第三回【なんでしょう句会】分評 壱

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65 ぼた雪やベッドですする三分粥    あら丼 (丼)
"友,二 (4 点)"
"友友,二二,珍,波,崖,珈,数,妹 (10 点)"
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崖◯【評】最高ですね、雪が降ってるなかで、ベッドですする粥。この人、病気じゃないと思います。惰眠をむさぼった後の、さらなる怠慢だと思います。人としてどうかと思いますが、だが、それがいい前田慶次風に)

妹◯【評】三分粥しか受け付けないとなると、ノロかインフルか、よっぽどの思いしたんだろうな。でも、すぐ融けそうなぼた雪の印象からか、このひとの具合も、快方に向かってるし、三分粥も美味しく食べたように思う。

友◎【評】熱で頭がぼーっとしているときの、自分の身体のままならなさを思い出した。「白さ」と「水分量の多さ」を同時に言えるなんて、巧い。

珍◯【評】「分」の使い方がうまい。熱でボーッとしていたら、ぼたぼた落ちる雪くらいしか見るもんありませんよね。焦点の合わない目で機械的に粥を口に運ぶ様子が見えるようで、よいです。

波◯【評】ぼた雪の淡さと、ぼんやりと熱にうかされいる状態と、とろりと水っぽい三分粥、全体に遠く色彩が薄く美しい句と思いました。

珈◯【評】ぼた雪の「テンション上げなくていい」ところと、かろうじて米が溶けてるていどの三分粥のしかたなさが、本当の大人の休日っぽい。

数◯【評】ぼた雪と三分粥ってなんか似てる気がする。ぼったとした三分粥食べながら窓の外見てるんだろうな。静かな句

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66 節分の鬼九分九厘白樺派    帽子 (帽)
"好,虎 (4 点)"
"好好,虎虎,酒,智,芽,藤,科,猪 (10 点)"
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酒◯【評】なんでしょうこれは。取ったら負けと思いながら、手が勝手に丸をつけていました。取った言い訳をするなら、ただのウケ狙いとは違う、得体の知れぬ「不穏さ」がそうさせた、ということでしょうか。正調な読みを知りたい。

好◎【評】 わはははは。ナンセンスだけどもしかしたらそうかも、と思っちゃうところががすごい。「仲良きことは美しき哉 鬼」とか色紙に書いてる鬼。

智◯【評】九分九厘ですよ。そうとう自信がありますよ。「そ、そうか。そうだよね」と思ってもいないのに同意してしまいそう。節分の鬼だからよいんだろうなあ。

虎◎【評】白樺派=理想的かつ実践的生活者のイメージ。そこが、節分の鬼=家族のために行事をきちんとこなす日本の正しいお父さん、という姿とぴたりと重なる。漢字の過密感からも「九分九厘」の口調からも揶揄が感じられて◎。

芽◯【評】「いかにも良いお父さんを演じていらっしゃるのね」ってちょっとはすに見て、「どうせあいつ白樺派だからな」って言い放つのです。面白いなぁと思いました。

藤◯【評】人道主義・理想主義で個性尊重の小説をね、書いてるんですよね鬼が。好きな絵はもちろんゴッホゴーギャンセザンヌ。たたずまいや普段の言動から白樺派に違いないというような鬼なら、うちにお招きしたいです。

科◯【評】意味が分からないのに、断言されると納得してしまう(「白樺派」について皆さんのような深い解釈が出来なかった……)。言葉の使い方から、これは推敲に推敲を重ねた句だ、と思った。「分がさね」なのもかっこいい。

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67 分かち合う想い根雪のごとくなり    有理数 (数)
"知,丼,炭 (3 点)"
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丼◯【評】過度に甘くならずに愛を語るのが好感がもてる。雪という冷たいもので表現するのも面白いと思った。

炭◯【評】「分かち合う想い」は恋人同士に限らず、夫婦、友人同士にも当てはまる。でもこの句はその「同士」から距離を置いているようだ。その間に入れないことへの、ちょっと嫉妬心も見える。

知◯【評】ずっと溶けずに残っている雪のように、二人の結びつきは深いけれど、熱くなく静かな感じがいいと思いました。

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68 分銅の震え収むや寅彦忌    鯖好き夫 (鯖)
"幽,黒,波,林 (8 点)"
"幽幽,黒黒,波波,林林,好,る,炭,酒,崖,碍,虎,穂,く,友 (18 点)"
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酒◯【評】分銅から一句しか取るまいと思ったわけではないのに、これを見たら他の分銅句が霞んでしまいました。無機的な分銅と幻想的な中七の両立が、いかにも寺田寅彦。分というお題から着想したとは思えない名追悼句ですね!

崖◯【評】手練れの句ですね。忌日俳句は難しいけど、1本だけ細い線があって、それを知ってる俳人がいます。私はいまだによくその線が分かりませんが、こうやって作ってもらうと、そうそうあったあった! となる。

好◯【評】分銅と寅彦忌の組み合わせは「これしかない!」という感じ。歳時記の「寅彦忌」にはこの句を(こればっか)。

黒◎【評】まだ忌日の扱いがよく分からないんだけど、分からないなりにこの句はカッコいい。カッコよくて説得力があるから○。「寅彦忌」の磁場を感じる。

碍◯【評】「天災は忘れた頃にやってくる」の物理学者寺田寅彦先生に分銅を配して、しかも「分」のお題でこれって、巧みすぎる!まさに脱帽の上級句。ただ、分銅って、物理じゃなくて化学じゃないかしら‥‥、と思って並選。

虎◯【評】物理学者である寺田寅彦先生の忌日における天秤の景。「震え収むや」に静謐な緊張感があって際立って美しい。一幅の絵画のように感じられました。寅彦忌、大晦日なんですね。盆暮れ関係なく実験している研究室の風景?

林◎【評】部屋の中の寒くて森閑としていて何か精妙な空気が伝わってくるのと、分銅のレトロ理系な感じが寅彦に似合っている気がして(イメージ)。今回分銅の句が多くて意外に思いつつ、この句が一番キマッテル! と思いました。

波◎【評】○○忌が入っている俳句って、おお俳句!という感じがするのだが、正直自分の実感とは遠くて憧れたままでいた。その良さがなかなか分からなかったのだ。が、こういうことか!と何かを自分がつかめそうな気がした。感謝。

穂◯【評】言葉のチョイスというか組合せがお見事と思う。うまく言えないのですが、情景を表現するのではなくて、こんなふうに言葉の組合せであれこれできるってかっこいいなという憧れを込めて選びました。

幽◎【評】分銅がいくつかあったけどこれが最高でした。自発的に始まった震えがなぜか収まるという因果不明な状態(忌)と、理化学的なニュアンス(寅彦)とがうまく解け合ってる。

る◯【評】忌日の句として、分銅と寅彦は離れすぎずつきすぎず、絶妙の距離だと思う。「震え」を繊細にとらえたところもうまい。

炭◯【評】忌日が入った句はこういうものだという手本の様な句。「うまい!」と思った。「震え」から去年の地震の記憶も浮かび、ライブ感もある。

く◯【評】かっこいい!「〜忌」のつかいどころを教えていただいた。「分銅」も「震え収むや」も「寅彦忌」も全部キリッとした冷たさを感じさせる言葉だけど、重なってさらに静謐さが際立っていてすごい。

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69 各人の分岐綾なし今日が来る    朝顔 (朝)
"屁,噛,珈 (3 点)"
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噛◯【評】一日は自分の一日だけどそれは他の人の一日でもあるんだよなと当たり前に分かってはいるんだけど、忘れがちなそのことを再認識。ドリカムの「朝がまた来る」と中島みゆきの「糸」が脳内に流れてきました。

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70 一分も保たずに果てり閏月    百枝 (百)
"森,黒,波,藤 (4 点)"
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森◯【評】調べたら閏月って太陰太陽暦で3年に一度挿入する月のことですってね(閏日しか知らなかった)ともかく挿入、性交の話。周期が長いがゆえに高まる期待とそれも原因の残念な結末。閨房の「閨」と「閏」って似てるよね。

黒◯【評】男は往々にして「早い=ダメ」の固定観念に囚われてるけど、これは「初めて」結ばれた二人のキュートな句でしょ。好きすぎて...ってやつ(めぞん一刻の五代くんのことも思い出して!)。毎回早い訳じゃないの。

波◯【評】渾身の早漏句。身を削ってらっしゃる。閏月とかいって、滅多に無いことなんだとの言い訳込みで、「うるう」という言葉の響きも、どこか潤んでいるように感じて、私は愛しく思いました。早くても別に大丈夫だから。

藤◯【評】光陰矢のごとし。いつもより余分に時間があるような気がしても、ぼんやりしているうちに消えて無くなってしまうんですよね。「果てり」という言葉のせいで、時間って生きたり死んだりする生き物みたいだと思った。

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71 15分岸和田言葉流れけり    ちねり (C)
"子,幹,平 (3 点)"
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子◯【評】毎朝見てるので反射的に。あれは良い15分。

幹◯【評】シンプルですが、作中主体の岸和田への何らかの思いや、恐らくラジオから流れているであろう声、それに耳を傾けた15分という時間など、次々と具体的にあらわれてくるようでした。

平◯【評】例えば電車の中で、定食屋で、聞きなれた言葉がだーっと聞こえてきてふとそっちに気をとられてしまう、そんな情景が岸和田言葉って言葉選びにも感じられて、朝のアレ以上のものに思えました。お題の使い方も良い!

