第一回【なんでしょう句会】妖怪評

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
103 妖怪と妖怪抱き合っても寒し るる甘酒重重助助森幽大=11
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
甘◯【評】妖怪を世間からはみ出した人と捉えました。そんな二人が寄り添い抱き合っても何も生み出せないし、傷を舐め合ってるだけ。二人ともそれは分かっている。分かっているんだけどそれでも一緒にいる事しか出来ない。

酒◯【評】本物の妖怪同士ならつまらない句だが、自分と相手を妖怪と呼んだととれば、かわいく且つ寂しい味わいがある。年配の方の達観した自嘲のようにも思えた(例えば森繁久彌岸田今日子が詠んだと思うとすごく輝く)。

森◯【評】最初浮かんだのはぬっちょりドロドロした妖怪同士が「さみぃよおめぇ」「おまえがだろ」って言い合ってる様子。そのあと子泣き爺と砂かけ婆の石と砂とがザラザラし合う感じ。最後に君と僕…寒いね。

助◎【評】妖怪は身体が物理的には存在しないタイプのもので、だから実際には抱き合えないし、体温が無いので寒いまま。妖怪の特徴をうまく生かし再認識させられる、いい句だと思いました。

幽◯【評】妖怪同士がいくら抱き合っても暖かさは得られないというのは、哀しいですね。学校も試験も会社も仕事もないし死なないし病気もないのに! 104と似て非なる句で、並べて出てきたのでつい比べてしまった。

る◎【評】これは文句なしで大好き。「妖怪」としか言わないことで、水木しげる的キャラクター妖怪ではなく、疎外された者同士が自らを妖怪と呼んでいる光景が浮かぶ。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
104 ぬりかべと寄り添い合っていて寒し る凡朧朧黄=5
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
凡◯【評】 句会は同じ言葉の句が複数でて「対決」になるときがある(同じので二個は取れない、的な気持ちも働くから)。ぬりかべは二句とも熱く引き分け!ぬりかべって壁だったわ、と寒さで実感しなおして見上げてる。

朧◎【評】探偵が壁の隙間で容疑者を追う様子が伺える(こんなとこいたくないけど尾行中だからいたしかたなし)。冬の壁は壁材の芯から冷たいのだろう。単純で明快で好きです。

黄◯【評】ぬりかべ知ってる!あぁ寒いね。というか冷たいというか。ぬりかべのどこに寄り添おうか。普通人間同士なら横に座ってなのかな?後ろかな?正面なのかな?もたれかかってきたら…意外とのどかな風景が浮かんだ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
105 ディズニーの人魚は陽の造形か 少炭=2
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少◯【評】妖怪としての人魚といえば、およそファンタジーとは無縁のむしろグロテスクな姿を想像する。ここでは、陽を書いてるが、あくまでも陰である人魚が主体になっている事に好感が。

炭◯【評】どんな造形物だって、ディズニーにかかればファンシーに。『造形か』で、「そうだよな…」と何かの足りなさを感じる人の感想に思える。ディズニーに恨みはないが。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
106 垢舐めが来たかの様に風呂磨く 芽甘子重少二波丼丼朝夕夕里じ=14
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子◯【評】お風呂を磨いていると、もっともっと、と拍車がかかる事がある。まるでとりつかれた様に。きっと垢舐めが来てるに違いない。別次元に意識が行ってるようで、まさに妖怪と思った。

甘◯【評】何かに没頭することによって自分の気持ちを鎮める行為が彼女(彼)にとっては風呂掃除なんだろう。その無心さが良い。大掃除に向けたこの時期是非ともうちに来て欲しい。

少◯【評】何故そこまで風呂掃除に執念を燃やすのか。客か、はたまた姑か。それとも何かの怒りをぶつけているのだろうか。その姿が怖さを感じさせて。

波◯【評】「垢舐め」という言葉によって、必死で磨いた清潔で美しい風呂ではなく、その前の垢だらけの汚い風呂が頭に浮かぶ。汚れ乱れたイメージが強くあるからこそ、それを拭い去り、無いものにしたくて人は掃除をするのだ。

じ◯【評】つまり汚かったんですよ。普段はシャワーしか使わないから。今日風呂を沸かせたい用が出来たから。普段からきれいにしてればいいのにね(身に覚えあり)。

芽◯【評】親の敵かのようにこれでもかとこすり上げ、顔が映るほどぴっかぴかに磨き上げられたホーロー浴槽やカランを前にして得意げな感じ。一瞬というよりはその過程すべてを感じました。

丼◎【評】妖怪とは取り憑かれた人がそうなってしまうもの。そこまで風呂を磨かねばならない理由は何なのだろう。その風呂への執着の強さに空恐ろしいものを感じたので、特選。

里◯【評】年末の大掃除、ぴかぴかに磨き上げる苦労を垢舐めに置き換えているユーモアさと、せっかくきれいにしたのにあえて気持ち悪い表現で言う。照れ隠し?このセンス好きだ。

二◯【評】そのくらいみがいたい、その背後にある物語を感じさせる。

夕◎【評】風呂掃除やり出したらとことんやりたくなった時、白い湯垢が全く取り除かれピカピカに磨き終わった風呂を見て「垢舐めが来たごとある。」自分で思ったのかもしれないしそれを見た家族にいわれたのかもしれない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
107 のっぺらぼう表情読んで「微妙かな」 炭炭二二ツ雪真妹=8
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
妹◯【評】のっぺらぼう同士がお互いを相手に「微妙かな」って言ってるところ、と解釈したら、彼らの「お馴染みのやり取り」に見えてきた。いつもお互い、内心「おまえが言うなよ。」って思ってる。

雪◯【評】のっぺらぼうは、表情読むほうでも読まれるほうでもいいですよね。どっちも「あ、読めるんだ」という驚きがある。その驚きも含めて、読む方読まれる方の、「微妙な」距離感があって好きです。

ツ◯【評】のっぺらぼうは目もないけど、全部見えてる気がする。こちらはあちらの表情読めないのに、一方的に表情を読まれてるって実はそわそわする状況です。そして微妙か…ごめん(ゼスチュア読んで)。

炭◎【評】 表情の変化に乏しい恋人についての句だと。何か反応を求めたときに、表情は分からないけど、仕草や動作で分かってしまう。のろけかよ!でも、表情を読んでいるほうの仕草も感じて特選。

二◎【評】のっぺらぼうの個体差を調べようという無心さか、のっぺらぼうでも身体許してもいいか、という熟女感かの対局性に脱帽。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
108 くしゃみして振り向くゾンビのシャツに縞 科爽爽栗朝朝珍裏=8
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
科◯【評】ゾンビの顔でなくシャツに注目する主人公。緊迫感と同時に茫然とした心情も詠んでいる。本当に怖い時はそういう所に目がいってしまうものだ。はたから見ればそれは滑稽だ、ということまで表現している。

