まっていそうだ。

鯖◯【評】それが仕事のために仕方なく読んでる上下巻かもしれないのに絶対に幸福な読書体験だと思ってしまうのはなぜだろう。わざわざ俳句にしてるっていう前提があるからかな。

朧◎【評】読書の体験を本当にそのまま言っていて特選。これだけの言葉でも「面白い本を読んでいる」って伝わるんですね。

凡◯【評】鞄のサイズが気になる。他もたくさんのものが入ってる鞄か、それ「しか」入ってないのかも。絞れないけど、想像が楽しい。人の鞄の「中身じゃなくて」量って気になるよね。え、って思う。

ち◯【評】本を必ず持ち歩いてないと不安なわりに、読むことはあまりない。同じ本の上下を常に出し入れして重いかばんであることに満足して通勤電車に乗っている。お守りか!

地◯【評】上下巻の切り替えってむずかしい。常に2冊持ってる。おもしろい本なんだろうな。出先でも続けて読みたくなるような本。家に帰ってからじゃあダメなんだ、今すぐ続きを!

珈◯【評】出かける前に「さては今日のどこかで上巻を読み終えるな」と意気込んだ予想をして下巻も鞄に入れてきたと思うとかわいらしい。上下を入れ換えるとき「ほらー予想どおりー」って誇らしげにするところまで見える。

帽◎【評】季語・切れがないので川柳っぽい。でも読み終わったというできごとを鞄からの出し入れで伝える具体性は俳句のもの。

く◯【評】ちゃんと2冊持って来てることにぐっときた。上巻を読み終わってすぐ下巻に手が出るほど夢中で読んでたのだな。これも言ってはないけど文庫本ぽい(けど重い単行本を2冊持ってたらさらに面白いなと思って並選)。

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176 光文社古典新訳文庫かな    幽樂坊 (幽)
"百,友 (2 点)"
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177 先生とハヤカワ貸し合う冬休み    るいべえ (る)
"朝,白 (4 点)"
"朝朝,白白,ん,妹,ふ,酒,波,芽,炭,穂,凡,和,里,百,黒,森,虎,屁 (20 点)"
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妹◯【評】この子(根拠はないけど)いい子だなあ。先生から一方的に借りるんじゃなくて、貸し合うのがいいな。先生と生徒の良好な関係もいいし、誰かと誰かが仲良くしてるところを見るのって、ただただ嬉しいな。

ふ◯【評】そうそう、先生と仲良しの子っていた!先生と共有しているということの“ちょっと大人”な優越感と、新しい世界の扉を開けるのが楽しくて嬉しくて仕方がない女子高生。

酒◯【評】調子もまるで中高生が詠んだかのようで、これを大人が詠(んだのだとすると)むことの良し悪しはわからないのですが(回想だとちょっと魅力減か)、「本読みならではのクスス感(?)の共感」に共感します。

波◯【評】宿題で作ったみたいな句なのに、本当に子どものときの宿題では、こうは作れない。先生とハヤカワ貸し借りしている時点ではその子どもはそんなに素直じゃないからだ。大人だから出来る率直さに惹かれた。

芽◯【評】ポケミスに関しては先生にも負けない、と。この先生は国語の教師じゃない気がします。ちょっと生意気なことを言っても本に関しては許してくれるので、背伸びしちゃうお年頃かも。

白◎【評】一方的に借りるんじゃなくて「貸し合う」のがいい。もしかしたら先生のはちょっと古いやつなのかも。休み明けに話すのが楽しみだな。そしてまた借りよっと。

穂◯【評】先生が自分と同じものを観たり読んだりするなんて思ってなかった! ウキウキが表れている。夏休みは長過ぎるし春休みだと感傷が絡みそう。冬休みなら気楽な「貸し合う」にぴったり。

里◯【評】カタカナの「ハヤカワ」も文庫ですね。このチョイスも青春っぽくていい。先生と本を貸しあうちょっと大人びたドキドキ感。「夏休み」だとあたりまえすぎる。「春休み」だと別れの予感。「冬休み」ベスト。

ん◯【評】なんかうらやましくなるくらいの屈託のなさ。先生と生徒の健全な友情バンザイ!