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72 寒空や渋谷へ響く四分休符    炭余分 (炭)
"ふ,ひ,茅 (6 点)"
"ふふ,ひひ,茅茅,百,好,黒,C (10 点)"
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ふ◎【評】スクランブル交差点の騒音に、四分休符がかえって音として響くイメージ。渋谷のよどみに冬の澄んだ空気を吹き込んでくれるようですがすがしい。待ちながらみんな、晴れ渡った空をまぶしく見つめたりするんだろう。

好◯【評】音符じゃなくて休符というところがいいですねえ。渋谷という場所が不思議にぴったりです。公園通りをNHKに向かっていく感じ。

ひ◎【評】雑然としたセンター街を歩いていると、いろんな音楽やいろいろなおしゃべりが聞こえてくるけど、それらのノイズが偶然収まった瞬間。偶然なのか、それとも誰かと出会ってそんな風に感じただけなのか。予感めいた情景。

黒◯【評】先に断っておくと、音楽はさっぱり分からない(音がならないという印のことかな?)。でも、渋谷という町には音楽用語が良く似合う気がして○。←いいのかそんなことで

茅◎【評】音符の句は考えたのですがそうか休符か!と。四分休符って体感時間結構長い気がする。何か音が消えるくらいのすごくいいこと思いついたんじゃないでしょうか。

C◯【評】音符とかズルイっす(選んじゃうので)。ツェルニーの余韻がのこっているので並どまり。

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73 肉まんを半分に割る美術室    サトミ (里)
"酒,栗 (4 点)"
"酒酒,栗栗,藤,朝,碍,崖,鯖,は,百,幽,ち,白,凡,じ,猪,帽,知,二 (20 点)"
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酒◎【評】大袈裟ですが、口語で現代市井のモチーフをまだいくらでも詠めるんだな!と改めて思わされました。放課後青春感の類想はあるかもしれませんが、自分で他の教室にいろいろ置き替えてみて、美術室の絶妙さにも感心。

崖◯【評】25年前の高校生の言葉でいえば「カップル」ということになるんでしょうか? 私は美術部でもあったので、実際にやってる二人を見ました。別の食い物ですが。「畜生、甘酸っぱいことしやがって」(最強伝説黒沢風)

鯖◯【評】「爽やかな青春」ととるか「出てくる単語ひとつひとつからしてことごとくドエロ」ととるかですが、ぼくはもちろん爽やか派です。さわやかさわやか。

は◯【評】美術室のなんともいえないゆるさは、中にいる人まで包み込むかのようです。私は女子同士のダラダラした感じを想像しましたが、カップルとなると話は違ってきます。まあいずれにせよ、学生イイナーと。

碍◯【評】放課後の美術室で、美術部の女子(部員は彼女だけ)がキャンバスに向かっていて、そこに男子(まだ告白してない)が入ってきて、「まだ絵描いてんのかよ」とか言いつつ、肉まんを半分に割って‥‥、甘酸っぱすぎる!

幽◯【評】青春とか思いもよらなかった男子校出身の僕に隙は無かった。肉まんを腑分けして切断面の油絵を描いているシュールな光景が面白くて選びましたよ!(本気で思いいたらなかったことにちょっとショックを受けている)

ち◯【評】放課後なんですね。なにか活動中の部室じゃなくて、適当な日の部室。いごこちがいいところでいごこちのいい人と過ごしている様子が目に浮かびました。同性二人か、と。

白◯【評】たぶん「あんまん」もあるんだと思う。いっこずつ買って、イーゼル越しに半分ずつ交換。まずはおかずっぽい肉まんから。(元美術部員より)

凡◯【評】学生はあんがい作れない学生句(俳句の写真と似て違う一面がある)。うまく俳句にできたってことに作者は少し怯んでいい。……とかいってJD、JKの句だったりしてな。だと思った!←手のひら返しの練習今から。

じ◯【評】寒そうな景色と肉まんと、それを分ける温かさがほどよいと思いました。

藤◯【評】みんな大好き少女漫画の世界!だるまストーブひとつぼんと置かれた美術室で、肉まんを半分に割るのは彼氏彼女でもいいし、女子ふたりでもよい。男子ふたりはちょっと想定外だけど、別にそれでもいいです。

栗◎【評】白衣姿でカンバスに向かい、ちょっと疲れてパン屋で買ってきた肉まんをほおばる。半分に割るのは自分のため。中身を確認したいのだ。その寒さと冷静さに特選。まるでかつての自分を覗かれたようで恥ずかしさもアリ。

知◯【評】予備校で絵を描いていた頃を思い出しました。きたないお風呂椅子に座って友達とパンとか食べていました。でもこれは高校の美術室で男女ですね。青春。

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74 冬空に見送る影はふたり分    けば名人 (ふ)
朧 (1 点)
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朧◯【評】冬の青空は雲がなくて、「影送り(という遊び)」をするのには格好だ。1人だとさみしい子だけど、ふたりならそんな地味な遊びにつき合ってくれる友達がいてよかったね、となる。お母さん安心だわ。

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75 小春日や分厚いトーストゆびで押す    渡邉朧 (朧)
"百,妹 (4 点)"
"百百,妹妹,鶴,鯖,は,智,林,炭,じ,和,数,知,二,麗 (16 点)"
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鯖◯【評】はじめて泊まった朝、普段食べているより分厚いトーストを出され彼女がコーヒーを注ぎに振り返った隙に「厚切り派なんだな」となんとなく指で押してみる。「どうかした?」「ん、いやなんでもない。それよ……

妹◎【評】トーストしてあるパンの表面を指で押したい、と思ったことないけど、確かに、分厚いパンって、押したくなる。押してる指や、トーストの茶色や、へこんであいた白い穴が、パッと浮かんで、すごくしっくりきた。

は◯【評】小春日、分厚いトースト、どちらもいつもとはちょっと違う感じ。となれば、指で押してみたくもなる。

林◯【評】小春日のほのぼのと弛む気持ちと、焼きたてのトーストを食べる幸せは、そういえば似てる。休日のブランチかな。気前よく四枚切りで、バターのっけて。「ゆびで押す」でパンのふっくらとした豊かさが伝わった。

炭◯【評】いつもより暖かく感じた日に、気分でうかつにトーストを押してみたり、 いつもしないことで遊んでみたくなる感じ。遊んでる様を誰かに見られないよう気を付けて。

じ◯【評】小春日も分厚いトーストも、ちょっとためしてみたくなる。朗らかなかんじがして好きな句です。下5がいろいろ試行錯誤できそう。

数◯【評】今日は暖いなぁって、ご機嫌でトーストふにふにしちゃてほんわかだ。日差しまで感じる句です

凡選外【評】これもだけど、真ん中だけが堂々と字余りで、でも人気句がすごく多いな。「厚い」じゃなく「分厚い」ってところが「いい」って意見もあるだろう。でも作者は七文字で作ることも検討してみて。

鶴◯【評】この幸せに負けました。ひそかな喜び。

知◯【評】日曜の朝、のんびりいつもと違って分厚いトーストを食べています。ゆびで押してみたりして。小春日の幸せな日曜日。分厚いトーストが食べたいのです。

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76 弟の分度器すこし春めけり    はやし (林)
鶴 (2 点)
"鶴鶴,波,幽,幹,妹,ふ,碍,雪 (9 点)"
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妹◯【評】分度器の句のなかでいちばん好き。もうすぐ、弟の学年もひとつあがって、ちょっとだけお兄ちゃんになる。学年のおしまいの時期だけど、教室が変わることへの名残惜しさや寂しさが感じられなくて、好きだなあ。

幹◯【評】分度器句の中ではこれが一番と思いました。ふっと弟の成長を意識する瞬間。

碍◯【評】お姉ちゃんはもう小学生じゃないのね、で、家の中でふと弟の分度器見て、あー懐かしー、あたしも小学生時代があったんだ、なんて回想にふけっちゃったりなんかして、もうすぐ春。かわいらしい青春句。

鶴◎【評】世界が春めくと、なにもかもが春めく。分度器さえも。春めくは直接分度器にかかっているわけではないと思いますが、新学期の教材たちがみんな誇らしくキラキラしていたことを思い出しました。

幽◯【評】分度器ネタではこれがいちばん好きでした。分度器が春めく、というのはなんか具体性はないのにありそう。「弟」による幼さ成分の補完も春に効いてる。分度器が半透明なのも無関係ではないはず。

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77 分からない式解く君の指だけ見    左麗 (麗)
"じ,芽,ん,森,舘,和,光,栗,珈,二,屁 (11 点)"
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森◯【評】彼女の指の動きは数式よりも滑らかで美しい…ってぼっと見とれてる。図書館で一緒に勉強中、もしくは教室で気になるあのこを眺めててもよい。学力差は歴然、後はその手をいかにして握るかしか答えは残されてない。

芽◯【評】憧れの女生徒に数学を教えてもらっているのかと。あまりに指が華奢できれいなので見とれているから、肝心の数学はちっとも頭に入って来ない。顔を見つめるほど大胆にはなれない。

舘◯【評】男の指に色気を感じるわたしには顔より指を見てしまう気持ちがよく分かる。もしかしたらその指に恋したのかしら?学校に女しかいなかったわたしには非常に羨ましい青春。

じ◯【評】なに勉強してんのかなって覗いてみるんだけど、ちょっと分かんなくてそのまま立ち去った句。アホらしい青春っぽくて好き。

光◯【評】賢い(しかも理系の)彼女の指にぼうっとなってしまっている馬鹿な男子学生の愛しさが表れている。先端てなんとなくエロいしなあ。青春の幻想とそれに悶絶する気持ちがなんかもうかわゆうてかわゆうて。

栗◯【評】これも学生時代をよんでるが、よりかわいい、というか青い。フレッシュ。 もしかして最近まで学生さんだったのか。黒板に正解を書く、若い数学教師の指がキレイなら惚れるなあ。

ん◯【評】「君」は眼鏡かけてそう。理系男子萌え。大人でも成立するかも。でもやっぱり高校生かなあ。

珈◯【評】教えられてるのにこのうわの空っぷり。強く共感。おそらく主人公は、話にうなずきながら脳内で「君」との結婚生活を展開させているのだろうな。

屁◯【評】もう、「分からない」がすっごくはっきりと見えます。なんというか、カメラの位置が秀逸だと思います。

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78 分度器に三角定規かさね雪    マオリ (森)
"鯖,碍 (2 点)"
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鯖◯【評】分度器の句がいくつかあったなかでこの句のノスタルジーやらなんやらを極限まで削ぎ落とした棒のようなソリッドさがクール。共感なんて感情反吐がでるぜ!