裏◯【評】きっと危機一髪の時に限ってくしゃみしちゃう。そして命の危険が迫ってるのにどうでもいいとこに眼がいっちゃう。後半の既視感が私とフィクションの架け橋になっている。

栗◯【評】寒くて、でかいくしゃみをした、ゾンビ。体弱いじゃん。横縞のTシャツ着てるけど、フランケンシュタインと合体したのか?なんだか間抜けで、可笑しい。

爽◎【評】こわがりなので、ゾンビをよくみた記憶がないけれど、そうだ縞だ!とおもったとたんに元は人だったことを思い出した。これからゾンビを見るたびに何を着てるか指の間から見るようになってしまいそう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
109 冬晴るる一反木綿ひるがえり 崖酒酒寝寝朧珍里里じ妹飼数=13
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
酒◎【評】(句にあるまんまだが)白い一反木綿が冬晴れの澄んだ空を飛ぶのは美しい。妖怪なのに写生句。岩合光昭のようだ。冬晴れの澄んだ空でなければいけなかった(他の季節が座りにくい)感じもちゃんとある。即決で特選。

崖◯【評】俳句やっている人の句はすぐ分かる、とか言うとすぐに桑原武夫が出てくるけど「冬晴るる」は好みだろうなぁ。晴れていれ一瞬の光がさらに輝くから、アリだ。

妹◯【評】陽光とか、樹とか、地面の土の色とかが目に浮かんで、そこを、くるくると、泳ぐように飛ぶ一反木綿、白くて爽やかだなあー、と清々しい気持ちになった。一反木綿に爽やかさを感じたのは、はじめて。

数◯【評】晴れて澄んだ空で、一反木綿がはしゃいでいる情景が浮かびました。空の青に一反木綿の白が映えて輝いているのでしょう

じ◯【評】なかなか冬にいいお天気の日はないですからね、ここで干さねばいつ干すのか!と。これは実際の妖怪じゃなくても、布団のシーツ干してるのを見て出来た句かもしれないですね。

朧◯【評】仲居バイトが半襦袢の下でも干してるのかな。冬の晴れのきんとした気持ちよさが表されて好きです。

里◎【評】晴れた冬空に一反木綿、もしくは干された長く白い反物(比喩として)。どちらにしても美しい光景。妖怪のわりに比較的陽気なイメージの一反木綿が、寒い青空に良く似合っていました。

飼◯【評】明解さに惹かれた。書道でいうと楷書のような句。晴れた冬空を悠々と泳ぐ姿。いいなあ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
110 猫又と気付かれなくて丸くなる
   Cる茅黒鯖鯖寝森地地二波蓬丼栗光じ大真真数=21
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蓬◯【評】最後まで特選にしようか悩みました。ひさしぶりに本性出してみたけど、ああ猫があらぶってるとしか思われなかった。まあ、いいんだけど。収束のしかたが猫らしくクール。

鯖◎【評】つうか丸くなってるから気付かれないんでしょ!とつっこんでも丸まったまま答えず。猫と猫又の差違が限りなくゼロになる季節、それが冬。

黒◯【評】猫又もまた猫だから、寒いと丸くなる。「気付かれなくて」と言いつつも、本当は気付かれないまま寝ていたいんでしょ、と思ってしまいます。

森◯【評】もはやただの猫。ふてくされた感が愛らしい。あと妖怪ってこちらが気づいてないだけで身近に丸くなってるものかなとも。かまってあげたらあげたで「しゃぁ」を忘れて「にゃあん」ってしてきそう。やっぱりただの猫だ

C◯【評】存在”感”が主成分の妖怪が気付かれない。identity crisis.を不貞腐れて愛嬌でカバー。日本的ソリューションに和む

波◯【評】まさかの妖怪目線の句!その視点に拍手。オレ、猫又なんだぞーってこれ普通の猫と思われてるー!がっかりして丸くなる。ますますただの猫!しょぼーん。

光◯【評】妖怪とは本来「異形と認識される」ことがアイデンティティなのかと思っていたが、猫又は猫だけにそんなことどうでもいいと思ってるんでしょう。その飄々とした「人格(妖格?)」が表れていて好き。

数◯【評】鍋島の猫又のように呪い殺してやろうとしたのに、すっかり家猫と化して可愛がられている猫又。でも、幸せなのだろうなと感じさせます

じ◯【評】「(気づかれてないようだにゃ。コタツしめしめ♪コタツしめしめ♪)」まぁ家の主人もほんとは気づいてるんですけどね。デカいから。

栗◯【評】飼い主に腹を立てて化け猫になってみたけど、元来おへちゃなので、それまでと大差ない老猫。ちょっとふて寝。寒そうでもある。かわいいなあ。

茅◯【評】猫がちょっと目を上げて香箱を組み直す感じが目に浮かぶ。

丼◯【評】猫が年を経て猫又になるという。すでに猫又になっているのを気付かない飼い主たちをせせら笑いながらこたつにもたれて丸くなっている。正体を現すか、いつまでも猫を被っているかは、猫又の気まぐれ次第。

地◎【評】妖怪でも猫はかわいいので、気づいてない振りをしてあげてるのだ。妖怪側から見た句なのが面白いと感じた。

二◯【評】猫はなべて猫又である、ということだな。

る◯【評】猫のうち1割は猫又だという調査結果が出ています(嘘)。本人にとってはどれくらい生きたかとかもう忘れちゃったという感じ。猫は基本的に妖怪の仲間みたいなもんだし。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
111 冬空に一反木綿反射光
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
112 風花やのっぺらぼうが三人目 芽芽剣子藤栗雪=7
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子◯【評】 花びらのように舞う雪を見上げ、その美しさに放心しているさまが浮かんだ。ひとりが立ち止まると、またひとり、またひとりと足を止める。その光景が一瞬の幻のようでもあり好きな句。

剣◯【評】風花をちゃんと見たことがなく、何なのかはっきりと分からないまま、美しく完成度の高い和のイメージを感じました。新宿三丁目の文壇バー「風花」の界隈はのっぺらぼうが割とよく現れていそうです。

雪◯【評】三人目ののっぺらぼうは、「こんな顔かい?」と振り向くのが定番ですが、風花や、と目の前が美しく開かれていると怖くない。「あ、あなたも...?」とときめいてしまいそう。一言で既存イメージが反転して凄い。

栗◯【評】風に舞う雪が顔について、のっぺらぼうみたい、とからかい合う子供たち。何だかほのぼのしたので。

芽◎【評】雪が舞い散る中で子供が空を仰ぎはしゃいでいる感じがしました。笑い声が聞こえて来そう。雪もふわふわした大きな結晶だから相手の顔も見えにくいか。

藤◯【評】寒いときにのっぺらぼうに会っちゃうなんてほんと心身にこたえると思うのですが、この句は三人もののっぺらぼうに会ってしまったのにぜんぜんこたえてない感じがとてもいい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
113 襟巻きにじゃれる紙舞散歩中 く鯖白残飼=5
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鯖◯【評】紙舞は室内に出る妖怪なのについて来ちゃった。なっきゅー紙なんか持って散歩するから。まあ似合いの取り合わせですな。でも「散歩中」がなあ。「散歩道」とかじゃダメ?

