第二回【なんでしょう句会】や評

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1 春待つや木遁の術敗れたり 
<特選> 芽,鶴 (4 点) <正選> 芽芽,鶴鶴,ち,朧,飼,雪 (8 点)
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ち◯【評】三頭身くらいの目のくりくりしたキャラなので、木の影からはみ出てしまって敗れたのでしょう。(-人-)←多分こういうポーズでがんばっていたと思う。

鶴◎【評】見つかってしまって情けないのに、しれっと「術敗れたり」がかわいらしくて。行動と言葉とのギャップにやられて特選。虫とかのことだと思うけど、いまどき木に隠れる人もいいなあ。

芽◎【評】林や木立の多い公園でかくれんぼをしてる情景が浮かびました。子供が鬼でお父さんが見つかっちゃったかな?木に新芽を含んだ感じも好きです。

朧◯【評】寒い中ただ立っているだけかも知れない男に気のあるエキセントリック女がじゃれている様子が浮かぶ。忍者ガールも恋を待つ。

雪◯【評】木と言えば五行で春のもの、全体的におかしみと温かみがある句で好きです。寒い冬木立だけど、ひょいと覗いたら春が捕まりそう。

飼◯【評】ふと木の皮をめくると、身を潜めじっと春を待つ虫が。君、こんなところに居たんだね。眼差しが温かい。

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2 甥っ子や君へ伝へる事はなし 
<特選> 地 (2 点) <正選> 地地,酒,は,千,雪,甘 (7 点)
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酒◯【評】無季だが正月らしい。冷徹なわけではなく、関係性の半端な幼子には、たしかに「伝へる事はな」い。この座への投句なので、詠み手は奥田民生「息子」「人の息子」をふまえたのかな、とも。

甘◯【評】「まだ」か「もう」かで捉え方も違いますが「まだ」とみました。何ものにも染まらずキラキラしている甥っ子を眩しそうに見つめている姿を想像。大人になると失っていくものがあるなかで今はまだその時間を大切にと。

地◎【評】甥は中学生くらいかと感じた。部活や趣味など彼が好きな事に打ち込んでいるのを知って「おれの出番はもうないぞ」とうなづく叔父。同じ趣味ならますますよい。

雪◯【評】甥姪と叔父叔母というのは微妙なもので、片方は大人なんだけど、責任も尊敬もあるようでなくて、同んなじ人に頭が上がらなかったりして、子どもの方もそれとなく察していて、という同志感がよく分かる句。

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3 初東風や廃屋に父わらひをり 
<特選> 蓬,里,丼,る,飼,夕,崖 (14 点) <正選> 蓬蓬,里里,丼丼,るる,飼飼,夕夕,崖崖,朝,子,茅,藤,凡,鶴,地 (21 点)
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蓬◎【評】何か悲しいことの結果なのか、単に年月を経たゆえの廃屋なのか、いずれにせよ朽ちる物に対して人間の強さを感じました。これ秋風じゃ寂しすぎるし、春風だとある意味心配。まさに初東風のためにある句で特選。

鶴◯【評】男の隠れ家でにんまりする父が見えました!ビニールハウス、屋根の上、車庫、ログハウス…それぞれの秘密基地で、風に吹かれて満ち足りた、でもちょっとわびしいお父さんたちの顔が!

子◯【評】田舎の古い家屋。冬がやってきた。強風でも笑っていられるのは、今も父親が元気に変わりないから。その様子がすんなりはいってきた。しみじみとあたたかい。

丼◎【評】新年に実家に帰るともう使わなくなった農業用納屋に父が笑いながら出迎えてくれた。父は元気なようだ。田舎が健全にあることは有り難い。父の笑顔が目に浮かび、その明るさがいいので特選。

凡◯【評】廃屋の前を通り過ぎてなにか思い出すことがあったんだろう、という父子二人の歩きが東風もあわせて心地よかったのだが、そうか、これ廃屋に「いる」のか。そうではないとの解釈で○。

る◎【評】「父の笑い顔」が情景の意味を推測を無効化する働きをしているようで、一つに定まらない。定まらないままで惹きつける力がある。写実的なのにどこか非現実的な景。初東風が効いている。

茅◯【評】父は写真かなと。さわやかで晴れている正月にいない父のことを考える、どうしようもないひりっとした空気を思いました

地◯【評】「わはは」ではなく「にやり」でしょう。いい盆栽がそだってるとか、こっそり飼っているメジロがかわいいとか。初東風も父親の周り以外はまだピッとした冬の空気が流れている感じがよい。

里◎【評】父が笑っているからか、“廃屋みたいなあばら家”を想像しました。隙間風の入る貧しい家だけど、息子の帰省に喜ぶ幸せそうなお父さんが見えました。傍らにはきっと一升瓶。

夕◎【評】(北の国からの吾郎さんと純くんを少し連想しました。ブルーカラーぽいお父さんがあばらや(たぶん自作)から照れたように笑いながら息子を迎える様子が浮かびました。)

藤◯【評】長く帰っていなかった築数十年の実家よりも、ひどく年老いた父の体にむしろ廃屋を連想する。それでも根拠のない父への信頼から、まだしばらくは笑いもするし時間にも耐えるだろうと決めつけてちょっと安心したり。

飼◎【評】朽ちた家に静かな笑みを浮かべた恍惚の老人が一人。我が家と思い込んでいるのだろうか?いなくなった家族と新年の挨拶をかわしているのだろうか?シュールな光景が強烈だったので特選に。

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4 デパートや初夢競う人いきれ 
<特選> <正選> る (1 点)
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る◯【評】文字通り読むと、人々が競って手に入れようとしているのは「初夢」そのものなのではないか?福袋みたいに中が何かは分からない。去年はおトクだったとか、高かったのにハズレだったとか。楽しい一句。 #nande_kukai

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5 耳鳴りや冬の自転車強く漕ぐ 
<特選> 妹,林,重 (6 点) <正選> 妹妹,林林,重重,好,ち,酒,屁,ひ,朧,科,黒,じ,光,夕,千,知,助 (20 点)
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妹◎【評】冬の自転車って、どの季節よりもいちばん「強く漕ぐ」が似合うと思う。冬の、キンと冷えた空気のなかを自転車で行くときの、あの耳の痛さ。踏み込むペダルの感触が脚に伝わってきて、実際乗ってる気になった。

林◎【評】自分だけに聞こえるノイズをあえてふっきるように、自転車で風を切っていく。冬は身体の内と外の境界が際立つ。結んだ唇、温まった体幹、ぴりりと冷たい頬の感覚まで伝わるよう。実感のある句だと思いました。

ち◯【評】耳鳴りをもっと強くしたいのです。キンキンに冷えた耳を全開にして、増幅させた耳鳴りのバリアを味方にして、自分の道を行く黒目の美しい女子高生。

ひ◯【評】冬休み。きっと、時間に追われている訳ではなくて、強く漕ぎたかったから、風や寒さを感じたかったから。季節と身体・世界と自分の繋がりがよく表現できているのでは…耳鳴りだって、生きてる証拠!!