碍◯【評】分度器とか三角定規とか目にあててウルトラマンごっこ。分度器とか透明に見えるけど、微細な傷がついてるから、何枚も重ねると白く濁るのね。それを靄とか霧ではなく、雪としたところが、なんというか切なくていい。

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79 言い分のありてシンクに白き葱    波平 (波)     
"猪,ち,噛,珈 (8 点)"
"猪猪,ちち,噛噛,珈珈,は,丼,雪,碍,茅,平,穂,幽,る,数,科,知,黄,千,友 (23 点)"
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丼◯【評】そばに入れるなと言ったのに入れて出された葱が残されて捨てられている。冷たい感じが強く伝わってきた。

碍◯【評】奥さんに立て板に水でとっちめられて、反論できないままに台所で洗い物するふりして逃げた旦那さん。そんな夫の姿に、まっすぐで真っ白な葱が、良く似合います。取り合わせの妙に、選。

茅◯【評】言い分が!と言いながら意地だけだってこともわかってる。もやもやとネギのまっすぐさ。葱は剥いてるとこかなとおもいました。筋が縦にすーっと剥けてまっすぐ感あるので。

ち◎【評】言いたいことをぐっとがまんする大人の女。台所に行って相手に背を向ける。葱の白さが目に染みて泣きそうになるけどこらえている。白、彼女は潔白だけど大人だからぐだぐだ説明しない道を選んだ。

噛◎【評】言い分はある。あるけど言わない。言ってもどうせしょうがないし。そんな ことよりもこの葱どうやって調理しようかしらって思ってる。うまい具合に旦那さんをコントロールしてる三蔵法師タイプ奥様。

穂◯【評】その光景を見て当人だけがピンとくる。そんな親密な感じも表れている気がして好きです。言い分を言われた方はニヤリとしたか「う…」と詰まったか。しかしいったいどういう事情なのだろう。

幽◯【評】言い分があるほうがキッチンに立っていて、無言なんでしょうね。白い葱がその言い分を一身に受けてる。夫婦間の緊張と、ネギいいかんじに弛緩させていて、面白い構図。

る◯【評】修羅場である。台所という密室で、静かな怒りに追いつめられる。言い分はある。でも、言えないのだ。泳いだ目が葱に吸い寄せられる。視線誘導が見事な句。

は◯【評】読むほどに深さを感じます。歳を重ねるとより一層身に沁みてきそう。

数◯【評】葱の根っこのとこを育ててるので、悶着あったのかなと思いました。「貧乏臭い」とか言われてちょっとムッと

科◯【評】「言い分のありて」は、「あるけど言わない(まだ今は)」という意味だと思った。静まり返った台所。シンクの銀色と、そこに立てかけられた葱の白が、ともに寒々とした空気を感じさせる。

凡選外【評】皆、言い分句がずいぶん好きだなあ。「言い分のありて」の先をさらに検討するのを無駄とは言わないけど、そろそろさぁ、という気持ちで。

珈◎【評】「言っても伝わらない」とぐっと堪えて台所に立つ。流し元灯に照らされ横たわった白い葱も何も言わない。 なんというか、「自分勝手な我慢」をよくするので、とても共感しました。

知◯【評】言い分があるのに我慢しているのは女の人かなと思いました。ピカピカに磨いてあるシンクに白い葱。寒い冬の日です。

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80 分度器もち測るものなし初時雨    凡コバ夫 (凡)
"爽,千,友 (3 点)"
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爽◯【評】そういえば自分が分度器を使ったことがないとこの句で知った。みんな何をはかってるんだろう。初めての雨と、分度器の「はかってなさ」。

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81 分度器に傷のいろいろ春近し    よもぎ (蓬)
朧 (2 点)
"朧朧,ふ,朝,碍,好,丼,林,ち,炭,芽,舘,る,科 (14 点)"
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好◯【評】分度器にノスタルジーを感じる人は多いんですね、私もそうだけど。「傷」に着目したところが好きです。季語は無難、かな。

丼◯【評】高校受験を控えて復習に励んでいると思い出の残る分度器が。傷の分だけ努力すれば良き春はもう近くに来ている。

碍◯【評】もうすぐ小学校を卒業。何年も使った分度器には、傷がいっぱい。ノスタルジックだけど、分度器なだけに甘すぎにもならなくて、バランスのとれた句。

ち◯【評】 一般人なら青春時代にしか使わない分度器(たぶん)。分度器の傷の分だけ、3年間の思い出がよみがえる。「傷のいろいろ」の「の」の使い方がかっこいいです。

炭◯【評】進級前に文具整理してる時の句ですかね。傷に気付く子なら、「この傷は教科書の何ページ目のやつだ」とかも覚えてるはずだ。ぼろぼろで新しい分度器を買っても、古いのは引き出しに入れててごちゃごちゃしてそう。

芽◯【評】卒業を控えて改めて分度器を見ると、細かい傷がいっぱいできていた。下手すると目盛りも擦れて消えかかっているのかも。これで消しゴム切ったりしちゃったしなぁー。

舘◯【評】卒業したら使わないものリストの中の一つ。授業でしか使わなかったのに不思議と傷がある。傷に思いを馳せていてもそのうち分度器というものの存在すら忘れてしまう。甘酸っぱいなぁ。

朧◎【評】美術予備校に通っていた時代、分度器の薄さ、かたちは、粘土立体の「面を出す(表面をつるつるにする)」のに絶好のツールであった。普通に分度器として使うよりはるかに早く傷だらけ、でも受験ももうすぐ終わり。

科◯【評】プラスチックにできた無数の傷が、陽光を受けて白く輝く。眩しいけど寒そうで、まだ春の日差しじゃない。その輝きが「春近し」で表現されている。「春近し」という季語の趣深さを感じた。

凡選外【評】分度器の傷はすべて擦り傷なので「いろいろ(な種類)」ではない。傷の多さや、なら正確な言い方だ。いろいろな「位置」なら「の」ではない。…欠けたり溶けたり穴の空いた分度器を見せられて「参りました」かも。

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82 分けられた版の重なり冬いちご    ちこ (知)
"夕,屁 (4 点)"
"夕夕,屁屁,地 (5 点)"
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夕◎【評】写真をCMYKに分版した時のわくわく。赤黄青黒なのに重ねると目に鮮やかに赤がハッとする感じ。それが冬いちごならうれしい。(好きなので)

地◯【評】印刷俳句だ。わたしもこういうの詠んでみたいと思ったので○。どうして4色しかないのにいろんな色がでるのだろうね。わかってるのに不思議でおもしろい、そんな気分の句。

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83 牡蠣を割る分厚き唇の男    崖元 (崖)
"舘,碍,蓬,地 (8 点)"
"舘舘,碍碍,蓬蓬,地地,ち,科,酒,幹,好,珍,穂,里,夕,栗,鶴,知,友,屁 (22 点)"
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酒◯【評】牡蠣と分厚い唇は「つきすぎ」との指摘もあるかもしれませんが、実感が勝っているように思いました(そういう男を見たんでしょうね)。コミカルさorシリアスさや、その男への好悪を「託さなくていい」句だと思います。

幹◯【評】ホームズの短編とは違いますが、分厚い唇、というだけでそのパーソナリティにいろいろ思い巡らせてしまいます。(アナゴさんかも…)

好◯【評】牡蠣と分厚き唇のとりあわせ、とてもいいと思います。ドカジャンにゴム長のおっちゃんかな? 磯のにおいが感じられますね。

珍◯【評】自分が「分厚い」を句にしきれなかったのもあり、うまい、お見事、と。唇かあ。黙々と仏頂面(いい顔)でいつもの作業をこなしているからこそ、唇にまず目がいったのだろう。たぶんあんな顔だな、うん。

碍◎【評】全体にほわほわした感じの句が多い中で、異彩を放つ、このリアリズム! おそらく中年以上の漁師さんなんでしょうね。分厚い唇を引き結んで、黙々と牡蠣を割っている。潮の香りと汗の臭い。これぞプロレタリア俳句だ!