く◯【評】紙舞を知らなくてググった。じゃれる姿を想像したら、なんてかわいいんだ!と興奮。特選にしようか迷った。紙舞のことを教えてもらえただけでもよかったです。ありがとう!(この句の作者さんのこと好きになりそう)

残◯【評】紙舞が分からずwikiで。和紙が襟巻きにまとわりついても首に傷はつかない。でもなんかガサゴソ。そのうち首から寒気が走る。お願いだから首じゃなく手首にして。首元が本当にぞわぞわしたので選句しました。

飼◯【評】 紙の切れ味は意外と鋭く凶器にもなる。よってこの句も一見可愛い印象を受けるがそうではない。じゃれついていると見せかけて、実は頸動脈を狙っているのだ。ぶるっ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
114 ぬりかべの照らしかへしや冬夕焼 る芽崖鯖凡朝裏=7
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
裏◯【評】ぬりかべって生物と無生物のあいだだなあ。初めてぬりかべの質感がわかった気がする。

崖◯【評】俳句の経験がなくて、これだけの句が出来るセンスはすごい。

鯖◯【評】景がみえた。ぬりかべって「景」だよな。壁だからな。

凡◯【評】「照らし返し」って日本語が気になった(「照り返し」と「照らし返す(した)」は分かる)けど、妖怪だから照らし返しがあるんだろう。先のと逆で、壁だけど妖怪だったわ、と。二つとも素直な季語が嬉しい。

芽◯【評】ぬりかべがいた驚きというより、そこにぬりかべがいるのが日常のような情景が浮かびました。町がそっくりぬりかべを受け入れている感じして、夕焼けのきれいな色と相まって優しい感じがしました。

る◯【評】ぬりかべに名句あり。物言わぬ感じが俳句向きなのか。案外都会暮らしにもフィットする妖怪かも知れぬ。「冬夕焼」でぐっと引き立つ。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
115 井戸のなか皿を一枚投げ入れる 二光光残じじ大=7
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
光◎【評】具体的な名前を出さなくても誰だかわかる、という点と、「あーもう皿数えんのなんか飽きちゃったわ!ふんっ!ぱりんっ」という妖怪に似合わぬ清々しさがとても印象に残った。一番「かっこいい」句だなと思い特選。

じ◎【評】単純にやさしいなぁと思いつつも、投げ入れるってアンタ…と思ったりもする(もう少しやさしく落としてあげて)。初見で気持ち良く読めたのは、イが3つあるからかな。

残◯【評】あなたは井戸に皿を入れたことはありますか?わたしはある。放り込んでしばらくするとぽちゃーんと音がする。でもたまにぽちゃーんと聞こえないことがあるんだよー。その恐ろしさを思い出したので選句しました。

二◯【評】数える枚数を増やしてやれ、といういたずらより、そんな井戸端に立つ一人感になんか俳句感が感じていいな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
116 さめざめと小豆を洗う井戸の水 少白光=3
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少◯【評】待ち人が来なかったのか。本来なら橋の下にいるハズなのに、何故か井戸の水で。さめざめとしているのはプライドを傷つけられたからだろうな…

光◯【評】妖怪のステレオタイプとも言えるウェットさ。めそめそ小豆を洗う背中はきっとすごいしみったれていて井戸の水はえらい冷たいんだろうなあ。ああうっとうしい。でも妖怪はこうでなくちゃ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
117 約束を強いて俯く雪女 科科剣剣助二波蓬朝珍珍里飼裏=14
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
科◎【評】約束を「強い」ると表現し、直後に「俯く」とすることで、よく知られた昔話の魅力が新たに発見される。雪女のアンビバレンツな心情。その切なさ。シンプルな言葉遣いで趣深いのがすごく好き。雪女が艶めいて見えてくる。

裏◎【評】綺麗。美人だなあ。美人な句。俯くのがヒトっぽくて悲しい。

蓬◯【評】「強いて」までは妖怪らしくがんばってたのに、最後に弱気。悪い人間の男にだまされないか心配なタイプ。

剣◎【評】この雪女は「セカンド・ラブ」の頃の中森明菜のイメージ(「あなたのセーター/袖口つまんで/俯くだけなんて」)です。関わると確実に面倒くさそう、でもいじらしくてつい関わってしまいそうな女が鮮やかに浮かびました。

波◯【評】めんどくさい女ーやだー。でもこころに受け入れられないものを異形のものとして妖怪にしたのは、めんどくさがっている私たちの方なのだ。でも、じめっとして、復讐怖そうで、不幸そうで。「強いて」るくせに「俯く」のが雪女。

助◯【評】雪女のアンニュイなイメージが活かされた句だと思いました。また漢字が重なっていないので、視覚的にも読みやすいところもうまかったです。

飼◯【評】俯く姿に色気を感じている殿方、甘い!俯いたのは隠すため。無理な約束をせまられ困る姿を見、にやりとほくそ笑む顔を。

里◯【評】雪女を比喩と捉えると、雪の中立っている、約束をごり押しする女。怖い…。妖怪の雪女ならほほえましいのに、現実の女性とすると逆にホラーになるという不思議。「妖怪しばり」の中で一番“ぞっとした”ので選びました。

二◯【評】雪女が愛しくなる句だ、だが抱き締め暖めると消えて(氷解)しまうというジレンマ。その構図が「強いて」と「俯く」にあるのかな?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
118 臥せ飽きて座敷童とあやとりし 芽甘甘黒助寝森地鶴光里彗真裏=14
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
甘◎【評】感染の恐れがある為(多分結核)看病してくれる人も側にいなくて離れに一人。座敷童が見えるのも子供だからじゃなく、死が近いから。その姿は端から見ればとても寂しい。でもきっと彼は全てを受け入れている。

裏◯【評】熱にうかされて自分の輪郭が曖昧になり、半人半妖の幼子。座敷童は遊び相手が出来てうれしかったろうなあ。

黒◯【評】寝込んでるのは子供でしょうか。あやとりの細い糸と、危うい生命力のイメージが交差して切ない気分になります。この子は、この世とあの世の境界線をさまよっているところなのかも。