黒◯【評】「ハヤカワ貸し合う」がいいですねえ。中学生ならSF、高校生ならミステリを貸し合っているのであって欲しい。他のクラスメイトにはこのことは秘密。

炭◯【評】年上の人と趣味を分かち合うのって、羨ましいなあ!貸し合っている生徒のほうも尊敬してしまう。あと下五は「冬休み前の終業式」と読んだけど、「冬休み中」だと仲良すぎじゃないか?と勘ぐってしまう。

森◯【評】文庫の貸し借りって丁度よい。自分の分身が、鞄にポケットに寝所に忍びこむことができる。返ってこなくて全然構わないのだが、次また貸し借りしたいがためだけに返してもらうんだろう。

虎◯【評】文学少女っぽさがじゅわーっと全体から立ちのぼってきて、きゅんきゅんしてしまいました。ハヤカワミステリなのもいいですね。私は女子生徒と読んでしまったのですが、生徒が少年の可能性もあるのかなぁ。

屁◯【評】夏休みじゃ早いんだよな。確かに冬休みなんだよな。こういうことできるようになるのって、と思いました。やったことないですが。

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178 花柄の書皮掛けられし蟹工船    ちよ (地)
数 (2 点)
"数数,帽,ち,朝,虎,蓬,酒,丼,白,和,光,珈,は,炭,森,二,知 (18 点)"
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酒◯【評】前回句会の90度話を思い出す「真逆すぎ」さも若干感じつつ、でも、実際にそれを見たら、クスッと思って句にしたくなってしまうよな、と思って取りました。風刺・抗議的な意図を読み取らない方が面白いですね。

白◯【評】なんというか、もう「蟹工船」が擬人化して文庫の長老になっているみたいで、そうなってくると何を着せられても広い心で受け止めているよう。

光◯【評】無造作に花柄だったのだろう、と読み取って、からりとした笑いを感じた。「何読んでるのー?えええ!蟹工船!?」「あれ、カバー花柄だったか!間違った!」みたいな。

ち◯【評】花柄はリバティみたいなのではなくて、昭和の湯沸かしポットみたいな花柄だったら、とっても雰囲気合う。蟹工船がバリ引き立つ。

数◎【評】可愛いカバーだなって覗き込んだら「蟹工船」えぇぇ!ってなると思う。「蟹工船不本意なんだろうなって…不憫な「蟹工船」を思って特選です

は◯【評】一瞬、似合わない!と思ったけど、ものによってはかえって似合うかも。本側としてはどうかという感じですが。

帽◯【評】花柄と『蟹工船』のギャップはややベタ過ぎて評価できないけど、書皮の〈皮〉の字が『蟹工船』の怖い内容に合ってる。構文は失敗。〈掛けられて〉だったらよかったのに。

炭◯【評】中身とは裏腹なカバーに、戦前の思想規制を逃れて本を読んでいるような不穏さが浮かぶ。でも現代だと気付かれてもしょっぴかれることは無し。びっくりされるだけだ。

森◯【評】装丁が気になってググったら今のは、オレンジと黒ベースで、工場の煙突やクレーンの影がデザインされててフォントも含めいわゆるプロレタリアートポスターのそれ。で、初版も調べたら全面赤ベースでグッときた。

虎◯【評】「花柄の書皮」というところから、読んでいるのは若い女性、蟹工船というあたり、非常に真面目な人なのでは。作者はこの彼女ではないような気がするのですが、どうやって書皮の中身がわかったか考え中です。

知◯【評】花柄のカバーの中身は蟹工船。その対比がよかったです。読んでいるのは、女の人。

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179 外は雪ハードカヴァーの文庫本    好餌 (好)
"芽,朧 (2 点)"
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芽◯【評】すぐ浮かんだのが岩波少年文庫でした。外は寒く家の中もしんしんと冷える古民家に、もう家を出て行った古書の持ち主も立派な壮年になっているでしょう。でも帰ればそこに居場所がある。

朧◯【評】ハードカバーの文庫ってあるのかな、と検索したら岩波少年文庫がひっかかりました。これが手元にあったら句にしたくなるだろうな。

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180 君の名をちくまの月に問う寒暮    レエベマン (爽)
"噛,波 (2 点)"
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波◯【評】これ実はちょっと良く分からなくて、ちくま文庫の背表紙とかいろいろみてみたのだけど、まだ分からないから作者に聞いてみたいな。だが、選ばれた言葉の美しさと力にひきつけられて選。

噛◯【評】最初は題名を入れただけの句かと思っていたんだけど、ちくまの月が、筑摩書房の月刊PR誌のことか!って気付いたら(違うかもだが)、文庫しばりそしての句になってる!おお!と感動したので。

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181 ラノベだと僕の顔見て決めつけて    じょーじ (じ)
"C,穂,鶴,妹,舘,炙,光,数,麗 (9 点)"
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妹◯【評】ラノベ読んでそうな顔なんだろうな。カラオケで、みんなの知らない曲入れると「アニソンね」って決めつけられるひとだ。でも、目立たないところでモテてそう。あと、こういう主人公がいそう、なにかの。