ち◯【評】好きだ!牡蠣をワイルドにがしがし割ってくれて、唇が分厚いのであれば、他に必要なものは何もない!最強の男だ。誰にも渡したくない。こんなワイルド男の句をもっと!(*´ρ`*)ホワワーン

舘◎【評】分厚い唇、好き。そんな男が貝を黙々と割り続けているなんて、もう好きにしてちょうだいとしか言えない。色気を最も感じたので特選にしました。大好きです。

穂◯【評】水産加工業の男性が作業をしているよ、という絵を浮かべたらなんてこともないが、牡蠣、割る、分厚き、唇、男、と言葉が並ぶとなんだかとても…濃厚なイメージ。これ以上はここでは書けないわ、ふ。

里◯【評】唇の分厚い男はきっと、指も太くて胸板もがっちりなんだろう。でも養殖業の男は、ばくち打ち的な漁師とは違う、どこか繊細なところがありそう。色々想像してしまいますね(ゴクリ)。

夕◯【評】牡蠣小屋で炭火で焼けたばかりの牡蠣を黙々と割っては食べ割っては食べる男。熱さを気にする様子はないけど運ばれる唇は熱で火照っていつもより厚い。ハードボイルド!その一瞬。

栗◯【評】牡蠣にナイフを入れる姿だけでもエロいのに、唇が分厚いなんて。生命力もあり、エロ俳句としては特選にしたいんだけど、もうちょっと音感にだわってほしかった気も。

栗◯【評】//エロ俳句としては特選にしたいんだけど、もうちょっと音感にだわってほしかった気も。

地◎【評】全部の言葉が力強い。なんだかわからんがすごいぞ!の特選。お「おでん」の菩薩の反対側にいる分厚き唇男。共通点はもの静かな所。牡蛎の殻を割る音だけがガシガシ聞こえる。

科◯【評】牡蠣殻の質感が伝わってくる。「牡蠣」と「唇」。「2つのものが重なっているもの」を詠みつつ、牡蠣は開いて唇は閉じている(多分)、という対比が見事。

鶴◯【評】牡蠣を割るという行為と、男を描写するものが唇だけ、というところから、作者のドライな視点がうかがえて好きでした。どこか寂寥感のある句。

知◯【評】牡蠣を割ってじゅるっと食べている日焼けした唇の厚い男。男らしい。イメージは佐藤浩市。アナゴさんではありません。

友◯【評】牡蠣の殻のゴツゴツした感じが、男のイメージをうまく作ってるんだろうな。ちよさんが言ってましたが、たしかにどのイメージも強い。

蓬◎【評】人相だけで人格を決めつけるのは早計か、だけどこれは物静かで強面な男としか思えない。で、実は顔に似合わず繊細な感受性の持ち主だったりして。妄想を尽きさせない道具立てとひそかに繰り返す「る」のリズムで特選。

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84 言い分があるならば聞く玉子酒    レゴ黒木 (黒)
"白,芽 (4 点)"
"白白,芽芽,智,蓬,噛,崖,朧,和,珈,雪,黄,屁 (14 点)"
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崖◯【評】言い分も想定されてるし、反論がすでに用意されてるから、話そらしますよ、俺なら。もうね、日を置くしかないね、こうなったら。ってなんの話だっけ? あ、そうそう、玉子酒が効いてます。諧謔ってこういうもんだ

智◯【評】圧倒的に強くて迫力がある師匠、今日は風邪気味で玉子酒。いつもほどびびらずに言い訳できそう。やっぱり怖いんだけど。

噛◯【評】この人聞くって言いながら絶対言ったら怒るタイプだ。玉子酒だって作ってもらってる。勝手に79の句で対にしてキャラ設定して楽しんでました。亭主関白然としてるけど本当はそうさせて貰ってるんだよー

芽◎【評】「とにかく今は風邪を治せ!」ですよね。かなり怒ってますよね…親vs子供でも妻vs夫でも恋愛中でも何でも成り立って物語が広がって行きそうです。放蕩娘でも良いかも。愛があって良い。

白◎【評】「言い分があるなら」聞くよーっていいつつ、玉子酒を作るのに慎重で、気持ち半分って感じがよかったです。

朧◯【評】せっかく玉子酒だしたのになんか面白くない話を切り出された。玉子酒って風邪とかのときに飲むものだよね、優しくするべき相手に優しくできないシチュエーションがドラマを生みそうだ。

珈◯【評】黙って台所に立った相手に何か言い分があることをこたつに残されたこの人は実はわかってる。...と、シンク葱句と同じ世界に読みました。玉子酒に頼りなさを感じる(だから今この人に言ってもしょうがない)。

屁◯【評】飲みたいって言うから、作ったことないけど一生懸命作ったんだよ。誰がなんと言おうとこれが玉子酒なんだから!と、こちらは何も言ってないのに、なぜか喧嘩腰の彼女。玉子酒のチョイスですでに一点

蓬◯【評】中七の滑らかな響きが好きで。滑らかなぶん「聞く」と言ってる人がおっかない気もするけれど、玉子酒の温かさが中和してくれてるような。

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85 ストーブの音分銅の薄きかな    トモサダ (友)
凡 (2 点)
"凡凡,茅,ひ,蓬,科,珈 (7 点)"
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茅◯【評】薄い分銅を注意深く持って集中すると、気にしていなかったストーブの音がきこえてくる。感情もフラットで冷静なんだけどあったかい。

ひ◯【評】寒い夜、熱いストーブ。温度差の熱膨張で、突然、音が出て、びっくりする。静かな夜と不意の金属音が素敵だ。

凡◎【評】薄いと思ってなかったことを言われた驚き。そういう驚き句の中でも、驚かせたことに気付かないままの人もたくさんいそうな地味な佇まいが格好いい。句のド真ん中で転換するのも「天秤」を再現してる。

科◯【評】シンプルな物言いが好き。耳で聞いているものと目で見ているものを詠んでいるのに、両者が対立していない。クローズアップされている薄い分銅と、低く響いているストーブのBGMが調和している。

珈◯【評】そうそう、分銅って、字面に似合わない繊細な薄さですよね。慎重に扱おうと集中している様子が、「ストーブの音」で伝わってきました。

蓬◯【評】分銅の句が多めだったのは、古びた薄い金属の端正さが冬によく似合うせいかも。ストーブが視界にはなく音だけで登場することで、思い浮かべた天秤にピントが合う。

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86 砂嵐黙って蜜柑の小房分け    みつん (光)
"は,藤,知 (6 点)"
"はは,藤藤,知知,朧,爽,子,ひ,白,和,地,炭,猪,鶴,雪,麗 (18 点)"
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子◯【評】こたつに入っている。場を持たせていたTV放送が終わってしまった。そのままただ蜜柑を食べる。静寂が苦ではない関係の親密さ。

爽◯【評】迷いましたがテレビの砂嵐だと受け取りました。砂嵐ということはアナログなんだろうな。映らないテレビをつけたままあっけらかんと食べる蜜柑。ざーっという音と房を分ける音。

ひ◯【評】コタツでテレビを見ながら蜜柑を剥いている。君が代の後の砂嵐。リモコンに手を伸ばすのも億劫。そもそもテレビは点いてるだけで見てはいない。蜜柑も食べたい訳じゃない。物憂げな夜だ。

白◯【評】テレビが砂嵐になっても、蜜柑をついいつも通りの食べ方で。どっちも逆らえない時間、みたいなものを感じました。

朧◯【評】機嫌わるそうな雰囲気で好きです。小房をわけたら白い筋もとるんだろうな。他にすることないから。

藤◎【評】テレビの放映が終わって砂嵐がザーザー言ってても、リモコンに手を伸ばさない。ひとり蜜柑を小房に分けているが、食べない。砂嵐は吹き荒れ、小房はむやみに増え続ける。たいへんよい光景です。すばらしい。

地◯【評】年末から正月にかけてかな。別にどこにも行かないし、なにもしない冬休み。テレビも終わったのに、だらだらと蜜柑をむく。もう一個くらい食べるんじゃないか、この人は。それくらいのだらだら感が伝わります。

炭◯【評】「砂嵐が黙る」からテレビ放送開始の早朝かと思ったけど、砂嵐は数分放送されてすぐ暗転するのを思い出した。だから深夜の自分の時間の句か。なんか羨ましい。

鶴◯【評】消せばいいのに。眠すぎて、だいぶ脱力しているのでしょうか。蜜柑食べながら、一瞬意識とんだりしていそう。なげやり感をとらえていてすごいなと思いました。

は◎【評】砂嵐だが消さない、さらに蜜柑を食べる。冬の夜の静けさや気だるさを感じる。退屈そうでもあるが贅沢な時間だ。

知◎【評】喧嘩中だと思いました。砂嵐になってもどちらもテレビを消さない。黙ったまま、蜜柑の小房を分けて渡すからお互いもう許している。

麗◯【評】TVが砂嵐で、外はたぶん雪で、音はあるはずだけど、よまれている景色は限りなく無音だなぁ、と思った。独りかもしれないし、二人かもしれない。寂しく見えるかもしれないが、そうでもない。いい句だなぁ

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87 分銅を載せたら君と釣り合うか    じょーじ (じ)
炙 (2 点)
"炙炙,ふ,は (4 点)"
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ふ◯【評】分銅程度でうまる差ではないことを知っている、でもあれこれと考えてしまう。それが恋よ!