酒◯【評】『逃亡くそたわけ』は車だが、耳鳴りをかき消さんと自転車を飛ばす、切迫してやや狂気じみた意志。「寒い中自転車を飛ばしたから耳鳴りがする」という説明的な句にも思えるが、切れが前者の解釈をより妥当にしている、か。

好◯【評】耳鳴りがして、耳がちぎれそうに痛くて、でも強く漕ぐ自転車。リアリティを感じます。「耳鳴りや」という強引な上五がいいですね。

知◯【評】冬の寒い朝、耳当てもなく耳が凍りそうになりながら、自転車を漕いでいるのが冬らしい。漕いでいるのは、男子高校生でもいいです。

夕◯【評】(自転車こいでると冷たく刺さる風に耳鳴りがして鼻の奥もつんとするあの感じ。なんかの合図のようにつんとしたとたんにぐんぐん漕いじゃいます。負けるか!ってなぜか思いながら。)

黒◯【評】そういえば、夏の自転車では、耳の存在も漕ぎ方の強弱も意識しない。そのことを思い出させてくれた句。一年中同じことをやっているのに、そこから得られる実感が違うのが新鮮でした。

光◯【評】冬の空気の冷たさ、耳鳴り、ペダルをぐっと踏み込む足、体重の分だけ傾く自転車、それらが綺麗に映像として浮かぶのに、当事者としての感覚も「わかる」。主観と客観を同時に共有できる句だと思いました。

朧◯【評】北風吹き荒れるなかを力強くこぐイメージがまっすぐ伝わります。素直で好きです。

屁◯【評】寒さで耳鳴りがするまで力いっぱい自転車をこぐ。耳と鼻と頬は真っ赤。白く激しい息。そうまでしてたどり着きたい目的地はどんなところか。普通に家に帰り着くだけかもな。

じ◯【評】夏はどれだけ風を取り込むように走るか。冬はどれだけ熱がこもるように走るか(その勢いの分耳が凍る)。教室に着くころは白い息と真っ赤な耳。

科◯【評】「冬の○○」という言い方が好き。「冬の自転車」だけで、風の冷たさや、かじかんだ手足が想像できる。耳鳴りと自転車を漕ぐことの間に因果関係が有っても無くても、上五で冬の寒さと孤独が引き立っている。

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6 強情やくちびるましろ肩に雪 
<特選> じ,甘,知 (6 点) <正選> じじ,甘甘,知知,好,栗,子,ひ,彗 (11 点)
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ひ◯【評】白いくちびるは、雪の冷たさのせいだけではなく、強い感情も表現している。肩の雪よりも白くなるほどの気持ちって、一体、何があったのだろう…。

子◯【評】くちびるが白くなるほど、肩に雪が落ちてくるほどの時間経過。どれだけ強情なのかしら、寒空に。雪が降るほど寒い空気を感じたのは、「ましろ」という言葉で、空間全体も白いイメージが浮かんだからかも。

甘◎【評】強く唇を噛み締めると色を失うんですよね。別れ話の最中泣くのをこらえてるのでしょうか。そういう可愛げのない所がダメになっちゃた原因なんでしょうけど、こういう女性のほうが好きです。

好◯【評】強情できりりとした女性を思い浮かべます。あ、強情なこどもでもいいかな。強情なオヤジでないことを祈る(笑)。これも「強情や」というストレートな始まり方がいい。

知◎【評】別れ話でしょうか?肩に雪が積もるほど長引いていますね。でも男の人の目線がやさしいので、やり直したいのでしょうか。女の人には意地を張り続けて欲しいところですが。

栗◯【評】雪が降ってきたのでお出かけを途中で切り上げることになった家族。だがどうしても行きたいところがある子。おもちゃ屋か甘味屋か。叱られてもその場を動かず。ホットケーキ食べたいもん。子供の寒さへの強さを感じた。

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7 門松やトキを思ひて初涙 
<特選> <正選> 森 (1 点)
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森◯【評】街中の正月飾りに目にする御目出度い鶴、鶴、鶴。理由はともあれ帰郷を許されなかった人が、疎外された国鳥に自らを重ねて涙をひとしずく。実に気高く清澄な句である。おそらく北斗三兄弟とは無関係だろう。

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8 罪や我が吐く息さらに白くあれ 
<特選> 科 (2 点) <正選> 科科,碍,幽,飼 (5 点)
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碍◯【評】「我が吐く息さらに白くあれ」なんて、どうみても自己陶酔。中二病。でも、それに「罪や」が付くと、なんだか「俺、親父を刺して、家飛び出てきちゃったんだ!」的なドラマになって、その中二ぶりが愛しくなる。

幽◯【評】「罪」と「白」が近すぎる気もしたけど、早々と現れる「や」、さらに「息の白さ」なんて身近なものにしか託せない心情、両者共に犯してしまった罪に対する焦りを表しているようで心に残りました。

科◎【評】「我が罪や」ではなく、「罪や」で切れている。なので罪は主人公のものだけでなく世の中のあらゆる「罪というもの」一般を指すようになる。罪に包まれた中での、憤りと願いが混ざった主人公の悲痛さが良い。

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9 吾にふれる指の白さや冬の水
<特選> 白 (2 点) <正選> 白白,帽,ち,酒,黄,鯖,重,甘,大 (10 点)
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ち◯【評】ああバレてしまったのです。B美とはちょっとした遊びだったのに。恋人のA子は聞いてこないけど、冷たい白い指が詰問するように僕の腕をつかむ。僕は返事ができない。男に潔癖であることを望んだとき恋は破綻する。

酒◯【評】今ひとつ上句と冬の水の関係が読みきれないが(何とはなしに「つきすぎ」ているようにも)、指がふれるという行為のもつ(冷たい指であっても精神的な)温かさと、白・水の冷たさの対比、全体の澄んだ色彩の冬らしさで入選。

鯖◯【評】エロいな。白さを思って冷たさを思わないあたり一戦交えた後感出しやがってこの野郎! 枕元に水用意してるし。「吾」もムカつく! と一票。あ、火照った赤に地の白を思ってるかも…超ムカ!

甘◯【評】緊張で血の気を失った手に冬の水を思い出したのかな。手を繋ぐにも緊張してた頃あったあった。今じゃ嫌がらせで冷たい手を平気でお腹に入れるようになったけど。それはそれで相手は冷水ぶっかけられる位の衝撃な筈。

黄◯【評】神社で手水をする際、ふと触れたのだろうか。触覚より視覚が。指の冷たさより白さが。冬の水と言いながらその場の清廉な空気を感じさせ素敵。当初付き過ぎな感もしたがこの空気感はこの句の通りだから出せたと思う

帽◯【評】吾は「あ」と読んだ。王道の構文の強みを買う。季語が読みを冷温感・触覚に誘っているのに中七は視覚を言っていて、その分散が若干の混乱を呼ぶのは弱点だけど。

白◎【評】触れてきた女性の指が冷たくて、水に触れたかのように感じたのかな。水みたいに自然に、触れるのを許されている感じでうっとりしました。

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10 セーターや重ね着の稚児毛糸玉 
<特選> <正選> 少,芽,は,知 (4 点)
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少◯【評】親御さんの愛情だろうか。風邪をひかないよう、モコモコになったお子さん。それ自体が彩られた毛糸玉。全然、うっとうしさがない。

芽◯【評】親の愛情を感じます。いっぱい着せられた子供自体が毛糸玉の洋にまん丸で…ほっぺが赤くなるほどに。

知◯【評】セーターを重ね着して丸くなっているところが目に浮かんでかわいいです。太っている子だともっとかわいい。

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11 初凪や小石水面に咲かす花 
<特選> <正選> 珍,里,ひ,炭 (4 点)
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ひ◯【評】見事に色がない。白いスケッチブックに力強く少ない描線で描かれたデッサンの様。波紋が花として現れるのは、ひとりではないからなのだろうなと妄想。

珍◯【評】凪いでいるから、ほぼ正円として広がる波紋。水切りに興じる子どもたち、といった賑やかな光景ではなく、なんとなしにつまみ上げた小石ひとつを、戯れにぽいと放り込む、そんな静かで美しい画が浮かびました。

炭◯【評】激しくはなく、凪いでいる水面に、小石によって広がる波紋。静かな世界。ECMレコードのジャケットみたいだ。

里◯【評】静から動への変化と、波紋を咲く花に例えたのが、小石を投げる行為と相まってかわいらしいなあと思いました。そこにないのに、なんとなく、ピンクの蓮の花を思い浮かべました。

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12 太箸や名も知らぬ人家族となり 
<特選> ひ (2 点) <正選> ひひ,帽,蓬,好,朝,栗,屁,茅,碍,丼,る,光,夕,千,崖,森 (17 点)
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森◯【評】家族とは名であるとも言えるが、そもそも家族の一員が増える場合、最初その人は名前も知らなかった人である。また家族とは同じ釜の飯を食べる人々である。あんた誰だか知らんがよく食べるなぁ(肩をバシバシ)

蓬◯【評】つねに同居する家族ならふつう名を知らないってことはない。家族の範囲が広がる特別な日、の風景を「太箸」のひとことで伝えるのがおみごと。「名を知らぬ」だったらもっと特選と競っていたかもです。