穂◯【評】「じゃあなに読んでんのよ。ほらーやっぱラノベじゃん」そして文庫の蘊蓄を力説する男子。「僕」「決めつけて」から男子のイメージが膨む。こんな学生生活、いいなあ。

舘◯【評】どんな顔だろう。でもそんな顔なんだろうなぁ。ブログとかに「僕わビックになるょ」とか書いちゃうとか?いやぁ見てみたいなぁラノベ顔。妄想が止まらない楽しい句です。

光◯【評】そういう種類の謂れのない差別をいきなり受けることが少なくないのでね、同病相哀れんでしまってね。

C◯【評】銀英伝十二国記ラノベなの?

数◯【評】ちょっと背伸びした男子とかに「お前はどうせ読んでんのラノベだろ」とか言われる時代あるね。でも、意外な人が意外なもん読んでんのよ。きっと

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182 大寒や湯沸き漱石指しおり    珈琲 (珈)
"猪,穂,る,じ,は,炭,知 (7 点)"
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穂◯【評】暖かいのはこたつの中と湯の周りだけ。シュンシュンと蒸気が上がり、どてらを着こんだ丸い背中で「指しおり」しながら火を止めにいく。部屋の隅にはホコリが転がって…。幸せな冬の一日。

じ◯【評】大寒と湯湧きが二物衝突(になるのかな)。湯湧きからの3語のリズム感が好き。でもコタツで読んでるなら指しおりしなくてもいいんじゃないか?なんか、みかんとかで。

は◯【評】伏せればいいものを、指しおりして本は離さない。その状況を楽しんでいる感じすらする。名作だとなんとなく、そんなこともしたくなる。

炭◯【評】もう一つの漱石の句と悩みましたが、大寒から指しおりまで、遠景からズームインしていく様が好きでこちらを選びました。この湯はカップラーメンを作るための湯だと解釈しています。一人暮らしのイメージ。

知◯【評】指をしおりにしてこたつを出るところを想像しました。寒い日に昔読んだ「こころ」あたりをもう一度読んでいるところ。独身男性。

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183 本読まぬ母の三冊細雪    白豆 (白)
"友,芽 (4 点)"
"友友,芽芽,舘,蓬,雪,丼,珍,穂,凡,ひ,鶴,千 (14 点)"
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友◎【評】本をそんなに読まない人の(あるいはかつては読んでいたがもう読まなくなった人の)愛読書ってとても気になる。もちろんその人の人柄を知っていて初めて興味を抱くのだが。長編ゆえの説得力もあり。

丼◯【評】吉永小百合がいいわー、とか、映画観た勢いで買っちゃったのかなと。多分読んでない。でも仲の良さそうな親子関係が良いと思い選。

珍◯【評】「しばり」が弱い句は避けたのですが、これは分冊で新潮文庫版を指していてうまい。「三冊細雪」は字数合わせの不自然さがなく、実際を句にしたんでしょう。『細雪』が本嫌いの駄目押しになっていたらおもしろいな。

芽◎【評】家事や家族の世話に忙しく「本なんて読む暇ない」母。この本だけは好きで手元に置きたいんだろうなぁ。母は四姉妹の誰と自分を重ねているのか…。母を愛おしくおもう子の視線が優しい。

穂◯【評】映画公開時のブームに乗って買った三冊。表紙に傷みアリだが読んだ形跡なし。でも捨てずにある。中身も大事だけど本自体が大事ってこと、あります。で、意外と特別な思い入れはなかったりして。

凡◯【評】(ちがうんだろうけど)雪を季語と捉えて○。細雪が降る中、母親の文庫本に気付く瞬間ってだけで、良いんじゃないか。

舘◯【評】町内会の舞台観覧が細雪。一応原作を読んでおこうと買ってはみたがまさか三冊も読まなきゃならないとは…で結局手付かず。でも埃は被ってない。だから母はいつかは読むつもりなのね。

ひ◯【評】春琴抄じゃなくって、瘋癲老人日記でもない。老眼が進み、正直、文庫は読みにくいけど、本そのものに思い出があるのでしょう。

鶴◯【評】母の愛読書を知った時、「母」でない部分を見た気がして、どきどきします。細雪にも、なにか歴史がありそう。

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184 死ぬことと見つけたりなむ杢ノ助    疲労飽き (ひ)
栗 (1 点)
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栗◯【評】時代小説はくわしくないのですが、杢之助の名はおぼえがありました。武士道の世界は、冬の雪の夜にこそ読み込めるのかな。ゴーストドッグの静かなバイオレンスも感じて、◯を。