は◯【評】加減が難しい、載せるときは慎重に、ピンセットを使って。それを楽しめるかってことですね、先生。

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88 より分けて歳の数だけ豆たべる    まる子 (子)
夕 (1 点)
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89 4分の7拍子なる卒業歌    好餌 (好)
"朝,帽 (4 点)"
"朝朝,帽帽,里,蓬,麗 (7 点)"
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里◯【評】卒業の歌、まさかのプログレ(爆笑)! 作曲系専門学校の卒業式ならありえる? 私は好きですよ、その歌w

帽◎【評】全部がそうじゃないが部分的に変拍子入ってる校歌は実在したと思う。でもこの句のは全部だな。プログレ

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90 鼻風邪を分度器使ってはかられり    あま栗 (ん)
く (1 点)
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く◯【評】鼻水のたれている角度(!)を分度器ではかっているのですよきっと。身長をはかるときみたいに直立して分度器を鼻にあてられている絵が浮かんでぐっときました。これいい句なのにわたしだけ?うそー。

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91 三姉妹ケーキ見事に分割す    ちよ (地)
穂 (2 点)
"穂穂,凡,妹,酒,森,百,虎,知,黄 (10 点)"
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酒◯【評】正直に言うと、これと93を最後まで迷って、題材が快活な方を選びました(両方良句と思います)。もう三分割することにも慣れた年頃なのでしょう。目にした作者の感嘆と納得が、自分の事のように想像できました。

妹◯【評】この三姉妹はケーキの分割ぐらいお手のものなんだろうな。もちろん三「等分」だよね、と思ったけど、「決まった比率」に分割するのが見事、だったりして。妹だって、上とおなじだけ食べたい。等分がいい。

森◯【評】奇跡だ!と感動。三姉妹の出てくる朝ドラを見てますが、例え計測上は等分だったとしても文句の出ないはずがない。だからこそ見事、鮮やかな句。

穂◎【評】長年そうしてきた三姉妹の時間が想像できて楽しい。整然と分割する三姉妹。見ていた者は「見事」と思うほかなく立ち入れない雰囲気。若くてもいいですが中年の三姉妹だと貫禄が増していいですね。

凡◯【評】切り分けでいいところ「分割」の厳密さに、三姉妹の変なムードが出てる。この三姉妹は間違いなく怖いので、季語がないとか余計なこと言わないでおく。

知◯【評】きっちり三等分にしないと大変なことになりそう。三姉妹が真剣にケーキを覗き込んでいるところを想像するとかわいい。でも怖い。

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92 五分五分と言い張りこするみずっぱな    くにこ (く)
"珍,炙 (2 点)"
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珍◯【評】「五分五分」なんて、小学校入りたてくらいの子どもがいかにも使いそうな言葉。「ゴブゴブだな!」とか。喧嘩しているわけじゃなく、なんだろう、カードゲームにでも興じているんじゃないのかな。

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93 凍月や切り分けられてゆく私    幽樂坊 (幽)
"ん,子,丼,里,千 (10 点)"
"んん,子子,丼丼,里里,千千,波,百,猪,崖,幹,ふ,好,森,林,ち,ひ,炭,和,光,藤,鯖,く (27 点)"
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崖◯【評】この私はマゾです。そうとうアガってますね、ええ、アガり狂ってるといっても過言ではないでしょう。凍月を歳時記で発見して作ったのか、ありは切り分けられていくから季語をあてはめたのか。プロセスが気になった。

子◎【評】恐怖映画にある種の美しさを感じる様に、見える画の美しい句。意識が身体から離れている様子も、全てが静かで寒くて美しい。

幹◯【評】寒月の光の硬質さがよく表されていると思いました。月光を浴びた端から切り落とされていく身体感覚。

好◯【評】ニューロティックで寒くて緊迫している情景。作者の、一点集中の気合いを感じます。

森◯【評】欠けた月のカーブにはメスで一息に切り取られたような美しさがある。私は細りゆく明で、恋人の存在が侵食してくる暗部。新月も厭わない覚悟と陶酔が感じられる。

丼◎【評】身を切る寒さというが、その寒さに心細くなっていくことが強く伝わってきた。凍月という言葉の怜悧さも動かせない強さを感じる。

林◯【評】凍月という語がナイフみたいに光っているなと思いました。七・五の表現が少しストレート過ぎるかな? とも思いつつ、はりつめたものが伝わってきて、選。

波◯【評】かっこいい言葉の詰め合わせやー(彦摩呂)。正直よく分からないんだけど、かっこよさで強引にぐいぐい迫って来るもんだから、あれ、なんでだろう、気付いたら選しちゃってた・・・ワタシ。

ち◯【評】鋭いものが満載で目が痛い。血だらけだ。これだけ鋭いものを張りめぐらせて武装する、強がりな女を連想した。でも男側からは守ってあげにくいタイプだ。

ひ◯【評】分裂か、その先の崩壊か…仕事や役割が増え、目に見えない疲れが蓄積しちゃってんのかな。月は欠けてもまた満ちてくるんだからさ…満ち足りたら欠けるんだけど。

里◎【評】刃物のようなに鋭利な三日月、身を切るような寒さ、切れそう、いっそ切ってくれ。でも切り刻むのではなく、きれいに切り分けて、残さず食べて欲しい。

光◯【評】仕事帰りに見上げた冬の月に、唐突に自分を切り売りしているような感覚に襲われることはありますあります。しかし、負けぬ、という強さも感じた。かっくいー。

藤◯【評】ちょっと甘すぎるなーと思うけど、でも採っちゃうくらい魅力的な句。これも少女漫画の世界だと思う。ナイフみたいに尖った月を見つつ、場面場面で違った自分にならざるをえない自分を自分で痛ましく感じている。

鯖◯【評】女性の描いた漫画を読んでいて少女漫画文法に慣れていないという理由でなく根本的に女性の感じ方がわからないからわからない、そのわからないことが面白いという感じを思いました。 作者が女性かわからないけど。

く◯【評】かっこいい!冬の三日月の冷たさ鋭さ、「切り分けられてゆく」という感覚、痛いなあ(褒め)。自分を冷静にみつめる目に、切り分け「られ」てもなすがままにはならない強さを感じる。

凡選外【評】こういう句が分からないのはむしろコンプレックスだ。月の光は断続的じゃないから分けられないだろう、とか思っちゃうとモテない感じあるから分かったふりしたかった!

炭◯【評】「切り分けられていく」月として図鑑に載っているような月の満ち欠けが思い起こされた。それと照らし合わされている私はどんな境遇なのだろう?分からないが、切実さがあって選びました。

数選外【評】私、この句分かりませんでした。「凍月」と「切り分けられる私」の繋がりが。でも、とても艶めいた句なのですね。私には大人な句すぎました…

ん◎【評】冷たい空にとがった月。ふと、自分以外の人たちからそれぞれに「あなたは◯◯な人」と裁かれているような感覚を持つ。でも、だからなんだっていうんだろう。切り分けられたって、私だ。

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94 分け前は二の次ダクト行く霜夜    レエベマン (爽)
"酒,妹,茅,噛,じ,る,帽 (7 点)"
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酒◯【評】M:I! 前半9音で「ん?」と思わせて掴み、ダクト〜で過不足なく景を見せ、季語で景の実感を加速させる畳み掛けがすごい上、その中に「攻略」へのプライドが損得に優位するかっこよさまで。無駄ゼロの17音。

妹◯【評】報酬は無事に脱出して初めて得られるものなんだな。でも、ダクトから出たところで、不二子みたいな女に掠め取られないとも限らない。でもこの句かっこいいから、彼らもそんな間抜けじゃないはずだ。がんばれ。

茅◯【評】行きたいなーダクト。(もちろん想像の中ではもの凄く身軽だって前提で)スパイ憧れを存分に刺激される。

噛◯【評】これだけでストーリーが見える!楽しい!無事に脱出してからもその後取り分で絶対一悶着おこしそう!(むしろ起こして!)17音でこのワクワク感は凄いって感動。

じ◯【評】ダクトかっこいい。分け前とダクトって言葉だけでもう銀行っぽいし、泥棒のかっこと霜夜がすごく似合う。

る◯【評】「分け前」と「ダクト行く」だけで誰の頭にもルパンかミッションインポッシブル的なものが浮かぶのがすごい。セリフだけで状況を提示する舞台劇に似た俳句。

帽◯【評】先に悪口書いとくと〈行く〉はダメ。緩い語法。でもそれを補って余りある状況設定を中七途中のきれが表現した。オーシャンズとかルパンの世界。

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95 分別をなくして泣きたし冬の空    雪 (雪)
"爽,和,数 (6 点)"
"爽爽,和和,数数,は,珍,芽,舘,里,光,C,千,屁 (15 点)"
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珍◯【評】泣く本人が「分別をなくしそう」と自覚しているのがおもしろい。そのときその場で起きたことが原因じゃないんだな。いまにも崩れそうな空模様とかけているのでしょうが、季語はもちっと離したほうが好みかな。

爽◎【評】分別のある人は簡単になくせないよ。たぶん結局泣かないんじゃないかな。分別を「なくしたい」という気持ちに思わず特選に。幸せになってほしい。

芽◯【評】本当は泣きたいけど、泣けない程苦しい心の内が感じられました。頑張って泣かなくちゃと抜けるような青い空に思うのですがやはり泣けない。泣けたらどれだけ楽になるか…悔しいですね。