碍◯【評】食事とは、お互いが家族であることを再確認する場。去年の今頃は名も知らなかった人が今一緒に元日の食卓を囲んでいるという感慨を静かに伝えて、お見事。たぶん見合い結婚。たぶん新妻視点。たぶんさだまさし

ひ◎【評】名も知らぬ…名前だけでなく名字すらも曖昧にしか分からない様な、年の離れた姉の婚約者を我が家に迎える嫁入り前日譚などを妄想…向田邦子久世光彦的な…末尾の「なり」が柔らかく感じられました。

丼◯【評】新年をきっかけにきょうだいが許嫁を連れて来たのでしょう。「名も知らぬ」というよそよそしい言い方と、「家族となり」という近しい言い方の距離感が良かった。

る◯【評】昭和の大家族?いや、今でも十分あるか。正月に都会から帰ってきたら家族が増えていた。しかも自分より馴染んでいる。今更名前も聞き辛いし、話しかけようにも敬語にすべきか悩む。「太箸」がいい。

茅◯【評】いつもと違う正月用の箸のつかみづらさと、名前なんでしたっけ、とはもう訊けない居心地の悪さがむしろ家族っぽい。「この場」にいたらもう家族なんだよなという不思議さ。

好◯【評】「名も知らぬ人」というのはちょっと不自然だけど(名前ぐらい聞いてるんじゃないかな)、「家族となり」の暖かさがいいですね。字余りがとても印象的で「太箸」もうまい。

屁◯【評】結婚して初めて伴侶と実家で迎える正月。食卓に太箸を並べる。箸袋にはそれぞれの名前。これまでなかった新しい名前が一つ。それを見てふと思いだす伴侶との馴れ初め。そんなストーリーが鮮明に浮かびました。

夕◯【評】(お正月の集まりで誰なんだかわかんない人もいるけど(太箸で)一緒に大鉢つついたらもう家族でいいよね。って酔った頭で思う。)

光◯【評】正月帰省したらなんか知らない女の人がいる!何、兄が結婚!?そ、そうか、お、お義姉さん…。という戸惑いを感じて面白い。逆だとしてもはまる。家族の不思議さとおかしみが表れているところもいい。

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13 写真機や空は寒いから飛ばない 
<特選> 幽 (2 点) <正選> 幽幽,寝,黒,千,崖 (6 点)
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幽◎【評】カメラの持つ「見る/見られる物語に持ち込む機能」が、対象(単純に考えると鳥だが飛行機とかでも面白い)の飛ばない理由を決めつける。この暴力性が寒さのなかで響いている感じがとても好きでした。

黒◯【評】「飛ばない」のは何だろう。「写真機や」の重々しい感触を経て「飛ばない」という断定に至るのが面白い。とにかく「写真機や」が好き。

寝◯【評】写真機で空を自由に飛ぶ鳥を追いかけ、本当は羨ましく思っているのに、自分は「寒いから飛ばない」んだと強がっていると読みました。「すっぱい葡萄」のキツネのように。

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14 玉砂利をゆく人波や初鴉 
<特選> 彗 (2 点) <正選> 彗彗,子,碍,少,C,重,崖,裏,大,く (11 点)
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く◯【評】初詣の風景が目に浮かんだ。鳩とかメジロとかじゃなくて、ここは鴉だよなあ、と(この表記の仕方も含め)。「初鴉」が最初じゃなくて最後にくるのもいい。「や」をつかった甲斐があるかんじ(えらそうですいません)

碍◯【評】なんとも安定感のある俳句らしい形に惚れました。「初」というからなんだかおめでたい気分になるけど、でもこのカラスの鳴き声、初詣に向かう群集を、どこか小馬鹿にしてるよね。そういうのも俳句っぽくてステキ。

少◯【評】やはり、初詣の光景でしょうね、これは。なぜだか、寺社仏閣にはカラスが付き物のような気が…(自分だけか)。でも、ここは神の使いとしてのカラスに敬意を表して。

C◯【評】こっちの鴉は昼間。玉砂利の音と鴉の鳴き声。音が良かったので選。鴉に馬鹿にされているのかも。

子◯【評】初詣での光景が浮かんだ。参道の玉砂利を踏む音は進むに連れて、初詣というある種のイベントを盛り上げる効果音にもなる。その上、神社(の杜)につきものの鴉の声。下と上、両方向からの音で空間を感じる。

大◯【評】初詣、玉砂利のごとく沢山の人々の上をひとっ飛びに鴉が行く。少し馬鹿にされたような気にもなるが、壮快でもある。

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15 故郷やガタゴト揺れる電車かな 
<特選> <正選> 
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16 歳晩やマンホール蓋の危なきを 
<特選> 巻,助 (4 点) <正選> 巻巻,助助,凡,炭,飼 (7 点)
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巻◎【評】たしかに歳晩はマンホール蓋に気とつけないとね。師走だし。でもほかにもいろいろ気のつけようがあるし。つまらないよ。でもそのつまらなさが(それゆえに)ふいに極大点に達して、かえって驚愕させられる。

凡◯【評】バイクの走行中はバイクと肉体だけでなく思考も走行してて(思考も走行してて、に傍点)、マンホールに気をつける気持ちもすぐにマンホールを通り過ぎちゃう。切れ字じゃない方の助詞「を」の面白さ。

炭◯【評】外出する人へ向けて忠告するような、少し張り詰めた句。年末の浮ついたムードでも足下は気を付けよう。雨が降ったら滑るし、もしかしたら開くかもしれないし。

飼◯【評】暗い夜道は危険がいっぱい。マンホールの蓋が浮いてたり、それにつまづいてこけたり。大晦日って確かにちょっと油断してるよなぁ。

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17 初鶏や眼鏡のずれて目が覚める 
<特選> 凡 (2 点) <正選> 凡凡,妹,里,炭 (5 点)
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妹◯【評】寝落ちしたんでしょうね。大晦日、たくさんお酒飲んで、よっぽど楽しく過ごしたんだろうなあ。起きたとき「ふがっ」て言ってそうな、漫画みたいなひとコマ。

凡◎【評】眼鏡をしたまま寝て(鶏の声で)起きたというだけのことだが、扱う手つきが繊細。最初「あるある」と思い、寝ているときのわずかな動きを自分では見られないことに気付いてしまった驚きが、遅れてこちらにも。

炭◯【評】眼鏡を掛けたまま寝たって事は、友人達と夜遅くまで騒いでいたのでしょうか。周りにはまだ寝ている友人ら。眼鏡を直して窓を見れば、そこは晴れ晴れとした初日の出。

里◯【評】眼鏡をかけたまま酔いつぶれ、鶏の声に驚き目を覚ますと眼鏡がずれている。ギャグマンガみたいで面白い描写でした。想像の中では、イメージキャラクターはなぜか凡センセー。

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18 大喧嘩の後の眉間や鏡餅 
<特選> 森 (2 点) <正選> 森森,酒,丼,寝 (5 点)
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森◎【評】正月の団欒って大抵濃密すぎてうんざりするものである。人が集まっては泣き笑い諍い慰め合う。大喧嘩など、餅を崩しておしるこにしちゃえば丸くおさまるものでしょう。眉間の縦皺と鏡餅の形状との対比が素晴らしい。

酒◯【評】その眉間は依然不服さを称えながらも、正月特赦で和解に向かう、複雑な形をしているだろう。切れすぎなくらい切れているし、眉間にすごくフォーカスがいく。特選と迷ったが、切れ字の練習という兼題でなければどうだったか。

丼◯【評】眉間の皺を鏡餅に入るひびと見たところが面白い。新年から親はうるさくて、久しぶりに会っても喧嘩してしまいがちですが、仲良くしたいものです。でもその相似に気づくあたり、もう仲直り済んだのかしら。

寝◯【評】たまに会うのに喧嘩するのは何故なんでしょうね。「ああ、だから離れて暮らしているのか」と改めて思うんですよね。デーンと座り込んだ頑固な父親の姿と床の間に飾られた大きな鏡餅が重なりました。