森◯【評】だらだら寝転ぶのにも飽きて「仕方ないからあやとりでもしてやるよ」と久々に声をかけてやる。「あーやっぱ退屈だな」とか言われても嬉しそうな童女の顔が思い浮かぶ。ふたり畳で女豹のポーズ、ほのぼの愛らしい様子

助◯【評】座敷童は引きこもりのように寂しく部屋の隅に体育座りしているのイメージだが、その座敷童と遊ぶ、というのは座敷童にとっても楽しい行為のように思い、あやとりというささやかな遊びを通した交流のイメージが良い。

光◯【評】人間のお友達と人ならざるお友達の区別がまったくついていない子供の、屈託のなさが表れていると思った。ジブリが映画にすればいいじゃない。

芽◯【評】熱もあらかた下がり母親も安心したのか近くにいない、幼児がふと目をやるといつも側にいる座敷童。その子供の安心感が感じられました。

地◯【評】赤い糸を二人で取り合っているのが見える。一人でもあやとりの取り合いは出来るので、座敷童と遊んでいるつもりなのかもしれない。

鶴◯【評】長く床に臥せているうちに、日常は遠ざかってしまった。妖怪といつでも会えるってことは、普通の生活を失っているってことなのかも。病にも慣れてしまって、あやとりできる体調かどうか見きわめられるのかな。

里◯【評】つまんなーいとごろごろしてる時に座敷童来てくれたらすごく嬉しい。「臥せる」って病気で寝込むって意味だと選評した後から知って、座敷童めっちゃええやつやん!とさらに評価UP

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
119 ポケットの指悴んで天邪鬼 黒幽黄大大=5
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
黒◯【評】乙女ですねー。手を繋ぎたいのに繋げなくて、ポケットでもぞもぞさせてる様子が目に浮かびます。きっと、この冬付き合い出したばかりの初々しいカップルなのでしょう。じれったさすら楽しい時期を思い出して◯。

幽◯【評】このお題の元では、慣用句としての天邪鬼ではなく本当の妖怪でしょうね(でもポケットサイズ)。指をポケットに入れても暖かくなんてさせてやらないなんて、しょぼすぎる悪戯だなあ。可笑しいですね。

黄◯【評】普通の景が浮かびました。無邪気な戯れ。「今日はホント寒いね(は〜としながら、勿論手袋なんぞしていない。手をブラブラさせ)」…たわいもない会話…「手でもつなごっか」「ヤダ!さっき…」妄想の自由。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
120 相老いてコロポックルと待つ聖夜 芽助蓬=3
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蓬◯【評】「自分ともう一人ほかの人間が相老いて、そしてコロボックルと」とも取れるけど、ここは「自分とコロボックルが相老いて」と取って、昔なじみの不思議な世界に遊ぶ聖夜のひとときを思い浮かべました。

助◯【評】北海道という土地を上手に使った。アイヌ民話と気候の両者が、互いをより引き立てている。

芽◯【評】自分とコロボックルがともに老い、ちょっと侘しい感じなのですが、それもまた悪くないかなぁと心穏やかに過ごす年末の風景。きっとささやかでも毎年飾りつけクリスマスを楽しむのでしょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
121 鈴なりて見上げ入道現れり 爽鶴凡=3
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
凡◯【評】単純なことしか言ってないのだが、しかも多くのことをまるで言ってないのだが、「当たり前じゃん」とかがない句。17音でこの情報を保存する甲斐があるなあと。見上げ入道のことは以後これで覚えた。

爽◯【評】ちりーんと聞こえる中、ばたーん!と倒れたらもうなんだか気持ち良さそうなくらいです。あってみたいかも。

鶴◯【評】シンプルででっかい句。新宿のビルをはじめて見てひっくり返りそうになったことを思い出しました。なにも書いてないけど抜けるような青い空がぱっと目の前に浮かんだ。なんでだーたのしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
122 小さめの大入道だよあれは くく崖崖茅茅黒黒炭地凡凡幽ツツ栗妹=17
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
崖◎【評】破調をあえて特選にしたのは、奇をてらったのではなく、破調であることで意味が強調された二重構造の巧さに対して。これも一種の二物衝突。西脇順三郎に見せたい。

妹◯【評】大きいやつが「カンガルー」、小さいやつが「ワラビー」、どっちつかずのやつが「ワラルー」、で、「あれ」は小さめだけど、ちゃんと「大入道」、なんだな。くわしいひとが教えてあげてるっていう図が、いいな。

く◎【評】大入道を見ることがあったらぜひ言いたい。思いつきそうで思いつかない句だなあ。もうどこも変える余地がない、完璧な句。

黒◎【評】二人で空を見上げているところでしょうか。一人が真面目な顔で雲を指しながらもう一人にレクチャーしている様が浮かびます。「小さめの大入道」という表現がレクチャーする側の大入道に対する思い入れを感じさせて◎!

凡◎【評】 これだけは本当の妖怪が作った句だと思う。最後、五文字の季語を入れてもそこそこいい句で、簡単にそうできたはずなのにしなかった。妖怪が混じって俳句ぽいことをやっていったんだ。「そ」の人の顔色も青いもん。

幽◯【評】「大」入道っていってるのに、小さめとか。光景はコミカルですが、語り手はほんとうは怖いんじゃないかな。というか、むしろ思ったよりでかかったんじゃないか。かなり強がっているとみた。

栗◯【評】「大入道にしては小柄だけど、ありゃ本物ですね」「そうですね」と、水木しげる先生が、お供の妖怪と話し合ってる。出くわしたいなあ。特選と迷った。

ツ◎【評】突如としてあらわれた大入道を前に一同戦々恐々な中、いつも口数の少なかった人が動じることなくぽろっと言う。きゅんです。小さめ大入道の自尊心が傷付いてないことを祈ります。

茅◎【評】そこだけはやたらと大入道が出る町。旅人は驚くが住人はもう慣れっこで片手間に見上げる。みたいな景色を思いました。大入道ってたくさんいて大きさの差があるんだ!と私も旅人のように驚いた。

地◯【評】ほほぉ、そうですか。としか言えない。納得させられた。この人は通常サイズの大入道を見たことあるってことなのね。

炭◯【評】親が子に教えているのだろう。街の風景に妖怪が溶け込んでいる、ファンタジー世界が見える。妖怪だけど。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
123 走り来る友の膝切る鎌鼬 ひ科茅森森炭ツ珍夕真妹妹数=13
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
科◯【評】何か重要な事を伝えるために走り来る友。それを阻止する鎌鼬。不穏な雰囲気と疾走感が良い。でも、疾走感だけじゃなくて何故か静かな感じもして不思議だ。「足」でなく「膝」と限定したことでリアリティが強まっている