舘◯【評】わっと泣いてしまえれば楽なのはわかってる。でも大人になるとなかなかそれができない。よりによって寒い日に泣きたくなるような事が起きるなんてついてない。わたしも泣きたくなったので選句。

里◯【評】夏よりも冬の方がずっと、分別なく泣きたくなる。シーンは夜を想像しました。もしうっかり涙こぼれても、人に見られないから。でも「空」だから、きっと上を向いて耐えているんだろうな。

和◎【評】辛い事があった時、どんより寒い冬の空だと、わんわん泣きたくなる気持ち、でもなかなかできない自分。そういうのが良く伝わります。なんだか女性っぽい句

光◯【評】子供みたいに「うえーん!」って泣きたい時が大人にはあるんだよー。でも「できない」そのせつなさは冬空に似合う。

C◯【評】なかなか無くせないす。なかなか泣けないす。

数◎【評】泣きたいんだよね、でも大人だからわんわん泣けないんですよ。だから、空を見上げて堪えるんです。分別なくして泣きたいなぁ

は◯【評】直前まで楽しくても、ふと見上げて急に寂しくなる、そんな冬の空。寒さも身に沁みる。

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96 半分こ 君が多めが ふたりのルール    ふみ (二)
栗 (1 点)
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栗◯【評】スペース入ってますが、半分こ、の語感の柔らかさが上回り選句。やっぱ甘いものは大きめに分けてほしいし。うちのルールブック覗かれたかとおもった(そんなの作るまでもない!)

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97 水分子みたいなソファで待たされる    白豆 (白)
鯖 (2 点)
"鯖鯖,珍,地,朝,幹,智,黒,波,茅,穂,凡,幽,夕,る,科,珈 (17 点)"
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幹◯【評】きっとデザイナーズマンションやオシャレ系の企業の一室!緊張して待ちながら「なんだよこのソファ、水分子かよ、H型とかどうやって座るのが正しいんだよ…」と己の場違いさに汗。

智◯【評】「水分子みたいなソファ」にしびれました。H2Oね。小さいHがひじかけ。座面のOは、少しでっぱっていて不安定。待たされる時間を長く感じそう。

黒◯【評】配色は赤と白で、座り心地はきっといまいち。下五に自分の立場の弱さがにじみ出ていて共感できる。いつだか打ち合わせをすっぽかしてくれた銀座のクライアントにもオシャレなソファが置いてあったっけ。

珍◯【評】「待たされる」というからには不満があって、それはソファそのものに? 場所とのそぐわなさに? 「水分子」で画像検索したら、ありそう、こんなソファ。てことは実体験か。な?

波◯【評】丸いのが三つ、水分子の配列で、ビニール製で、病院の待合室にあるやつ。そうか水分子のかたち、か!文系女子は無条件に理系男子が好きだ(これはただの告白)

茅◯【評】居心地悪そうなのに「水分子みたい」と看破できる冷静さ。二人連れで仕事先行ってオシャレ空間で待たされてる時に連れに言われたらちょっと見直す。

穂◯【評】ああいうやつのことだなと浮かんだ。「水分子みたい」たしかに! 「待たされる」に居心地悪さや所在なさがよく出ています。これからああいうのを見たらこの句を思い出します、きっと。

凡◯【評】「待たされる」と言わずにそう感じさせる方法はなかったか。「水分子みたいなソファ」の良さは、侮りの心地よさ。侮りで心地いいのは他での心地よさより難度が高い。

幽◯【評】水分子のデザイン性の高さ! なんだか座れそうな感じもよくわかる。非常に大切な分子なんだけど、待たされる道具になってしまうとけっして心地よくなさそうです。発想勝ちだなー。

夕◯【評】きっと座り心地はいい。でもソファだけ象徴的に置かれた開放的過ぎるおしゃれ空間で場違いに一人待たされて居心地は悪そう。目に浮かんで面白かったので。

る◯【評】オシャレオフィスに通された理系の研究者の卵。高級そうなソファだが落ち着かない。ようやく出てきた相手方に「あれ水分子みたいですよね」と言っても「は?」って言われる。がんばれ。

鯖◎【評】採った理由は皆さんと同じ。他にどんなソファーがあるかな。「水餃子みたいな」「未来館みたいな」「佐渡島みたいな」「エマニュエルみたいな椅子で」。。。お題じゃなくても水分子がいいですね。

地◯【評】ちょっとしたおしゃれスポットですな。美容院だと思った。予約してるのに待たされてる。そんな感じ。

科◯【評】最初から思ったんじゃないんだろう。座っているうちにふと「水分子みたい」と気付いたんだろう。ミクロの世界で水分子に腰掛けている自分を想像して、待たされている間、しばし空想の世界に遊ぶ主人公。

珈◯【評】居心地の悪そうさと(水分子まで思いがめぐるほどの)手持ち無沙汰加減がいい。自分を待たせている相手とまだ心が通っていない感じ。

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98 初雪や今晩分電盤本番    るいべえ (る)
"平,朧,地 (3 点)"
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平◯【評】初雪、と来て本番も初なんだなと解釈。分電盤本番がなんなのかはよくわからないけど、なんで今日に限って雪なんだよもー!!と緊張と焦りで心臓がコンバンブンデンバンホンバンと高鳴っているようです。はは、不整脈だ。

朧◯【評】まったく意味をわからずにまず音だけでとってすみません。コンバンブンデンバンババン(言ってない)、と言いたくなる言葉選びだけで…でも雪の日って漏電しそうだから「本番」も合ってますね。

地◯【評】やっぱり、コンバンブンデンバンホンバンですよ。寒いと分電盤ってどうなの?困った事になるの?がんばるの?まぁ、分電盤の本気出すんでしょう。

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99 分水嶺気づかぬうちに過ぎにけり    栗人 (栗)
科 (2 点)
"科科,朝,爽,白,光 (6 点)"
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爽◯【評】境界を渡るって、それだけで何か快感がある気がします。それを知らないうちにやっていて、後から知ったとしてもそのときのことを特別なものとして見られる気がします。

白◯【評】分水嶺、を調べてしまいました。こういう知らない単語がでてくるのも醍醐味。「気づかぬうちに」って言ってるけど、その存在に気づいていた人だ。いろんなことを教えてくれそう。

光◯【評】過ぎ去って後ろを振り返って、「思えばあそこだったのだな」と思う。まさに通り過ぎる瞬間は気付かない。そうそう!そういうもんなんだよ!と膝をぽんとね。打ったよね。

科◎【評】なんて雄大な句! 「分水嶺」も雄大だし、「気づかぬうちに過ぎ」ていた主人公も雄大。山脈を行く主人公を俯瞰した、大きな風景が目に浮かぶ。

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100 コミッション四分ノ一矜持込み    疲労飽き (ひ)
炙 (1 点)
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101 雨ひと日湯呑みに分けし卵酒    藤幹子 (幹)
"爽,ひ (2 点)"
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爽◯【評】「分」ということばで、なぜかものをふたつにするという印象がありましたが、これは液体で、いくつの湯のみに分けるのか分からない。それも「分ける」だった!という発見で○に。

ひ◯【評】差し入れてくれたアドヴォガードを友と飲む。コップないから湯呑みでいいだろ、風邪移るとまずいから、お前も呑んで暖めろよ、その内、雨も止むだろうさ。なんて会話を妄想してしまいました。

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102 乳かたき子の言い分を聞く凍夜    ことら (虎)
"珍,夕 (2 点)"
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珍◯【評】「キミ、この固さはなんか入れてるだろ! 詐欺じゃないか詐欺!」と風俗嬢に詰め寄るおやじ(会社では堅物キャラ)、という画が浮かんだらもうトリコ。全然マト外れな解釈だったら伏して詫びる覚悟あり。

夕◯【評】凍てつく夜泣き。おっぱいがガチガチなのでそろそろだったかと母乳を与えてみても泣きやまず、寒さが不快なのか何なのかただただまだ言葉にならない言い分を聞く。飲まないからおっぱい石のまま。せつないー。

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103 空風やヒヨコ分け終え小便す    オカヤ (茅)
"平,じ,森,黄 (8 点)"
"平平,じじ,森森,黄黄,虎,智,凡,里,和,ん (14 点)"
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智◯【評】 カラーひよこを分ける仕事終えてほっと一息つく的屋のおっちゃん。を思い浮かべたのだけど、的屋はヒヨコ分けないかな。

虎◯【評】分からこの句を!と驚きました。初生ひな鑑別士はヒヨコの肛門に指をいれてオスメス判別しすごい速さでわけます。システマティックに作業する男、鶏舎をうつ冬の空風。響くピヨピヨの声の中でもとことんクール!