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19 暖房やセーターのそで捲り上げ 
<特選> は (2 点) <正選> はは,彗 (3 点)
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20 初春や在るものすべてきらきらし 
<特選> <正選> 重,千 (2 点)
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21 凧上げや遠いツェルニーだけが音 
<特選> 朝,酒,茅,碍,C,黒,光 (14 点) <正選> 朝朝,酒酒,茅茅,碍碍,CC,黒黒,光光,帽,珍,蓬,林,波,鯖,朧,る,白,凡,雪 (25 点)
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蓬◯【評】ツェルニーはバイエルの次くらいの練習曲ですね。つまり子供の、からっぺたでもないけど情感には全然至らないような演奏で、それが凧揚げの空にばらけていくのは物寂しくていいなあと思いました。

碍◎【評】凧上げという作業に秘められた静謐な孤独さを、遠く聞こえるツェルニーを配することで描いた巧みの技に特選。ピアノの音でもバイエルでもない、ツェルニーってのがまた地に足がついてない感じで凧にぴったり。

林◯【評】大人の凧上げ。懐かしいピアノの練習曲は、どこかの家から風に乗って聞こえてくるのか、子供時代を思い起こすその人の頭のなかに鳴っているのか。水色の空が似合う、きれいな句。

C◎【評】親子でのドタバタホノボノしたものではなく、孤高の凧揚げ。空は青く、空気は冷たく、凧はどこまでも高く、糸はピンと張っている。今回の153句の中で一番好き

酒◎【評】「だけが」で音の無さを、音の無さで風の無さ(風は高いところにだけ吹いている)を言い、空間(視界)の広さや澄んだ空気を感じさせる上手さ。ツェルニーもやや無機質で、キリッとした冬の河川敷に合う。隙のない句。

波◯【評】「ツェルニー」によって凧上げの光景に色彩が生まれ、「遠い」・「だけが音」によって、その光景と自分との間に物理的に距離が生まれる。してみると何だか静かで、確かにツェルニーだけが聞こえているのだ。

鯖◯【評】ツェルニーね、ツェルニーいいよね(ググりました)。記憶のなかの凧揚げは無風で飛ばないかビリビリいう風のなかのどっちかでこの句のようなコンディションでしてみたいなあ。

珍◯【評】「ツェルニー」がなんだかわからなくてもカッコいい句。「だけが+体言止め」の下五がイカす。凧上げとの対比があるためか気取りも感じられず、現実にも空想にもぶれずちょうど中心で針が止まっている印象。

凡◯【評】かっこいい句!ただ、遠いツェルニーと言うが、凧上げも「遠い」のでないと成立しない。凧上げ現場は賑やかだから。それともフランクリンの実験みたいに一人きりだったのか。迷う点で◎にできず。

る◯【評】凧上げも楽器の練習も孤独な営み。元日のどこかさみしい風情にツェルニーという固有名詞がよく響く。「だけが音」という言い切りもカッコいい。

茅◎【評】映画のエンディングみたいだなと思いました。遠い位置のカメラが河原を撮っていてたどたどしいピアノがきこえて、さらにカメラは引いていく。寂しくて美しい。

黒◎【評】土手の上からぼんやりと子供たちの凧揚げを見ているところか。「凧揚げや」で上に、「遠いツェルニー」で奥に空間を広げているのが凄いと思った。17音でここまでできちゃうなんて!と思ったので特選。

光◎【評】凧を上げる時、凧そのものと、自分とそれを繋ぐ糸を引く指の感覚に人は集中する。経験的にはその時外界の音から遮断される感覚を味わっているので、そこに飛び込むツェルニーの鮮やかさがぐっときた。

帽◯【評】中七下五がビシっと決まってる。季語選択は正直言うとやや印象散漫で惜しいがそういう文句つけたくなるのもいい句だから。なお日本の音楽業界の通弊でツェルニーと呼ばれてるけど正しくはチェルニー

雪◯【評】凧の揚がる青空の遠さ、今地上に満ちる様々な生きる音の中で、ツェルニーを練習するたどたどしいビアノの音だけがあの高さにも届くだろうと、澄んだ冷たい風の中で思っている。きれいな句で惚れ惚れ。

白◯【評】似たようなことをたき火をしている時に思ったことが。「だけが音」なんだけど、実はもっと違う風の音とかを耳は聞いている気がする。

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22 温もりも残さず去るや冬日向 
<特選> 珍 (2 点) <正選> 珍珍,く,栗,屁,黄,子,白,芽,地,飼,知,裏,大,助 (15 点)
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く◯【評】冬の日照時間は本当に短い。外で仕事している者にとって、ものすごく実感できる句。寒さを言っている句なのに、「温もり」「日向」っていう言葉に挟まれてるおかげで読後感は寒くないのがおもしろい。

子◯【評】冬は日向はぽかぽかしていることがあるが、日が陰ると途端に寒くなる。明から暗へ光がさると気温も変わる。視覚から皮膚の感覚への移行。人間の身体を感じるのがいい。

芽◯【評】今までほかほかと麗らかな日向にいたと思ったのに、気づくと寒さが足下から上がって来ている。その時間の動きがぎゅっと詰まっている感じが面白いと思いました。

珍◎【評】はじめオーバーかなと思ったが、雲や庭先にやってきた車なんかのせいで陽が遮られ、それで冬日向の儚さを詠んでいると捉えれば誇張はないなと特選に(悩みに悩んだものの)。上五は「も」しかないよなー。

地◯【評】日が陰ると急に冷えてくる。ちょっとずつ日向に移動したりする。寒いんだけど、なぜか暖かさの方を強く感じた。

黄◯【評】待ち合わせ場所に到着。ほぼ定時に。ベンチに座って待つ。この日は晴れて天気が良かったから。待ってた人すぐ来た!良かったヨ!寒かったもん。ベンチは冷えたまま去る。不思議と幸福な景色が感じられイイ!

知◯【評】日が陰るのが早く急に寒くなってくるので、まさにという感じでした。温もりというのがよかったです。

大◯【評】陽が当たってあたたかなのもつかの間、陽があたらなくなればあっという間に冷えてしまう。そんな冬の天気をさくっと切り取った。

栗◯【評】冬の日向は日が傾くとすぐに冷えてしまう。当たり前だけど、去るや、にその場の視点を感じた。猫の気持ちかも。

飼◯【評】冬の日は短いうえに預金がない。日差しが過ぎた場所から途端に寒さが忍び寄る。そんな気候がうまく表現されている。

白◯【評】冬の日差しは、その時だけは暖かさをくれるけど、さっといなくなる。夏とはちがうささやかさ。冬のやさしいところを教えてくれてありがとう。

屁◯【評】確かに、冬の日向は陰った瞬間に寒くなるな、と膝を打ちました。同衾していた異性が知らぬ間にそっと去って、朝の日向にひとり残された。と、とってみても面白いかなあ。

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23 方言や非難のオトココトバなし 
<特選> <正選> 黄,白,裏,森 (4 点)
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森◯【評】「鉄矢なんばしよっとか!」は果して何コトバだろう。オトコオンナの違いも知らないけど何となくダウト!?と突っ込んでみたくなって選。ちなみに母、妻、彼女のコトバは非難以上にただの世話好きだと感心する。

黄◯【評】標準語だとやけにつっけんどんな言葉も方言なら何故か温かみ親しみのある言葉ってありますね。「馬鹿」って言葉だって「あほ」「たわけ」…方言で言われれば何か丸みのある言葉かなと地方出身者の私は只々首肯

白◯【評】「え? 今のそれどんな意味? 言わないよーそんなことー」って笑われて黙ってしまった男のひとを思ってかわいかったです。

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24 よく眠る祖母やくずれる雪の音 
<特選> ち,屁,鯖,千,雪 (10 点) <正選> ちち,屁屁,鯖鯖,千千,雪雪,珍,蓬,好,妹,く,波,黄,里,茅,丼,幽,白,芽,鶴,じ,光,甘,巻 (28 点)
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蓬◯【評】家の中の小さな平和と、取り囲む静かで少し恐ろしい自然が、ほんとさりげなく並べられていて、美しいなあと。

く◯【評】「くずれる」のは雪なのに、祖母の命が案じられる。静かで平穏な日常の中にひそむ不穏な空気。

妹◯【評】「よく眠る祖母」にグッときた。積もる雪と、暖かい布団、寒と暖が両方ある。おばあちゃんがその「暖かい方」に居てくれていることが、何より嬉しい句。昨夏亡くした寒がりの祖母を想って、余計にそう読めた。