妹◎【評】一部始終を見てしまった「じぶん」と、切られた「友達」。このふたりの、その後のドラマがすごくすごく気になった。「友の膝」が切られたっていうのが、なんだか、すごくいいな。

森◎【評】ワーイ、パッサー!という音がきこえた。好ましい人が駆け寄ってくる様には清々しさと高揚がある。そこでのパッサー!…ひどい、が、見てみたい気もする。ママを見つけて駆け出す子供には「転びそう」って思う

数◯【評】半ズボンの少年達が走り回っていて、鎌鼬に切られて大騒ぎ。大人になったら、なんども話しちゃういい思い出になりそうです

ツ◯【評】足の速い女子高生。スカートの丈に構わぬ手抜きのない走りで向かってくる。その冬の、赤くなった膝を狙う鎌鼬

茅◯【評】半ズボンはいているとよく切られますよね。冬は特に痛い。いってえとかいいながら友も作者もあんまり気にしてなさそう。冬の野外で遊んでいるときのぴりっとした空気も思い出しました。

炭◯【評】オーイ!(タッタッタッタッ)スパッ!ギニャー!・・・アレッ、痛くない!?スゴイスゴーイ!という一連の動作を遠めで観ている。うん、そうだね。

ひ◯【評】久しぶりに会う友人との待ち合わせ。少しだけしか遅れていないのに、風を切って走ってくる友人の姿を、足下から舞い上がった枯葉がフォーカスをずらすイメージ。

夕◯【評】おーいと走ってくる友達の膝に真一文字の鮮やかな赤い傷が見える。鎌鼬が出るような冬なのに半ズボン。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
124 寒泳の一反木綿が舞いをどり 麗=1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
麗◯【評】激しい木枯らし吹く冬の寒々しい空のすごく高いところに、風にもみくちゃにされながら飛ぶ布きれが、荒れる海から天へ上る龍のように見えた。ものすごい圧を受け、それでも意志を持って飛んでるんだな。かっこいい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
125 ぬらりひょんらかためてあげた冬うらら 幽=1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幽◯【評】ぬらりひょんってきっと揚げないと食えたもんじゃないんだよ。わざわざ「ら」を入れて字余りになっているところに、ごちゃごちゃした「かき揚げ」の感じが出てる。うらら、っていう言葉も食べ物みたい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
126 すれちがう件のもらす花言葉
   く芽甘剣鯖重少寝爽鶴藤藤白白蓬黄光雪珍大真飼飼裏裏数数=27
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
甘◯【評】件とすれちがう事もあり得なければ花言葉を普段聞くこともないのだけれど、その光景が当たり前かのように思える。警告を告げる筈の件と花言葉の組合わせも良い。オイ!ってツッコミたい。

裏◎【評】もう絵が浮かんでしまって!口からなんかこぼしてる絵全般に弱いので◎。空也上人象とかマルティーニの受胎告知とかペローの童話とか。ちなみに花言葉と言いつつほろほろと花がこぼれてるイメージ。

蓬◯【評】なんてダンディなくだんなんだ。体、牛なのに。逃げるでもなくすれ違うに任せる話者もひそかに只者でない。

少◯【評】件もお世辞にも美しいとは言えない姿だが、その口から花言葉がもれるとは!ナンパか。美女と野獣なのか⁉

剣◯【評】妖怪に件を選ぶセンスが素晴らしいです。今年亡くなった小松左京さんの「くだんのはは」を思い出し、大きな凶事のあった一年を象徴するような句と思いました。

鯖◯【評】しばらく天変地異がないようでよかったよかった。「この花言葉に隠された意味が!」とかは止して穏やかにいきましょうや。

く◯【評】件に出会うってことは、ものすごく緊張する体験のはず。どんなおそろしい予言をされるのかとドキドキしてるときに、すれちがいざまに「痛手からの回復(野薔薇)」とか言われたら…。(きゅん)

光◯【評】件自体がグロテスクで不吉な化け物なのに、意外にも花言葉!むしろ縁起がいいくらいに転じてしまうところがとても面白かった。「花言葉」という語のロマンチックさも良し。

数◎【評】件とすれちがうという異様な光景なのに、もらしたのが恐ろしい予言でなく花言葉というのが美しい。出来ればいい花言葉であってほしいものです

雪◯【評】 完全にウラモトさんと同じく、件が口から花をこぼしているイメージで読みました。花と一緒に花言葉。それが予言であれば哀しくていい。件は予言をすると死んでしまうものだから。「すずらん、幸福が戻ってくる」

芽◯【評】件=内田百けんなんですが。ふと目について「この花って…」と思った途端心の中のその先を読まれて振り返ると件が!ものすごく怖い件と花言葉を共有したちょっとニヤッとするような複雑な感情が…やっぱり怖いです。

黄◯【評】件という妖怪も知らなかった。でも分かるよ!分かるよ〜!すれ違った時、ボソッと聞こえるか聞こえないかの大きさの声を聞いちゃったんだよね。実は。しかも花言葉スクランブル交差点で。振り向くともう何もいない…

藤◎【評】すれちがいざまの囁き、それが不吉な予言であること、しかも花言葉。ロマンチックすぎて降参です。どの花の花言葉だったかをみなで長々議論する余地もあり、吸引力の変わらないただ一つのロマンチック。

爽◯【評】「すれちがう」のがいい。え?ってなる。あれは件だ、となったときにはもういなかったのかな。件も元気にしてるといいな。あたえたのは花言葉だもの。

飼◎【評】件?牛の姿の妖怪?牛と花…あ、この件は"はなのすきなうし"が妖怪に変化したんだ。だから不吉な予言の代わりに花言葉をささやくんだ。変化しても魂は変わらない。優しく哀しいこの件が好きになったので特選に。

鶴◯【評】前から何かがやって来る。近づいてみると、件だということがわかった。災難を告げるはずの口から、すれちがいざま聞こえたのは花言葉だった。かっこいいです!件にもささやかなオフはあった。なんとも切ない姿です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
127 去年今年練り塗り壁に塗り込めり ツ彗=2
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ツ◯【評】長い付き合いを感じます。相手は動かない壁だけど、こちらの毎年のあれこれが思いとして重なっていく。り、り、の反復に、塗り込む手の動くさまを連想しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
128 ろくろつ首そのセーターを脱がすのは C科森炭白朧=6
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
科◯【評】官能性(肉感)にあふれた句。セーターは、脱ぐ(脱がせる)ときに肉体を強く意識させる物である。引っ張って伸びるセーターのイメージが伸びた首のイメージと重なる。ろくろっ首が艶めいて見えてくる。