平◎【評】ハードボイルド!オスのヒヨコは殺処分、つまり男は死の選別システムだったのだ。慣れたもんだと小便すれば、ブルっとくらあ空っ風。オスの山に手ぇ突っ込めば温まるかな。あいつら運搬中はメスの保温緩衝材だし。

凡◯【評】「バイトヘル2000」での荒みきったヒヨコ分け作業を思い出し、空風も小便も動かない!と涙ぐみながらの○。

じ◎【評】プロって感じがします。ヒヨコも小便もどっちも黄色で○(なんじゃそりゃ)。

里◯【評】一生終わらないかと思うほど大量のヒヨコの仕分け、夢中でしているうちに寒さも小用も忘れていたけど、終わったとたん「トイレトイレ!(ぶるるっ!)」って。

ん◯【評】やもめ暮らしのテキ屋のおっちゃん(渥美清似)が、古い狭いアパートでヒヨコ分けたりトイレ行ったりしてる。渋い顔で。男の世界!(でも、後ろでヒヨコがずーっとピヨピヨピヨピヨいってる)

森◎【評】「空風/ヒヨコ/小便」全てがぶるぶる震えている中、的屋のおっちゃんの小便だけがホクホクにも見えてしまう(湯気で?)。誰であれ何の前にも後にも小便をするだろうが、デリカシーのなさへと集約していて感心。

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104 分銅に指紋の脂何グラム    小嶋智 (智)
"夕,鶴 (2 点)"
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夕◯【評】脂で重さ変っちゃうから直接手で掴んじゃいけないんですよね。それを習ってから「自分が手に触れた”これ”は重さ変ったのだろうか」とふと考える瞬間がたまにある。何グラムなんでしょうね。

鶴◯【評】まったく同じことを思ったことがあります。グラムであらわそうとすると、すっごく小さい単位になるんだろうな。でもある。

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105 聞き分けの無い女指に皸    舘ざんす (舘)
"芽,幽,栗,ん (4 点)"
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芽◯【評】勝手に男はそう言うんですよね。意固地だと。あかぎれのある女性は働き者に決まっているのですから、思いの通りにさせてあげて下さい、って思ってしまいました。例えそれが旅行等の提案であっても今じゃない。

幽◯【評】指の皸(罅のイメージ合ったけどこんな漢字もあるのか。軍の皮て)と女の性格が繋がってそうで繋がってなさそうで距離感が気持ちいいです。

栗◯【評】ジュリーのカサブランカ・ダンディへの返句と取りました。頬を打ちそうになったが、女の指を見てやめた男。 老眼のせいか最初は指に皺と見間違えたが、アカギレもシワと同じく苦労や時の成せるわざか。

ん◯【評】ワガママと言われた上に指の皸(読めなくてググりました)まで指摘される女って哀しい。気持ちが冷めちゃったからなんだろうけど、男、容赦なさすぎ。でも、なんか説得力ありました。

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106 分子には雪分母には富山湾    碍子 (碍)
"幹,珍,麗 (6 点)"
"幹幹,珍珍,麗麗,爽,好,芽,酒,丼,林,ち,噛,る,く,帽,屁,蓬 (19 点)"
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酒◯【評】調べたら類想が無さそうだったので取りましたが、最初、上手すぎて、名句のパロディーかと思いました(感覚的に「ありそう」とは思ったので並選)。海上の雪をこう詠んだのが初ならば、発明ではないでしょうか。

幹◎【評】分母に富山湾、でぐわっと視界が広がって自分が宙に浮いたかのようになる。展開がすばらしい。

好◯【評】おもしろい発想!これ、富山湾がとても効いていると思います。

丼◯【評】水平線を挟んで、冷たい雪と寒い海が目の前に広がっている景色。湾だから遠くに陸地も見えるのか。冬の景色として美しい。

珍◎【評】水平線でくっきり上下に分割された視界、を瞬時に描かせる着想が秀逸。「分数ありき」の句でやや頭でっかちな感がないでもないですが、僕は好き。こういうの、作りたい。

爽◯【評】分子から分母に進んでストンと景色がみえました。すばらしい。

林◯【評】あっこんな言い方があったんだと思わされました。海にはらはらと降り落ちていく雪景色も浮かぶし、分母という言葉が故郷にもつながる気がします。きっとこれは散文にはうまく置換できない。俳句だな、と。

ち◯【評】分子と分母という言葉で情景を見せてもらって新鮮な驚きがありました。頭いい…。この句に落ちる女は多いのではないか。

噛◯【評】ただただ綺麗で美しい。富山湾行ったことも見たこともないんだけど、それでも美しさが伝わってくる。考えてみたら海に降る雪は見たことないなぁ。一度見てみたいそんな風にも思わせてくれた句

く◯【評】この発想がすごい!と思ったけど、すごすぎて元ネタがあるのでは?と思ってしまって並選。ゼロからの発想だったら本当にすごい。かっこいいです。

帽◯【評】ちょっと盛りすぎな景で「うまいこと言いやがって」と癪だが句跨りのうまさと地名の斡旋でいただき。季節が変わって晩春になれば蜃気楼も出ようというあの富山湾なればこそ。

麗◎【評】見たことがない富山湾が目に浮かぶようだった。数の表現を使ったのが、これまた素敵。句の上手さもあるけど、気持ちに響いて特選。

蓬◯【評】こんな写生句もありなんだ…!と目からうろこが落ちたので。分子分母というからには「線」もあるのか?と思ったら、なるほど水平線! 富山湾を見てみたくなる。

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107 崖っぷち俺とおまえと60分    (夕)
"C,ふ,白,二 (4 点)"
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酒◯【評】調べたら類想が無さそうだったので取りましたが、最初、上手すぎて、名句のパロディーかと思いました(感覚的に「ありそう」とは思ったので並選)。海上の雪をこう詠んだのが初ならば、発明ではないでしょうか。

幹◎【評】分母に富山湾、でぐわっと視界が広がって自分が宙に浮いたかのようになる。展開がすばらしい。

好◯【評】おもしろい発想!これ、富山湾がとても効いていると思います。

丼◯【評】水平線を挟んで、冷たい雪と寒い海が目の前に広がっている景色。湾だから遠くに陸地も見えるのか。冬の景色として美しい。

珍◎【評】水平線でくっきり上下に分割された視界、を瞬時に描かせる着想が秀逸。「分数ありき」の句でやや頭でっかちな感がないでもないですが、僕は好き。こういうの、作りたい。

爽◯【評】分子から分母に進んでストンと景色がみえました。すばらしい。

林◯【評】あっこんな言い方があったんだと思わされました。海にはらはらと降り落ちていく雪景色も浮かぶし、分母という言葉が故郷にもつながる気がします。きっとこれは散文にはうまく置換できない。俳句だな、と。

ち◯【評】分子と分母という言葉で情景を見せてもらって新鮮な驚きがありました。頭いい…。この句に落ちる女は多いのではないか。

噛◯【評】ただただ綺麗で美しい。富山湾行ったことも見たこともないんだけど、それでも美しさが伝わってくる。考えてみたら海に降る雪は見たことないなぁ。一度見てみたいそんな風にも思わせてくれた句

く◯【評】この発想がすごい!と思ったけど、すごすぎて元ネタがあるのでは?と思ってしまって並選。ゼロからの発想だったら本当にすごい。かっこいいです。

帽◯【評】ちょっと盛りすぎな景で「うまいこと言いやがって」と癪だが句跨りのうまさと地名の斡旋でいただき。季節が変わって晩春になれば蜃気楼も出ようというあの富山湾なればこそ。

麗◎【評】見たことがない富山湾が目に浮かぶようだった。数の表現を使ったのが、これまた素敵。句の上手さもあるけど、気持ちに響いて特選。

蓬◯【評】こんな写生句もありなんだ…!と目からうろこが落ちたので。分子分母というからには「線」もあるのか?と思ったら、なるほど水平線! 富山湾を見てみたくなる。

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108 新巻の分際でちと頭が高い    十猪 (猪)
"虎,黒,妹,丼,炙 (5 点)"
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妹◯【評】新巻鮭って、熨斗が付けられて贈答品になるような、立派な代物だと勝手に思い込んでいたので、「新巻の分際で」って言われていることに驚いた。好人物だと思ってた校長の悪口聞いちゃったみたいな複雑な気分。

丼◯【評】箱入りの新巻鮭を天井から吊っていたのはうちだけだろうか。頭をぶつけて、なんだよ、と。個人的にはあるある的面白さのある句。

黒◯【評】高橋由一の「鮭」が使われたポスターを見たばかりだったので、「確かにそうだな!」と思って○。実際に新巻鮭をぶら下げたことはないけど、きっと本当に「ちと」頭が高い位置にあるんだろうなあと想像する。

虎◯【評】新巻鮭、えらそうですものね。全体的にふんぞり返ってて。でも新巻っていただき物だと思うのです。だから口では「頭が高い」といいながら、内心嬉しくて仕方ない…という気持ちがあるような。口調の可笑しさが○。

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109 蝋梅を作り物と言う分からず屋    yagimeiko (芽)
"光,穂,舘,ん (4 点)"
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穂◯【評】蝋梅はたしかに作り物っぽいけど本当はわかってるのだ、作り物じゃないって。でも作り物と言い張る。そんな相手を表すのに「分からず屋」をもってきたところが、愛らしくてよいです。

舘◯【評】確かに生花に見えないかも。ろうばいなんて名前もしゃれてない。でもね、とってもいい香りがするのよ。しかし香りを嗅ごうともしない。分からず屋だな、確かに。

光◯【評】作り物じゃねえよ!簡単にまとめんな情緒のない分からず屋め!と、端的でさわやかな怒りが良い。

ん◯【評】「分からず屋」っていう言い方に、甘いニュアンスを感じました。そういうとこ、嫌いじゃないんでしょ?って。

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110 3分でできる人いるのその料理    箱 (は)
帽 (1 点)
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帽◯【評】〈分〉のお題にぬけぬけとこれ持ってくるか!とよろけたじゃないか。ありがちなツッコミだけど、だがそれがいい。句会でなければ注目しないフレーズ。

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111 節分に米寿以上に子らは食べ    メタル彗星 (彗)
里 (1 点)
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里◯【評】私も子供時分は、歳の数をはるかに超えてわっしゃわっしゃ食べていました。でも当のジジババは「そんなに食えんがな」と歳の数さえも食べず、私達にくれたりして。そういう幸せな記憶がよみがえってきました。

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112 大寒や分母三百六十六    紀野珍 (珍)
"く,炭,光 (6 点)"
"くく,炭炭,光光,ひ,子,黒,平,噛,白,舘,千,友 (15 点)"
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子◯【評】今年閏年だった。「大寒」もただの一日というとらえ方がよかった。

黒◯【評】前日も、当日も、翌日も、どこだって同じく三百六十六分の一。言われてみればその通り。今年が閏年だということも含めて納得。

平◯【評】カレンダーを見て、お、今日って大寒、と思ったら目に飛び込んでくる「2月29日」。うーむ。そりゃうるう年の方が大寒より大事だ。ちょっとテンションあがってなんか一日得した気分が中七下五に現れててナイス!