巻◯【評】しずかに雪の音が聞こえます。やかんの蒸気の音もするかも。サロンパスのにおいもするかも。そして切れ字の「や」が中七のなかほどで、気持ちよく眠っている(あるいはなめらかにくずれている)感じがすてき。

ち◎【評】すやすや眠る祖母、しかし外で雪は崩れる。今は元気な祖母にいずれ訪れるであろう、静かな死の気配がします。「や」の切れ方が全句中トップの切れ味。その「や」の切れ方に、死による現世との切断が見えます。

鶴◯【評】大切な人の眠る姿は、どうして不安なものなんでしょうね…。必死に寝息をきいていて、雪の音で少しはっとする。息をつめていたことに気づく。そのときの自分はたよりない子ども。気持ちも景色も浮かびました。

波◯【評】眠っている人を見ると、本当は死んでいるんじゃと強い不安に襲われることがある。まして祖母。どさりと落ちる雪の音にびくりとする。「眠る」も「くずれる」も不穏で、胸の上下を確認しようと目を凝らす。

丼◯【評】縁側で日向ぼっこしながら祖母が舟を漕いでいます。日差しに溶けた雪が枝から滑り落ちると同時に祖母の体が大きくゆれる様子が見えてユーモラス。作者の祖母への思慕も伝わってきました。

芽◯【評】老い先短いだろう祖母をそっと見守っている孫の優しいまなざし。家族をいとおしく感じているさまが優しさを感じます。

鯖◎【評】そこまで書かれていないのに祖母の遠くない死を感じた方が複数いますね(僕もです)。別に「くずれ」たからじゃないですよね。不思議。お題「や」の使い方としても一番と思います。

茅◯【評】雪の照り返しでよけい暗く思える室内と、「よく眠って」いることの安心と不安でこちらの呼吸もちょっと静かにしてしまい雪の音まできこえる。切ない。

甘◯【評】雪が周りの音を吸収して祖母の寝息が聞こえる程の静かな静かな夜。世界はもしかしたらここにしかないのかもしれないって不安になるなかで崩れる雪の音だけが現実とのつながりを感じられる瞬間。そしてまた不安に

珍◯【評】嘘みたいに晴れた冬の午後、大きな窓のそばに置かれたマッサージチェアうたた寝する老婆。なんら特別でない日常を詠んで「いいな」と思わせる、これが俳句だなあと。「ズズゥン…」という音が耳に蘇った。

好◯【評】雪がつもっていると静かなんですよね。聞こえるのは祖母のかすかな寝息と雪がくずれる音だけ。死の影が仄見えるところがいいです。

黄◯【評】この祖母は家族全員から愛されている存在なのだ。夕御飯前に寝ちゃったんだろうな。コタツとか入ったまま。何度起こしても起きないんだろうな。この句に死の気配はない。日常。家族愛。素直な良い句。好き!

幽◯【評】祖母は亡くなったばかりだと読みました。眠ったようにしか見えない祖母の傍らで思いを馳せていると、雪の音がする。そこに何か因果を見いだしたくなる気持ちが感じられます。綺麗な句だなあと思いました。

里◯【評】映像(動画)として美しく、また、見えないが少しずつ確実に負荷が掛かっており、やがては落ちる雪が、まだ祖母の命が続いていることと、しかしやがて尽きるだろうことを暗示しているようだった。

屁◎【評】家人はみな出かけ、祖母と留守番する冬の昼下がり。いつの間にかひだまりで昼寝している祖母。一人じゃないのに一人ぼっちの静けさ。その静けさに形を与える「雪の音」。こういうのが詠めるようになりたいなあ。

光◯【評】年寄りのか細い寝息が聴こえる程の静寂。そして祖母のそれよりは少し大きな音で雪が崩れる。はっとして窓の外を見る。また振り返って祖母の寝息を確認する。安心と不安のバランスがすごく「日常」

雪◎【評】外の寒さと暖かな室内、眠る祖母は白髪に雪の色を持って、祖母そのものが言葉もなく横たわるひとつの自然のようだ。雪の崩れる音が静寂を強める。祖母もいつか崩れてゆくだろう。無情なところのある愛情の句。

じ◯【評】もう雪の音くらいでは起きなくなってしまった祖母と、昔を思い出しながら介護をしている女性を思い浮かべます。こういう家族になりたいなぁ。

白◯【評】これは思いきり自分の知っている光景すぎて、そこから離れられませんでした。寝たきりの祖母の向こう、夜のうちに庭木に積もった雪が昼の光で溶けてくずれる。でも動かない寝たままのひと。

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25 冬晴や効き目の長い風邪薬 
<特選> <正選> 妹,く,ち,林,波,科,幽,藤,凡,地,崖,巻,助 (13 点)
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く◯【評】冬晴の澄み切った空気の中で、ぼんやりとした頭を抱えている。薬は効いてるけど、なんだかすっきりしない。でも飲んでなかったらこうして出歩く元気はなかったかも。とか、ぼんやりした頭で考えてる。冬っぽい。

妹◯【評】冬晴れのシャキッとした空気と、薬の作用によるボンヤリ感が相反してて、なんだか可笑しかった。いまは風邪が辛そうだけど、このひとだったら、じきに何とか治しちゃいそう。治ったら楽しいことが待ってそうだ。

巻◯【評】三〇年前なら、たとえば森本レオのナレーションで、製薬会社のコマーシャルにつかわれていてもいいような。清浄でクリアーなのにとろんとしている、という不思議な感覚。なんだか恋をしているふうではありませんか。

林◯【評】風邪薬は症状のつらさを抑えてくれるだけで、根本的な治療にはならないのだとか。あったかくして寝てるのが一番だけど、そうも行かないのだろう。週末までもうちょいがんばれよ、と自分の体に言ってみる心境。

ち◯【評】新エスタック12をご購入ですね。空のスカーンとした感じと、鼻水ずるずるであたまがぼーーーっとしている対比がおもしろかったです。

波◯【評】「効き目の長い風邪薬」という言葉がふと立ち止まらせる力を持っている。口にしてみても気持ちが良い。風邪と効き目の長さが反発しあい、結果的に言葉の上には無いはずの鈍く麻痺したような体感が引き起こされる。

凡◯【評】「プレコール朝と夜だけ飲めば効く」を超えたかというと心許なさは否めないものの佳句である、とかいって。午後の眠気をうまく言い表して、実はちゃんと俳句だ。季重なりが惜しい。こういうのはもっと俳句にしたい。

地◯【評】これはおもしろいですね。風邪ひきのボヤーンとした頭で、薬局でどれがいいか選んでいる。「眠くならない」とか「1日2回長く効く」とか箱の効能を読みますよ。こんなに効き目の長さに注目したことは初めて。

幽◯【評】風邪でぼうとしている時間ってやけに長く感じますね。「風邪薬の効き目」がその「長く感じる時間」を暗示しているようです。外は晴れていて、他に語ることがない様子も「や」の切れで強調されてる感じ。すごい。

藤◯【評】眠いんですね。眠いのは春ばかりではないですよね。一年中眠くて、特に冬は風邪ひきやすいし風邪薬は眠くなりやすいし、眠くてもしょうがないです。と主張するこの人は別に風邪ひいてないし風邪薬飲んでないと思う。

科◯【評】薬の効き目が長いのは良いことのはずなのに、句には特に喜びが感じられない(それが良い)。日差しの中でまどろんでいる気だるさが伝わってくる。「効き目の長い」という言い方も、まどろっこしくてどこか眠そう。

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26 早々にまどろむ人や年始酒 
<特選> 少 (2 点) <正選> 少少,丼,朧,重 (5 点)
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少◎【評】年始酒、といいつつも、既に大晦日から、飲んでるんでしょ、といった光景。なんというか、正月休みにおける、うらやましいような油断を感じさせる。

丼◯【評】新年の祝酒で眠ってしまったおじ。おばにしょうがないわねとか言われてます。つつがない新年の平和な景が浮かびます。非常にお酒の弱い私には他人事ではないので、不様な姿を晒さないよう気をつけましょう。