C◯【評】首が伸びるのは「NO」のサイン?首が伸びない『ろくろつ首』の句をひねりたくなった

森◯【評】あーなーたー、と続くようで目に止まった。大きい「つ」のひっかかりが脱がしづらさ感を増してて良い。互いにがんばればがんばるほど首がのびるよね、きっと。ああいう時に限ってどうも色々とひっかかるものだ

朧◯【評】ろくろっ首は自分でセーター脱げなさそう!と素直な発見がありました。「脱がすのは」となにかが始まりそうな終わり方もドラマチック。

炭◯【評】 大変そう!自分でうまく脱げないから、手伝って貰ってるのだろう。妖怪と親密な関係になるのも、憧れる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
129 外套脱ぎ捨て酒呑童子の頬さわる 子鶴鶴=3
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子○【評】帰宅後にふと見る鏡の中の自分の青白い厳めしい顔。忙しく余裕のない様にハッと気づかされる。ドキリとした。

鶴◎【評】 ほんものの大酒飲みだけが酒呑童子の頬にさわることができる。仕事から帰り、コートをさっと脱ぎ、「待たせたわね」と頬をさわる美女がうかびました。妖怪の特選は悩みましたが、酒飲みを極めてついにあちらの世界と連絡がついたかっこよさに。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
130 冬銀河乗っているのは提灯小僧か
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
131 くたびれて河童まくらにきゅうりかな 茅麗=2
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
麗◯【評】少年は、さんざん河童と相撲取ってたんだな。双方、起き上がれないほど疲れて、河童寝転ぶ、少年もその上に寝転んで、きゅうりぽりぽり。季節は夏のようなんだけど、あまりに微笑ましく気に入って選。

茅◯【評】相撲のあと。負かされてノビた河童を枕にとりあげたきゅうりをかじる。豪傑っぽくていいなと思いました」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
132 しゃぶしゃぶを口さけ女そんな食う 剣重藤凡朧夕飼=7
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
剣◯【評】口さけ女としゃぶしゃぶを結ぶ発想がどうして出来るのか分かりません。可笑しいような、怖いような、身もふたもないような気持ちになる句です。

朧◯【評】口さけとしゃぶしゃぶ同席したくないわーと思いました。肉ばっか食うんだろうな。え、会費同じなの?

凡◯【評】しゃぶしゃぶをそんな食うという「印象」に主体が挟まった。句挟まりだ(※そんな俳句用語はない)。やはり並の量ではないことが、その言い方によく表れている。案外食べない、とする句より面白くなった。

藤◯【評】あまりの食いっぷりに驚愕して自分はちっとも食べられていない状況。ふだん見られない口さけ女の意外な一面を見た。

飼◯【評】えーそんなに食うの?とドン引きしながらも、口が開くたび凝視してしまいそう。文句なく面白かった。

夕◯【評】藤子不二雄のマンガみたいにどこからかやってきて居付いてしまった口さけ女。大好物はしゃぶしゃぶだった様で赤い大きな口に肉が次々飲み込まれる様に家族あんぐり。おんなとそんなの韻も心地いいです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
133 にんにくを食べない君にドラキュラを
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
134 着ぶくれた川崎駅の雨女 CCくひ崖黒酒寝鶴二丼黄夕里真=15
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
酒◯【評】妖怪か?(妖怪しばりで出すのはズルでは?)という気もするが、それこそ「景が見えた」。ホームに立つ薄幸美人(まあ不美人でもいいや)は悲しく、蔑みたくも愛おしくもある。

崖◯【評】手練れの句。なぜ俳人が一物仕立ての句を作ると、手すさびな感じが出るんだろ? で、余計に俺は萌える。村井好餌さんが袋回しで出したと言われても信じる。

く◯【評】語呂がよい。口に出したい。冬の雨は冷たいからたくさん着なきゃね。新宿駅とか赤坂駅とかじゃなくて、川崎駅なところに哀愁が漂う(偏見?)。

黒◯【評】「雨」女が「川」崎駅にいるのがもう面白い。そうか、雨女は川崎在住なんだ!更に、冬の雨女は雪女に仕事を奪われていて暇だというのも新発見。どことなく物悲しい雰囲気も、シーズンオフの雨女に似合ってます。

C◎【評】景と語感。「川崎駅の雨女」が良かった。着ぶくれて欲しくないくらい。「川崎駅の雨女」というタイトルの本があればタイトル買い

黄◯【評】一番怖かった!日本最強妖怪決定!私、川崎よく知らない。川崎と言えば子供の頃、社会の授業で聞いた「川崎病」なる言葉の記憶の想起。着ぶくれた女は濡れていない。足音が街へ消える…あぁあぁ川崎〜は今日も雨だった〜♪

丼◯【評】雨女が駅の入り口あたりに取り憑いた。そうと気付かれないように痩せた体を隠すため精一杯着ぶくれしている。恨みを抱く男は毎日ここへ来るのであろうか。じーっと人波を見つめている。そして、川崎は今日もあめだった。

鶴◯【評】遠景のイメージ。遠くのほうに、着ぶくれた女が歩いている。雨でけむってよく見えない。でももしかしたら、あれがかの雨女なのかもしれない。その疑いと、「川崎駅」という言葉の現実味が、不安を誘う。妖怪の哀れさ。

里◯【評】川崎在住者ですw。これ「横浜」だったら成り立たない。川崎のちょっとすえた、湿っぽく雑然とした感じと、着膨れてるどんくささ、さらに雨女という不運、この組み合わせがとてもマッチしていました。

ひ◯【評】競馬開催後の川崎駅。肩を落とした人の群れの中で、胸を張り、頬を紅潮させ、空を見ている女性。最終レースはしっかりとものにしたのではないでしょうか…。

二◯【評】ホームレスの人と読んではいけないんだよね?けど なんかじわっとなったのは逆な思いかしら?