ひ◯【評】節気に未だ大きな意味や愛着が持てていない自分ですが、いつかは暦を身の内に入れる事が出来るのかな…海軍カレーみたく、習慣にしちゃえば、日付に意味を見出せるのかなぁ。

噛◯【評】4年に一回しか作れない句だ!と気付いたらその貴重さに◯ 大寒閏年に気付いたら一日多い分寒い日がいつもより長くなるような損した気分なりそう。

白◯【評】今年だ、っていうのに感動。いま、この句と出会うからいいんだ、っていう気持ちにさせてくれただけで、もう素敵でした。

舘◯【評】今年が閏年だという事をTwitterで知ったがすぐに忘れて、この句でまたそうだった!と。句を作るってことはこうやって日々感じないといけないんだと反省しました。4年に一度だもんな、使わないとな。

光◎【評】「三百六十六」という少し特別な数字に、その分子たる「大寒」。毎年来るけど、他の日よりは少し特別。入れ子になっている綺麗な箱を見せられた気持ちになった。

く◎【評】「分」というお題でこんな句ができるとは!と素直に作者を讃えて特選(富山湾のと迷った)。でも三百六十五だったら並選だったかもなあ。今年が閏年だからこその特別感。

炭◎【評】大寒と名が付いても一年のうちのたった一日。分数がきっぱりとそれを伝えているクールさが効いている。そして閏年か!という発見。凄いです。あと閏年なのだから違う年よりも前後の日に大寒が染み出ている気がする。

千◯【評】なんてことない事実で、特別な言葉を使っているわけでもないのに、すごくハッとさせられた。うるう年、意識していなかった!

友◯【評】どうりで寒いわけだ。うるう年をそうやって句にできるのかと驚いたが、仮に去年「三百六十五」で詠まれていたとしても選んでいた気がする。

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113 分銅のむんずと凍てて1グラム    酒井 (酒)
平 (1 点)
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平◯【評】扱う時はピンセットで、なんて言われても、こんなもんめんどくせ、と掴んでみたらその冷たさにびっくり。1gの分銅にも五分の魂。物質の塊、質量の権化、数式の世界の住人であるからこその冷ややかな怖ろしさ。

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114 五分五分の決着つける空っ風    ミホノフ (穂)
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115 分度器で測る行く末卒業    平ん (平)
炙 (1 点)
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116 体温を分け合い眠る猫と我    なご (和)
"じ,子,炙,里,光 (5 点)"
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子◯【評】猫のいる生活の幸せを感じる。"分け合い"が一方得でなくていい。

里◯【評】「体温を分け合う」で私も作りたかったけど卑猥になりそうで断念。猫句はあんまり好みじゃないけど、「猫」の必然性に納得。「分」けることは普通減ることでもあるけど、これは分けることで幸せになるのがいい。

光◯【評】猫はどうしても主従関係というよりは共存、あまつさえこちらが下僕となってしまうことが多い。でも、こうやって「分け合ってる」と感じる瞬間が猫と暮らす醍醐味なんです。勘違いであっても。

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117 分けないであなたが持っていて浅蜊    かとちえ (千)
"る,雪,智 (6 点)"
"るる,雪雪,智智,爽,波,平,妹,幹,百,黒,ち,C,舘,鯖,じ,藤,猪,黄,友,蓬 (23 点)"
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妹◯【評】なんだろう、なにがあったんだろう。真知子巻きの美女が、袋詰めの浅蜊を男に握らせて、両手でぎゅっと、その男の手を包んで、言うんだ、「あなたが持っていて、浅蜊」。なんなのその浅蜊。気になる。

幹◯【評】はい、と頷くしかない緊迫感、なのに手には浅利。面白すぎる。浅利は春の季語だけどとってしまいます。好きすぎて。

黒◯【評】今回の句の中で一番謎めいている。浅蜊を分けて持つってどういう状況?カップルで潮干狩りに行ったら浅蜊が大漁だったとか?とにかく「持っていて浅蜊」のリズムが軽やかで好きだ。

爽◯【評】なんなんだと思いつつ、わかった持ってるよ安心して。っていいたくなる。俺が守ってやるから大丈夫だよ、みたいな。ちょっと切迫しているように感じるのはなぜなんだろう。押し切られました。

波◯【評】ドラマチック滑稽。意味深なのに浅蜊。ちょっと先の春のことを思い起こさせてくれたのも、この真冬に良かった。

ち◯【評】最後の「浅蜊」にやられた。ずずんときた。魔性の女だ。

平◯【評】潮干狩りなんて爺臭いことするからには大人なんでしょう。きっちり分けようとする男と拒む女。二人の恋は二枚貝。重ねた身体も砂でざらつく…大人の恋は重いなー。中9下3も切迫感があってナイス。

C◯【評】降参。女性(?)は真剣(綺麗な貝殻だったのでしょう)、でも男性は「え、浅蜊?」と戸惑いつつシリアスな表情をキープしている。「もしかして:蛤?」と言ったら無粋なんだろうな。もう浅蜊見られない

舘◯【評】分からない。何故浅蜊を持っていてもらいたいのか?貝はあしが早いから早くもらっちゃった方がいいのに、とか。しかしわからないんだけど最後までこの句を忘れることができなかったので選句しました。

鯖◯【評】意味がわからないが雰囲気・語感が完璧で不気味。英語が話せないのに発音完璧な美空ひばりのジャズソングのような、ほぼ完璧に擬態しているが文化の理解だけ不完全な宇宙人のような、不気味さ。

藤◯【評】恋の駆け引きでよくある「だめ、次、会うときに返して」パターンだが、浅蜊とは斬新!しかも、浅蜊なんだから早く次回の逢引をしないと腐ってしまうので、わりと実用的!

る◎【評】ミステリアス美女!(勝手に決めた)鯖さんの評のように、変人というレベルを超えて異星人のよう。でも必死。なんだか分からないが手元の(水入りビニールに入った)浅蜊が重大な何かのように思えてくる。

友◯【評】初見から数日経ってもなお新鮮。訳のわからないものをつかまされたい欲が僕にもあるんだなと、この句に丸つけたときに気づいた。

蓬◯【評】ちょっとJ-POPぽい甘さ?と読んでいったら、最後の最後に「あさり」どういうシチュエーションなんだそれは、とやられた。

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118 終電を逃し手袋分かち行く    珈琲 (珈)
"虎,く (2 点)"
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虎◯【評】男女のことでしょうねぇ。「電車なくなっちゃったね…」ですねぇ。片方ずつ男の手袋して、男のポケットに二人の手と手、つないで入れちゃうんですねぇ。それがこの17字から「見える」ことが面白くて素敵でした。

く◯【評】手袋を片手ずつ分けて、そのままふたりは別れていったのかと思ってました(そうか、終電逃したんだから一緒に行くほうが自然か)。でも別れてったほうがぐっとくるな。

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119 猫の腹分相応に撫でて良し    兄妹 (妹)
"数,ん,丼,子,虎,鯖,栗,地,帽,鶴,雪,黄,麗 (13 点)"
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子◯【評】関わっていいかどうか、主権が猫にあるのが、らしくていい。

丼◯【評】猫の句はずいぶんこの場で出てきたとは思うのだが、猫のお腹の柔らかさにフォーカスした面白さと、おさわりは許可制になっている面白さが良かった。

鯖◯【評】メンドくせえな猫。とか書くと猫好きな人たちを刺激するかもしれないが猫飼ったことないもんで。まあ特選と迷ったんですけどね。

栗◯【評】この家で王様は猫。あとは猫との関係性で位が決まる。誰も文句のつけられないヒエラルキー。おかしくもちょっとかなしく、でもやっぱりおかしい。撫でたらあったかいし、やめられない。冬の日常句として気持よい。

地◯【評】いつもは猫関係はあんまり選ばないのだけど、これはちょっと違った。猫が単にかわいいだけじゃなくて、えらそうなところがいい。わたしにもおなか触らせてください。

数◯【評】「撫でても良いぞ」って殿様並みに偉そうだ。この猫。でも「撫でさせていただきます」って低姿勢になっちゃう

帽◯【評】〈良し〉と許可出してるのが何者なのかも〈分〉をだれが決めるのかもよくわからないが、猫というのはこちらが下手に出なければそうそう腹を撫でさせないものである。

鶴◯【評】猫は人を選びますよね。これは真実だ!と思いました。でもほんとは撫で