朧◯【評】年始の集まりはたしかにスタート時間早いよな。六時に行ったのにもう酔ってる!という年に一度の出来事をきりとった。

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27 冬晴や並んだビンに触れていく 
<特選> く (2 点) <正選> くく,珍,林,波,子,る,白,藤,凡,鶴,じ,地,雪,裏 (15 点)
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く◎【評】冬晴にもビンにも、張りつめた透明な冷たさがある。ビンはモランディの瓶みたいなやつかも(透明じゃないが冷たさは感じる)。並んだビンに順々に触っていくのは、きっとその冷たさに触れたいから。ぐっときた。

林◯【評】洗った保存瓶を、日光消毒もかねて(?)窓辺で乾かしている。冬の短い日射しが、角度を変えながら空っぽの瓶にあたってきらめく。木琴のばちで鳴らしたら、ぽわんぽわんといい音出そう。

鶴◯【評】この人はひとりだ。寒くて晴れていて、きれいなものと自分だけ。誰もいないから触ってみる、あの時の涙が出そうな気持ちはさみしさというのかな?全身が感覚になっている。

波◯【評】冬の空はいつも青が白く、透明のビンが一列に並んでいる。そのビンは周りの景色の色を取り込んでいて、ビンの口に触れてみてはずんずん歩いていく。機嫌がよい句に思えた。

子◯【評】宴の翌朝の静けさを浮かべました。年越しかしら。ビンに触れていく、ということは数があるということ。時間を感じるし、これも、手先にビンの感触や温度を感じるのがいい。

る◯【評】宴の翌朝、日が当たって角度によっては虹色に反射するビン。「触れていく」という控えめな動作が、繊細な好奇心、または美しいものに近づきたいという控えめな願いをよく表している。

凡◯【評】たくさん飲んだね。しかし、恣意的でないにせよ、人間が並「べた」ものを、そうと知覚しないところに繊細な把握と心地よさがある。わずかだが、手柄が景色じゃなくてちゃんと作者の側にある句。

珍◯【評】塀の上にビンを並べている家、そういえばあったなあ。朝日を透かしてそれらが美しく見えたら、自分も触ってしまうかも。石野卓球『Polynasia』のPVみたいに、手を伸ばして移動しつつだーっと。

地◯【評】朝の出勤時、きれいに並んだビンが光っている。多分冷たいのだろうけど、そっと触ってみる。もちろん手袋はしていない。すがすがしくて気持ちのいい句。

藤◯【評】不燃ゴミの日。早朝に、徹夜明けの体で瓶を出しに外に出る。ふつうならゴミ袋にまとめるところを、ひとつひとつ手で持っていって並べてしまうところがまだ酔っている証拠。きれい。

白◯【評】宴の翌朝か。人がたくさんいて、熱気があった場所も、いまは瓶に姿を変えて、冷たい。片付けているこの人に新しい一日がきてる。

雪◯【評】勝手に早朝を想像。朝の透明な光と道すがらのビンの光、空気の冷たさとビンの冷たさはどちらも同じところから来ていて、伸ばした指先がその「冬」に触れる。光も冷たさも語らないのに想像させてすごい。

じ◯【評】冬に、ビンが並ぶことなんてお正月くらいしか思い浮かばない。みんな寄せるだけ寄せて帰ってしまったあとの片づけをしている奥さんってイメージ。触れていく、がまだ酔いが残っているような。

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28 ドンジャラやこたつ使いし涙飲み 
<特選> <正選> 朝 (1 点)
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29 初富士や河原は永く緑なる 
<特選> <正選> 
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30 年越しや君がいなけりゃいつもの正子 
<特選> <正選> る,助 (2 点)
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る◯【評】ある種の三角関係?「正子」はきょうだいかイトコか、身近な存在。呼び捨てが距離を表現している。「君」がいないことにどこかほっとしている、小さな嫉妬。でも「いつもの」年越しもそう長くはない。 #nande_kukai

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31 一月や遠くの山の澄みわたる 
<特選> <正選> 少 (1 点)
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少◯【評】この季節の日常。自分の場合、夜勤明け、西側の朝日に照らされる姿を思い起こされる。自分の居場所を思い知らされるような気もするんだ。

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32 四日市工業地帯や今レジャー 
<特選> <正選> 朝,丼,は (3 点)
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丼◯【評】四大公害の一つ、四日市ぜんそくの地も環境対策が進みレジャー産業も開発されるまでになりました。福島の復興は時間はかかるでしょうが、除染を進めて回復してほしい、という句と読みました。

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33 隣人の事情聴取や初句会 
<特選> <正選> 帽,栗,は,甘,彗 (5 点)
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甘◯【評】やりました。やりました。あのやり取りは完全に事情聴取。もう分かる以外の何ものでもありません。初句会に参加した皆への挨拶句かな。

帽◯【評】おもしろいシチュエーション。その隣で句会やってる側も気になって句に集中できない感じがいいね。

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34 元旦やにきび弄りはてリモコンは 
<特選> <正選> 少,夕,巻 (3 点)
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巻◯【評】年末年始の糜爛が見事に(無様に)定着されています。やっと見つけたリモコンは、にきびの油脂やニコチンやみかんや焼き肉のたれやでべたべたしていることでしょう。

少◯【評】こちらもダラダラした姿が切り取られている。ニキビができちゃったのは、連休の不摂生か、はたまた若さによるものだろうか。

夕◯【評】(絶対爆笑ヒットパレード見ながらこたつで寝っ転がってると思う。無意識リラックス。最近出来たニキビ触る癖にも気付いてない。お笑い番組に飽きつつあることにもまだ無意識。)

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35 新月や蒲団も凍るひとりごと 
<特選> 藤 (2 点) <正選> 藤藤,ひ,科 (4 点)
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ひ◯【評】ひとり、独居に帰り、凍てついた月を見上げるなんて、寂寥満載。夢想すれば、雨戸のない今時のマンションに寝起きする若者のイメージ…何をつぶやいたのだろうか。

藤◎【評】これは一見ひとりきりの寂しい句のようですが、私はぴーんと来た。新月ってのは女の子デスヨ!新月みたいに細い女の子!寝てると思ってアホな独り言を言ったら、起きてた彼女にドン引きされたというわけじゃ。

科◯【評】徹底して自分を強く意識しつつも、「ひとりごと」と言えるということは、そんな自分を客観視してもいるのだろうか。それも含めて、ひたすら「寒さ」のイメージを高め上げた言葉の使い方がすごい。

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36 初空や歯軋りきしり耳をかみ 
<特選> <正選> 
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37 煤掃や薬指のみ祖父に似る 
<特選> 帽,好,栗,子,朧 (10 点) <正選> 帽帽,好好,栗栗,子子,朧朧,林,幽,寝,芽,黒,じ,地,光 (18 点)
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林◯【評】特徴的な薬指なのだろうか。長さや太さ、節くれ、または爪の形。祖父との微妙な距離感で、血縁の奇妙さを詠んでいる。掃除で黙々と手を動かしながら、亡き祖父を偲んでいるのかな、とも。

子◎【評】普段意識していないだろう。ふとした瞬間に目に入って、あぁここが似てるのかと気付く感じがいかにも肉親のそれという感じがする。顔や体格であれば普段から意識しそうだが、そこは薬指。掃除の際にふと目に付きそう

芽◯【評】親や親戚から「そこだけはおじいちゃんの引っこ抜きだね」などと言われていたのを再確認したのか、と。脈々と繋がる温かい家族の繋がりを思いました。

地◯【評】薬指のみというのがいい。祖父というのもいい。直接の両親でなく隔世遺伝。普段は気づかないけど、毎年大掃除のときだけ思い出す。お祖父ちゃんが生きているのなら会いに行こうと思うきっかけ。

好◎【評】薬指は象徴的にも読めるけど(女好きとかね)、そう解釈しない方がいいですね。薬指だけ似ていることなんてふつうは気づかないけど、なるほど、と思わせてしまう。

幽◯【評】煤掃なんていう作業をしていて初めて気づいたってのがなんか粋な感じがありますね。似てると気づいたってことは、祖父の薬指を何故かよく知っていたことになる。このディテールも想像をかき立てて面白かったです。

黒◯【評】いつもやらない作業をするといつもは気付かないことに気付きます。この人はもしかしたら祖父の使っていた箪笥とか机の掃除をしているのかも。祖父と仲良しだったからこその気付き。

光◯【評】年を重ねるにつれて、ぎょっとする程親類と自分が似ていることに気づいたりする。「祖父」とは自分が生まれたときからある程度老人だったわけなので、血縁だという事実と同時に自分も年を取ってきたという実感も。

帽◎【評】そんなわきゃないだろう!と思いつつ強い断言に「お、そ、そうか…」と押し切られ特選。よほど特徴的な薬指なのか。祖父母の結婚指輪が孫夫婦に移譲されたのか? そんなわきゃないだろう!