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185 山眠る猫は文庫を枕にし    有理数 (数)
栗 (1 点)
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栗◯【評】冬の季語(調べて知った)なんですね。雪の別荘で、「山猫」の原作本を枕に寝る、猫の姿浮かびました。 優雅な冬。

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186 休日の創元推理文庫かな    くにこ (く)
黄 (1 点)
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187 「自炊」するキミにはあの日の『キッチン』を    朝顔 (朝)
"炙,C (2 点)"
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C◯【評】おかずなしご飯のおかずに美味しんぼ

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188 鏡文字細雪かしら夜の車窓    平ん (平)
"噛,林,栗 (6 点)"
"噛噛,林林,栗栗,猪,知,麗 (9 点)"
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林◎【評】ボックス席で、右隣に居合わせた乗客が本を読んでいる。表紙がその右の窓に鏡文字になって映っている。静かな叙情があって好きです。鏡、雪、夜、窓の美しい取り合わせに、「かしら」が愛嬌を加えてる。

栗◎【評】電車の窓に映る、前に座る乗客の文庫本の文字。鏡文字が読めそうでなかなか読めず、吊革につかまりながら、ようやく「細雪」らしき人名のられつを確認する。幸子、雪子かしら。冬の日常の美しさを感じて特選に。

噛◎【評】夜行列車、細雪読んでるのは訳ありそうな美女。勿論一人。車窓も端の方は曇っていてその向こうは雪。って想像がどんどん膨らんでいく。声かけてこの後身の上話聞いて欲しいな。でも話しかけにくそうだ彼女

知◯【評】夜の汽車の旅。窓に映る文字がたまに見えて細雪かな、と思う。お互い一人旅でしょうか?汽車の旅してみたい。冬に。

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189 文庫本伏して凍蝶動かざる    十猪 (猪)
炭 (2 点)
"炭炭,る,丼,碍,波,は,林,爽,芽,白,舘,黒,科,友,屁 (16 点)"
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丼◯【評】文庫本を開いたまま伏せると蝶に似ているという発見だけで選。羨ましい観察眼。

波◯【評】伏せた文庫本を凍蝶と重ねたということと、たしかに動かざる蝶がとまっている、どこか死の香りがする光景が、静かでいてスリリングに思えた。素敵です。

林◯【評】開いたまま伏せられている文庫本と、凍蝶は少し「つきすぎ」なのかな?とも思ったのですが、二つとも冬の寒さの中でしいんとしている雰囲気が好きで、選びました。まるでお互いの擬態をしているよう。

爽◯【評】その姿が見えたときに、うわっとなりました。すごい。読めば蝶、動きますよ。

芽◯【評】これはもうそのままで美しい。きっと外で読んでおられるのか、温かいものでもとって来ようと席を立ち、戻った時に見たそれを凍蝶としたセンスがすごいです。

白◯【評】単行本だと伏すのにちょっと…と思うので文庫感がでていると思いました。大きさも小さめだし。何かの間に読んで、放っとかれるのも似合う。

舘◯【評】最後まで特選にするか迷いました。美しい句です。とても静かな一瞬。死の誘惑がある。美しい死なんてないけどあるように錯覚させる。参りました。大好きです。

黒◯【評】美しい句。この人は文庫本を伏せてどこへ行ってしまったんだろう。待ち合わせの相手が来たのか。ベンチに忘れ去られた文庫本は凍蝶になる。

は◯【評】静物画のような光景は想像しただけで鳥肌が立ちました。最初から最後までやられた!という感じ。

炭◎【評】伏した文庫本を「蝶」としたのが凄い。「蝶」にしたことで文庫本がグレードアップされて、和紙で作られた豪華なカバーが掛けられているのが見えた。その喚起力が凄くて特選。

珍選外【評】「凍蝶」が文庫本を指すのだと思うけど、なら上五の「文庫本」は不要かなーと思い取れず。取ったうえでそれを指摘してもいいが…と最後の最後まで煩悶した句。

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190 薄紙の文栞まで数頁    左麗 (麗)
"茅,く,二 (3 点)"
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茅◯【評】もともと入っている栞を最初に取り出さないで読み進めていて栞に近づいていくと紙がうまくめくれなくて栞のところが開いちゃう。薄紙ならよけいでしょう。

く◯【評】そうそう、栞まであとちょっと、っていうところを栞を取り出さずに読むのって結構たいへんですよね。栞の存在感をいちばん感じる部分かも。(文庫感は…あまりないかな?)

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"191 『ての小説』、と話すお方と新年会"    百枝 (百)
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