第三回【なんでしょう句会】分評 弐

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121 分銅を右側へ足す冬の暮    山科 (科)
"凡,蓬,く,ふ,白,朧,幽,雪 (8 点)"
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ふ◯【評】日の傾きを天秤に例えた句ととった(冬だと日の出、日の入りの両端が一度に視界に入る)。傾き出すと早い冬の日差しを1日浴びながら、どんなことを思ったんだろう。

白◯【評】分銅の句はいろいろありましたが、これは(勝手に)軽い分銅で、正方形のような四角の角ひとつがクイっと曲がっているものが浮かびました。空気の張りつめた感じと、小さい単位で正確な重さに近づいている感じの融合。

朧◯【評】天秤秤をじっと見つめながらそーっと、の感じがきちんと「右側」と言うことで浮かびました。「片側」じゃそうは思わないだろうな。

幽◯【評】寅彦忌が強かったけど、この分銅も良いと思いました。どんどん暗くなっていく暮れと、行為の細かさとあいまって実に寂しげなんだけど、それが味わい深い。

凡◯【評】分銅は俳句にあうのだね。(好みとして)格好よさ成分が少ない点で寅彦忌に勝(まさ)った。

く◯【評】寅彦忌もかっこよかったけど、実はこっちを先に選んでいました。シンプルに分銅感が出てて好き(分銅感?)。分銅って冬に似合うものなのだなあ。

雪◯【評】分銅って理科室や実験室にあるイメージ。しんとした場所、集中した慎重な手つき、厳密さ、そして外の寒く、どんどんと暗くなってゆく空。印象の乱れのなさが好きです。右、っていうのも(イメージの)理系っぽい。

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122 八時五分旦那好きなの?ひきわり納豆    うめはる (梅)
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123 炊き出しの雑炊分かつ仮設前    しっぽ (ぽ)
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124 春待ちて繋いだ手解く分岐点    甘噛 (噛)
"C,朝,子,二 (4 点)"
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子◯【評】受験とか就職とか、いままさに分かれ道なのだなぁ。どんなに仲良しでも生き方は違うもの。

C◯【評】「冬が来て」ではなく「春待ちて」。発展解消的な、一つのバンドに二人の天才はいらない的な、そんなお別れなんですか?

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125 地吹雪や卵とバター分裂す    鶴谷 (鶴)
"茅,林,百,凡,藤,地 (6 点)"
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林◯【評】うまく混ざらないままガバッと小麦粉を入れてしまい、ボウルのなかに地吹雪が。何とかならんか、えいえい、と混ぜていく手つきが思い浮かぶ。お菓子を作るときのキッチンは少し寒い。そこもなんだか冬の季語に合う。

茅◯【評】外はもの凄くダイナミックな自然現象でゴウゴウ言ってるのに自分はお菓子に失敗している。ああもう、って泡立て器投げ付けた音もゴウゴウにかき消されちゃう。

凡◯【評】いい季語をつかったなあ。北国の家は断熱、暖房しっかりしてるから、お菓子作りとの両立に説得力ある。心がざわつくから、むしろ作る気になったんだろう。

藤◯【評】地吹雪の視覚的イメージと、卵・バターを混ぜ合わせたり分離したりする視覚的イメージがぴったり重なって寒いやら美味しいやら。

地◯【評】お菓子はひんやりした所で作ったほうがいいけど、ひんやりを通り越して地吹雪。寒いキッチンで卵とバターをかき混ぜている姿が浮かびます。顔はたぶん険しい。

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126 寸分もたがわぬひとね前世から    フジノ (藤)
"は,崖,穂,炙,栗,数,帽,黄,千 (9 点)"
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は◯【評】はいはい、と聞いていると前世から、と言われてドキッとする。急に弱みを握られた気分。やっぱり、女性には勝てません。

栗◯【評】こんなことを言う女になりたくないな、と思いつつ、何度も同じ失敗をやらかされたら、言ってしまいそうでコワイ。分のお題で、こんな時空を超えた男と女の生くさい世界を思いつくとは。苦労人!