栗◎【評】これは普段見せない足の指なんだと思う。煤払いで脚立に乗るため靴下を脱ぐ。血の系譜はこんなところに。実際に明治生まれの、亡き大伯父に足の指がそっくりだと言われた経験があり、懐かしくて選びました。

朧◎【評】薬指同士が似てるんじゃない、祖父“そのもの”に似てるんだと思う。煤掃って手元が目にはいる行為だな。

寝◯【評】祖父の指の形まで覚えているなんて相当のおじいちゃん子だったんでしょう。おじいちゃんの手仕事にじっと見入る子供の姿を想像し、微笑ましく思いました。皺の寄り始めた自分の手を見て気づいたのでしょうか。

じ◯【評】祖父の薬指を覚えている、なんてことがあるのでしょうか、と思うと、小さい頃手を繋いだ祖父の薬指には指輪があった、程度の記憶から、掃除の合間に、ふと思い出したんではないでしょうか。

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38 先長き二年参りや線路脇 
<特選> <正選> C,飼,大 (3 点)
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C◯【評】そうだよね、長いよね。と、共感から選。なざ渋滞や混雑はなくならないのだろう。 皆、お参りが目的ではない。連帯(混雑を共有する事)を味わいたいんだ。きっとそう。

大◯【評】線路脇まで流れ出した参列。先は線路のように長い。

飼◯【評】線路に二重の意味をもたせている。物理的な意味=参拝先への距離、時間的な意味=旧年から新年にまたがる時間。ちょっと技巧的かなと思ったけど、年をまたぐ線路という発想が好きなので。

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39 暴発やくちびる切れて初霞 
<特選> <正選> 
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40 ふるさとやほんまに喪中の正月か 
<特選> <正選> 妹,く,少,黒,鶴,夕,彗,巻 (8 点)
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く◯【評】喪中とは思えない穏やかな日常の風景を見てるんだろうなあ。そう言えるのは、たぶんとても仲のよい家族だから。亡くなったひとが愛されてたから。なんかじんわりきました。

妹◯【評】ほんとにじゃなく「ほんまに」なのが効いてる。「喪中の正月」以外のひらがなが(羽目を外した馬鹿騒ぎでなく)楽しくて賑やかなお正月を思わせる。故人はそういうのが好きなひとだったんだろうな。

巻◯【評】関西地方のふるさとの喪中らしからぬ正月が、ほんまに目に浮かぶようです。

少◯【評】喪中とはいえ、親戚一同が集まれば、それはやはり、皆で料理を食べ、子供たちはかけまわる。故人もあきれつつ喜んでるような。

鶴◯【評】そうそうふるさとって確かにこうだよな、と素直に思ったので。あきれたようにいいながら本当は誇らしい、あかるいわが家。

夕◯【評】家が喪中の時まさにこう思いました。お節は避けたもののお料理頼んでお酒飲んで雰囲気も例年と変わらずで。

黒◯【評】「ほんまに」が好き。大往生した故人を偲ぶ時の、少しだけ高揚したざわめきを思い出しました。大勢の人が集っていることからも、故人が愛されていたことが分かります。

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41 初空や大平洋に達磨浮かぶ 
<特選> <正選> 蓬,崖,森 (3 点)
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森◯【評】なんとも目出度い漂流物。ヘリまで飛ばして長回しのクローズアップを撮りたくなる壮大さと、結局水面からの一枚の画で理解できちゃうコンパクトさがある。無人島の遭難者はきっと椰子の実だと思って待ち構えている。

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42 仏壇や鏡餅までほどこされ 
<特選> <正選> 夕 (1 点)
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夕◯【評】毎年思う。仏壇なのに晴れがましいあの感じ。大掃除で磨かれてつやっとしてるし。で、なんか仏壇も照れてるように感じる。

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43 初雪やアイロンかける黒い指 
<特選> 大 (2 点) <正選> 大大,ち,茅,碍,科,藤,甘,裏 (9 点)
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碍◯【評】真っ白なシャツ、白壁の室内、窓の外の初雪、白い湯気、白いエプロン。でもアイロンをかけてるのは、黒人のメイドさんなのね。顔が画面の外にあって見えない「トムとジェリー」のメイドさんを連想しました。

ち◯【評】初雪の白さが目に痛い。女の指も本当は雪のように白く美しい。しかし彼女には秘密がある。白いシャツの持ち主には言えない隠微な秘密を思い出しながらアイロンをかければ、その指はもう闇の色にしか見えない。

茅◯【評】確かに雪の日って影がより黒く見える。アイロンをかけるという行為は動きがあって温度があるのにほとんど音がしないというところも雪の日に合っている。

甘◯【評】長年の作業で指に染み付いた油染みかあくか土汚れか。久しぶりに帰省した実家で無骨な指が慣れた様子でアイロンがけをする姿。そこに独り身になった父親の悲哀を感じる娘。そんな物語を想像して切なくなりました

大◎【評】アイロンをかけていると初雪が降って来た。アイロンを持ち上げるとふわっと蒸気が上がるので手元を見た。ああ、自分の指は黒いな。

科◯【評】「黒い指」とは黒っぽい指という意味かもしれないが、ただ言葉だけを見ていると、文字通り真っ黒な影絵や切り絵のような指が浮かぶ。そんな非現実的な指の黒と雪の白のコントラストが、不穏な感じがして良い。

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44 短日や午後の日差しに夜の色 
<特選> <正選> ひ,寝,知 (3 点)
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ひ◯【評】多分、この情景はトワイライトゾーンが始まる少し手前。赤い夕焼け前後のいろんな色が立ち現れる手前。夜の色も決して黒一色ではない…どんな色だろう。

知◯【評】日が短いからすぐ夕方になって外を見ると、もう夜の色が現れてきます。冬の夕方から夜になる時間はとても綺麗です。

寝◯【評】気づいたら暗くなっている冬の午後。午前と午後の日差しは明らかに違う気がします。この句を読んで、ああ、夜の色を含んでいるからかと納得しました。

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45 桜散る初夏を知らぬや黄色い葉 
<特選> 炭 (2 点) <正選> 炭炭,朝 (3 点)
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炭◎【評】四季を感じられるのは、一年を生きている動物だからこそ。桜の花も、散った後の葉も、夏を実感することはないんだな。四季の尊さを感じ、はっとしたため特選に。

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46 凍て星やグラス倒立して雫 
<特選> 黄,寝 (4 点) <正選> 黄黄,寝寝,酒,波,屁,里,碍,鯖,光,森 (12 点)
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森◯【評】グラスって倒立してたんだなぁと感心。「倒」と「立」って相反した語だけど、そもそも立つってこと自体が不安定なことだったのだな。言葉も景もカッコ良すぎるくらい、一筋の流れもスマート。

碍◯【評】凍て星とグラスの二物衝撃にシビレる。そして雫。天頂で弱々しく光る凍て星と硬質なグラス(シャンパングラスを想像)の光、一点に凝縮した雫の光という3つの異なる光が響きあって、うっとり。モテ句だ。

酒◯【評】小皿か升の上の日本酒か、コカコーラのクリスマスキャンペーンか。凍て星は空にあってもグラスにあっても良い。なんかそれっぽいだけの句かも?という疑いも持ちつつ、読み切れないまま取ってしまった、なにか威力のある句。

波◯【評】「凍て」て「星」で「グラス」が「倒立」で「雫」。って、カッコイイ言葉の詰め合わせだ!