夕◯【評】ストーカーが浮かびました。現れるのは決まって雨の日。ある日駅に降り立つと傘もささずにこっちをじっとりとみているあの女が。いつまでも寒さの中待つつもりだったのか時代遅れの大きなセーターを着ぶくれさせて。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
135 腹重い思いを覚り悟って欲しい
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
136 河川敷ホワイトアウト鬼火出づ C=1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
C◯【評】景観が良かった。グラウンドに吹雪。灯される照明。なかなか幻想的です。さみーけど。冬の部活は辛いっす

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
137 口裂けの娘も呼ぼうクリスマス 藤丼栗栗彗=5
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
栗◎【評】クリスマスの博愛精神からか、いつもは避けられてる、口裂け女のところのお嬢ちゃんにも、パーティーの招待が。顔面口にして、満面の笑みを浮かべる口裂けちゃん!いいね!明確な物語が映像で浮かぶので特選に。

藤◯【評】ふだん見られない口裂け女の意外な一面を見たい人からの提案。もしかしたら人が恋に落ちる瞬間を見られるかもしれないので、もちろん賛成。

丼◯【評】男なんていらないわ、とばかりに女子会クリスマス。せっかくだ、街の片隅で恨みを晴らしている口裂け女も呼んじゃおう。いやー、怖い怖い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
138 百目より隠れて潤む毛布かな 科酒少少幽残残=7
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
科◯【評】「潤む」という語を使った事がすごいと思った。「潤む毛布」で、隠れている主人公の恐怖、息づかい、そして少しの安堵までもが感じられる。百目は「動く」かなとも思ったが、やっぱり動かない。視線への恐怖が○。

酒◯【評】百目は世間の目(妖怪って、そもそもそういう恐怖の象徴だ)。好奇や非難の目に晒され(あるいはそう思い込み)布団に潜り込む(引きこもる)精神状態の切迫した感じと悲哀。ただ、潤むが涙ならば、そこはやや冗長か。

少◎【評】百目がよほど怖かったとみえる。布団が濡れてたら、おもらしだろうけど、毛布を密着させてる様が見てとれて。

幽◯【評】あれだけある目から隠れるのは相当難しいはず。で、そんな困難を乗り越えてまで毛布が欲しい気持ちがすごい。しかも、目的は温もりでなくて潤みなんですね。このはずし方も面白かったです。

残◎【評】百目に気づいてしまった。目をつぶっても毛布を被ってもそれを忘れることはできない。泣いたってその記憶は流れない。ひー。おかげでお昼寝できませんでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
139 真夜中の散歩の供にぬっぺほふ 茅黒子麗麗ツ夕=7
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子◯【評】なんだか気持ち悪い。夜道を歩く隣の人の正体がこの後表れるのか?と、少し期待も。

黒◯【評】真夜中の散歩に連れていくのなら、のっぺらぼうじゃなくてぬっぺほうだなぁと共感したので◯。黙って後ろをついて行くぬっぺほうの様子が目に浮かびます。

麗◎【評】「ぬっぺほふ」を知らなかったが言葉の響きに惹かれた。夜道、ぬっぺほふを連れて歩いたら、野犬や悪漢に会わなさそう、と。安心の護衛。会話なくとも夜の散歩楽しそう。(選評後ググってその姿を拝見し愕然)

茅◯【評】たしかにいがいとかわいらしい見た目であるがレア且つ肉が妙薬との噂もあるぬっぺほふをお供にするなんて、作者はどんな力を、と思うと恐ろしくて選びました。

ツ◯【評】あくまでそいつは供、用心棒として使ってやってるのよと見せかけて、実はぬっぺほふのいい時間のために真夜中の散歩を習慣としてる読み手。いい関係。(私もぬっぺほふのビジュアルに驚きつつ、和みました)

夕◯【評】ぬっぺほふのかわいい所と真夜中の散歩でなんだかなごみました。ぬっぺほふって分かってるんだからもう親しくなった後だろうし。ゆっくり会話してる所が浮かびました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
140 朝寝坊焦る足下すねこすり ひ甘子地黄珍=6
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子◯【評】すべてを妖怪のせいにしてる。本当は焦ってなさそう。布団でもごもごしてる様子を想像して楽しい。

甘◯【評】この図を想像すると可愛い。そして急いでる時こそ足下のモゾモゾ感とか余計なことに気がいく!分かる!すねこすりに親しみがあったのも選に繋がりました。

黄◯【評】上五中七のリズムにがおもしろかった。妖怪としてもみれるし、ただの日常風景(?)としても。二つのイメージを喚起できる。自分で脚をもぞもぞするのか。かの妖怪がスリスリするのか…蟻んこ一杯できちゃいますけど…

地◯【評】「すねこすり」が何をしたいのかよくわからない妖怪なので、うっとおしい気持ちになった。ソワソワする。妖怪ってほんとにいるな、と思えた句。

ひ◯【評】冬の朝、寝坊した足下の毛布がまといつき、あやうく転びそうになる。もう少し寝ていようよと寝床が誘いかけてくるかの様。後ろ髪を引かれつつ、慌てる姿が思い浮かびます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
141 ねんまつだまっくろくろすけおいはらえ 重夕彗彗=4
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕◯【評】住んでる家が築120年で、ホントにまっくろくろすけ出そうなんですけど、我が家で言いそうだなあと思って選びました。追い払う季節だなあ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
142 蜜柑かご背中に僕はコタツムリ C=1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
C◯【評】ググりました「コタツムリ」。ムリなものはムリです。寝てましょう

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
143 うれた柿とらんとなるぞたんころり 黄黄=2
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
黄◎【評】読み返せば読み返す程“たんころり”が気になって、気になって…熟柿の下 “ターン”と踏み切って“コロリ”と飛び込み前転をしている何か(中本工事的な)あぁ愉快…UMA誕生!こうして妖怪は作られるのか…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
144 置き去りの百目溢るるホームかな ひ崖甘鯖子子酒森鶴藤波蓬蓬残雪=15
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子◎【評】 気づかれずに置き去りにされる。年末の慌ただしさの中に訪れる空白。しかし、それをふと感じる人もいる。柱の陰にふと気を引かれる感覚になり、自分に翻って、あ、ひとりだなと気付く感じが心地良くて◎

甘◯【評】出発した車窓から見るホームの人々は自分にとっては確かに関わりがない人達で、人間だろうが妖怪でもかわりがない。 たくさんの目を百目と捉えた慧眼に感服。

酒◯【評】これも人の浅ましさ(と、浅ましさは社会が人に備えさせたんだということ)を妖怪に託した句…ととってもよいけど、写生の方が楽しいな。本当に百目がわらわらいたんだよ、ホームに。所在なさげにオロオロして。

崖◯【評】才能あるなぁ、この人。韻文やっている人なんだろうけど、俳句の人か分からない。ほかの句も見たいね。作者発表楽しみ。

蓬◎【評】一人だけでも百目あるのに、溢れるほどいるってどんだけ目だらけなんだよ。たぶん終電に乗り損ねたんですね。人間の乗り損ねが去ったあと、暗いホームに溢れる目。怖いけどなんだか哀れで特選。

鯖◯【評】「鉄郎。この世のすべてを見たい。その欲望に憑かれたあまり全身を目にしてしまった人間達の哀しい星。それが百目惑星よ。999で宇宙を巡る事。それが彼らの決して叶わぬ夢なの」