数◯【評】ついボソッと言っちゃって「えっ!前世?」ってなりそう。きっと女性しか、前世からの因縁は知らないんだろうな。なかなか怖い

帽◯【評】〈寸分もたがわぬ〉を〈ひと〉に使うものかどうか、そして意図的な選択かどうかもわからない。言えるのは作者が「フレーズ職人」に徹していることだ。

千◯【評】軽い口調でありながらも、本気で言っていそうなその怖さ。倒置がものすごく効果的。

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127 手袋を分かち歩みの合ひにけり    黄犬 (黄)
"ひ,林,森,麗 (4 点)"
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ひ◯【評】二人で一組みしかない手袋。素手である彼の右手と彼女の左手は、彼のコートのポケットの中で仲良く繋がれてる。彼は彼女の歩幅に合わせ、ゆったりと、無言のまま歩んでいる。

林◯【評】もう一つの手袋句と迷いましたが、「歩みの合ひにけり」が普段とは少し違う親密さ、やさしさをうまく表しているなあと思いました。雪でうっすら白くなった路面に二人の足跡がついているイメージ。

森◯【評】手の大きさも歩幅も違うふたりが同じ時間を分かち合うには双方の歩み寄り(比喩)が大事。最初は意識的な矯正だったものもそのうち自然になっていくのだから慣れってすごい。

麗◯【評】ロマンチック。気持ちが通じ始めた、恋愛初期の二人のようにも見えるけど、恋愛だけではくくるのはもったいな。双方、相手への思いやりとか親密さが垣間見え、静かだし地味かもしれないが素敵な光景。

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128 分が悪い せめてチークで 華やぎを    あぶれ (炙)
"C,夕,二 (3 点)"
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夕◯【評】分の悪さをチークで補いたくなる気持ちがかわいいなあ。でもそんな時大概化粧厚くなりすぎちゃって失敗したり。(おてもやん)それも含めてかわいい。

C◯【評】意外と人気がない。かわいい句だと思います。良くわからないけど、皆さんは分が悪いときどうされますか?チークって正解なの?

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129 高分子吸水体や雪明り    ちゅう (ち)
崖 (2 点)
"崖崖,噛,ん,茅,朧,麗 (7 点)"
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崖◎【評】うーん、うーん。これは凄い。万太郎の「湯豆腐や命の果ての薄明かり」って句があるんですが、想起したのはそれ。現代の万太郎だと思います。略して「げんまん」。近いもの遠いもの。切れ字。お手本みたいな句でもある

茅◯【評】「や」のときの「よく眠る祖母や〜」を思い出しました。紙オムツですよね。介護の合間に妙にオムツのパッケージを読んでしまう日常と言葉のかっこよさの対比。

噛◯【評】オムツともとれる。でもここはあえて女性用品で。何故なら昔トイレに座りながら突如気になり分解したことがあるから。トイレの時ってなに考えてるってどうでもいいこと考えててだから窓から入る雪明りにもふーんだ。

朧◯【評】雪で明るいから表に出てみた女がひとり。「夜でも雪で明るい」って原始というか自然のなせる不思議な光景だ、生理も昔からある女体の仕組みだ。でも現代の女性は高分子吸水ポリマーで夜も安心。新旧対比と見ました。

凡選外【評】並選が皆女性で、だが◎が男一人、(すっかり人気の)崖氏(男)。最高にいい並び。

ん◯【評】一日じゅう寝たきりだから眠りが浅くて、ふと目を覚ましたら窓の外が雪で明るくて、寝つけず、なんでか急に高分子吸水体のありがたみをしみじみと感じる夜。「高分子吸水体」っていい言葉ー。

栗選外【評】雪の夜、寒いのを必死に堪えて寝床からトイレへ。ナプキンか紙オムツが漏れてないのを確認し、ホッとする。高分子吸収体ってさすが。目のつけどころに感心し、並選とかなり迷った。川柳のほうがおさまりいいかな?