鯖◯【評】「グラス倒立して雫」がとてもいいと思いました。「厨二的な気取り」を感じてしまって「凍て星」がベストかどうかがわからないのですがいろいろ機能を果たしているようだしいいのかな。

黄◎【評】来ました!荒木町俳句。良いです!何がって「グラス倒立」がステキ!店終いして更に薄暗い店内。すすいだグラスを立て掛ける。ツイーッと流星のように雫が一筋。流星と共に街は闇へ。空には冬の星が燦めく。

里◯【評】凍て星の光もしずくの光も共通してか細く、密やかな雰囲気が素敵だった。冬の、チラチラとした特別な見え方の星のことを「凍て星」というのですね。美しい言葉。

光◯【評】「星」「ガラス」「雫」の3大光り物がつめ合わされた上に、もうどう考えてもかっこいいバーの閉店後の風景で、ま、参りました…。

屁◯【評】冬の夜空の澄んだ空気感が、グラス、雫ということばでより強く増幅されたように感じられました。逆さにしたグラスに入っていたのは日本酒か、ウォトカか。いずれにしても透明な雫。

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47 干し芋や太陽の匂いをまとい照り 
<特選> <正選> 鯖,C,炭,知 (4 点)
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C◯【評】21と、どちらを特選にしようか迷ったが、好みで21。『干し芋や』で詠むのは難しいのではないか。『照り』ではなく『おり』の方が良い気がするけど、『や』とかぶってしまうのかな。切れ字むずかし

鯖◯【評】おいしそう。冬の太陽エネルギーへの渇望がみえて良いです。仮にお題を度外視した場合「や」じゃないほうがいいかもと思ったんですがどうでしょう?

炭◯【評】寒い中であっても、太陽は輝いています。その輝きを十分溜め込んだ干し芋、おーいしそう!

知◯【評】太陽の下に干されている干し芋がおいしそうです。照りでない方が良いような。

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48 沈黙や虚空切り裂く寒鴉 
<特選> <正選> C,芽,彗,大 (4 点)
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C◯【評】なんとなく夜の神社のように感じた。シチュエーションが良かったので選。沈黙と鴉で鴉が勝ってしまっている気がする

芽◯【評】自分の周りが空っぽになったように感じる時カラスの声で現実に引き戻された感じ。もしかしたら周りには人がいたのかもしれない…。

大◯【評】冬のしんとした空気を切り裂く黒いシルエット。空気が澄んでいる所為で明瞭に見えるからだろうか印象深く記憶に残る。

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49 元日やタモリ恋しき昼の居間 
<特選> 裏 (2 点) <正選> 裏裏,栗,里,寝,重 (6 点)
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里◯【評】元日なのに、日常を求めるという“所在なさ”が可笑しかった。

栗◯【評】やることないし、テレビもつまらん。正月の退屈さを、タモリの不在で言い表す視点に感心。平成の正月ならではの一句。

寝◯【評】お昼にテレビをつけると、タモさんがいる安心感。ハレの日にケを恋しがる天邪鬼(「タモリ好き」ぽい)。これらが「タモリ」という言葉で伝わるのがおもしろいと思いました。

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50 冬ざれや三つ数へて引き鉄を 
<特選> <正選> 帽,好,黄,茅,科,C,黒,鶴 (8 点)
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C◯【評】不穏な印象もあるが、駅伝などの号砲ともとれる。いずれにしろ変化(始まりや終わり)の前にはためらいがある。これが夏であれば3つ数えるか?ためらいは夏より冬に似合う。

鶴◯【評】「罪や」と迷ってこちらに。切れ字「や」ってこう使うのか、と思った句。どこまでもだだっ広く何にもない荒野(じゃないと思うけどそのイメージ)と、そのあとの暗転。あ、俳句に暗転があるんだ、と思いました。

茅◯【評】「アメリカ」の感じもあり。風が吹いてあのなんだかわからない植物がコロコロ飛ばされている景色。もちろん決闘ですよね。

好◯【評】チャンドラーとボガートへのオマージュであり、さらに寺山修司「かくれんぼ三つ数えて冬となる」への目配せでもある。ハードボイルドな情景に冬ざれがぴったり。

黄◯【評】荒野の決闘。ウエスタン。一発の銃声が響き次の瞬間、地に伏すルーザー。幾度となくスクリーンやブラウン管で繰り広げられた実景。何となく知った気になっているものよりこれは鮮明な景色でしょう

黒◯【評】ざらざらした手触りと、張りつめた緊張感が好き。白黒のフィルムを見ているみたい。関係ないけど、この句を見てじゃがたらを思い出したので聞いてます、今。

帽◯【評】クラシックなハードボイルド小説か、いやむしろレールモントフの『現代の英雄』のような19世紀ロシア文学へのトリビュート作品に思える。格助詞で終わる構文がいい。

科◯【評】「冬ざれ」は広がりがある。「引き鉄」はその一点に意識と力が集中している。二種類の空間を同時に詠んだのがすごい。寂寞とした雰囲気とその中での緊張感が、対比されることでお互いどちらも強調されている。

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51 寄せ鍋や怒るタイミングを逃す 
<特選> 波 (2 点) <正選> 波波,珍,蓬,妹,林,屁,鯖,朧,幽,藤,は,炭,じ,雪,巻,助 (17 点)
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蓬◯【評】情景が目に浮かぶし、それでいて月並みじゃないし、句またがりのリズムがいいし、ちぇっ。ちょっとやっかんでしまう上手さ。

妹◯【評】まさに怒りを感じた瞬間、お鍋が来ちゃって、鍋を囲む輪も整っちゃった。でも収まらず口を開こうとしたら、今度は誰かが「ポン酢取ってー」ってやり出したりで、機を逸してしまった、のかな。堪えて堪えて。

巻◯【評】まず「寄せ鍋」というのが、むやみにすてきです。その上五でいったん切れて、湯気があって、許しが生じている。そのチャーミングな構造設計。

林◯【評】人が集まったときのごたごた感と、みんなで囲む鍋の楽しさ平和さを言い得ていて上手。くそー、と思いつつも、食べて飲むうちに本人も毒気を抜かれてしまいそう。

波◎【評】建設的に怒るために、言葉を選び、感情の妥当性を確かめ、口にするタイミングを計るものの、うやむやに頓挫していくおかしさ。まらない怒りも寄せ鍋の中に、おなかに消えていったように思わされた。

鯖◯【評】鍋奉行ならず! ざーんねん。具材を入れる順番とかこだわりあったのに。でもそれで諦めるような人だから一緒に鍋してるんだな。

珍◯【評】完全にこの人のなかだけで完結している句で、傍目には鍋つついているだけ、という絵面がおかしい。卓を囲む面子の関係とか、ムッとした理由とか、受け手が自由に「答え」を想像できて、それが全部「正解」。

炭◯【評】相手へ思うことはあるけれど、目の前の鍋が邪魔。「口より先に手が出る」って言うのは付き合いづらい人だけど、溜まった怒りを口に出すより、鍋に箸出すほうが早いよな。

幽◯【評】鍋を食する行為ってなんか細々としたイベントがたくさんあって、その様子を「怒るタイミングを逃す」で伝えていて面白いです。負の感情が食べ物で紛らわされて、ほっとした感じになれる句ですね。

藤◯【評】怒りたいことが寄せ鍋の具材の数くらいいっぱいある。ぐらぐら煮立っている。でも実際の寄せ鍋を前にして、食べる以外の選択肢はないですよね。

雪◯【評】逃さざるを得ないんだろうなぁと。怒っててもやっぱり噛みしめる寄せ鍋はおいしいんだろうなぁとも。おいしいことがまた釈然としなさを強めて、もぐもぐ。

屁◯【評】同じ鍋に箸をつけてしまったが最後、それが休戦の合図。それまでの怒りをさやに収めざるをえない。やがてエビが美味いだ、このネギ食えだ言ってる間に、怒りは湯気のように消えていく。結局お腹空いてただけか。

じ◯【評】もうなんか母と娘の絶妙なコンビネーションに怒る気持ちもなくなった父親。ビールも開いちゃったしね、まぁいいか、みたいな。かわいさのある句。

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【なんでしょう句会 「や」評】togetterまとめ http://togetter.com/li/237822
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