波◯【評】ごったがえす雑然とした駅のホームにいるのは、有象無象の人間じゃなくて、置き去りの百目たちだ。「往来の外套」の句と対のようにも思えた。

森◯【評】忘年会シーズンにぴったりな句。その目は死んでるようでいてヘラヘラと(傍から見れば)不気味な生気を湛えている。彼らはこのあとどこへ行くのでしょう。百目だけども孤独な個々

雪◯【評】あー、溢れてることあるよねー、と。特に年末、金曜日の夜によく見る風景。こちらも満員電車で精一杯でよく覚えてないけど、あれ百目だったんだね。電車の中は一つ目でいっぱいだった覚えがある。

残◯【評】今日の朝も遅れてる中央線。特快に乗ってるが何故かノロノロ運転。特快が停まらない駅のホームには人人。ノロノロだからその人達と目が合う。百の目とぶつかる。情景がありありと浮かんだので選句しました。

藤◯【評】ホームいっぱいにふくれあがった電車待ちのひとびとがジェル状に一体となって百目。妖怪と人間のあいだがらの近さをあらためて実感した。

鶴◯【評】これは、句を見たときの字面が好きでした。「置き去り」から百目の赤ちゃんがたくさんホームでうろうろしてるところを連想し、かわいいやら気持ち悪いやらあわれやら。ビジュアルにやられました。

ひ◯【評】俯き加減の通勤者の群れが自分の乗る車両に一斉に視線を放つ。空いている場所や座れそうな場所を探しているのか。うつろな視線の群れって、怖い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
145 残り湯やベラを眺めつ蜜柑喰う る科助波妹=5
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
科◯【評】もし「ベム」だったら漠然とした印象の句になってしまう(ベムは作品名だから)。「ベラ」としたことで「景が見える」。主人公の弛緩した態度とTVに映る彼女の赤い唇が相まって、妖怪人間が艶めいて見えてくる。

妹◯【評】実際に妖怪人間観てるところなのかも知れないけど、きっと「どの杏見てもみんなベラにしか見えない」ひとの句って思ったら、風呂上がりに見てるそれもベラじゃなくて杏だから!ってツッコミまで浮かんでしまった。

波◯【評】まさに、今!妖怪人間ベム放映中の2011年の冬を詠んでいるという一点突破で選。

助◯【評】ベラが良かった。ベラは妖怪と言うよりテレビドラマを想起させるので、妖怪が匂わない生活の句になっていて、印象に残った。

る◯【評】テレビの向こうに「妖怪」が後退したリアルな感じの句。いい意味でマンガっぽいドラマのベラと、平凡な年末を過ごす自分との距離感がとてもいい。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
146 実は彼ぬらりひょんかもしれないの く崖酒重爽地波波栗光妹数=12
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
酒◯【評】このインパクトには抗えなかった。以上。

崖◯【評】面白い! でも、季語がないことを強く意識させたら、前衛の人でも少しは拒否反応起こすんじゃないかな? が「ねたあとに」ファンならOK。この座は超OK。つまり挨拶句。

妹◯【評】反射的に「へぇー」とか「そうなんだー」とか答えちゃいそうだけど、彼女「実は」って切り出してるし、よく見たら顔も深刻そう。ちゃんと聞くから、思い当たる節を詳しく聞かせて。

く◯【評】「彼」=恋人として読むと、なんかほほえましい。ぬらりひょんでも好きなのだ。でもこんなことそっと告白されたら、「やめときなよ!」って言うだろうな。

波◎【評】言葉の強さが圧倒的で有無を言わさず覚えちゃう。そして口に出して言いたい。深刻そうに切り出したい。カフェで、居酒屋で、雑踏で、電話口で。これはテンションがあがる句でした。

数◯【評】こんな秘密を告白されたら驚愕ですね。告白した人が、何らかの覚悟をして言ったような潔さが

光◯【評】「実は」の声の顰め方と、「ぬらりひょん」という軽薄さが思わず笑いを誘う。本当に妖怪かもと思っているのかもしれないし、軽薄な男への揶揄の意味としても成立しているところも上手いと思った。

栗◯【評】「私の彼氏はぬらりひょん!?」本人には大事だけど、打ち明けられた側は大笑い。コメディ映画になりそう。

爽◯【評】実は、と言ってる人もあまり深刻そうでなくていい。妖怪ってなんだかしょうがなさがあって救われるものなのだな、と感じました。ぬらりひょんじゃねえ、仕方ないよね。

地◯【評】どうしたらいいのだろう。友達からこんなこと言われたら。案外オープンカフェみたいなところでサラッと告白された感じ。すごい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
147 目目連泣くな床上浸水だ 白蓬幽幽麗朧飼=7
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蓬◯【評】目目連て家につく妖怪なんですね。そりゃ浸水したら泣くだろ、と思いましたが、これはもしかして前もっての告知なのか。いいか、これからつらい話をするが泣くな。この家浸水するぞと。気の毒で選句。

幽◎【評】浸水に泣いてるのなら「だ」とは言わないから、違う理由で目目連は泣いている。向かい合う語り手がふと振り返ったら浸水し始めてて、それどころじゃないぞ、と。目目連への深い愛情が感じられて、大好きな句です。

朧◯【評】ちょっとした天災とか、生活にまつわるいろんなことって妖怪のせいにされたんだろうな。妖怪と生活の関わりが描かれていて本来の妖怪のあるべき姿と思い選。

麗◯【評】「目目連」を知らなかったが、たぶん体中に目がある妖怪なんじゃないかと予想。その全ての目から一斉に涙が。どんな悲しいことがあったのかな。泣くな、とつっけんどんに言うのは、ほんと困ってるから。感情の差異も面白い。

飼◯【評】泣いている理由を知りたい。家主に家を改装するとでも言われたのだろうか。"節電しなきゃいけないし障子は寒いんだよ" "そ、そんな〜"。でもこの家主ならそんな酷いことはしないはず。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
148 年老いた座敷わらしと餅を食う ひひ剣地麗朧ツ残雪彗=10
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
剣◯【評】わらしなのに年老いている。「AKIRA」のタカシみたいな妖怪でしょうか。二人がとくに会話もないままお正月の陽が当たる縁側でのんびりしている絵が浮かび、肩のこりがほぐれるような気持ちになりました。

雪◯【評】座敷わらしは外見は童のままだから、年老いていることを知っているのは、一緒に年老いたから。子供の頃に知り合って、大人の間は気配をと感じるくらいで、今だんだんと人間と妖怪の境が曖昧になって、餅。

朧◯【評】こいつも遠慮なく食いまくりそう。「年老いた座敷わらし」って誰のことかわからないけど祖父母ではないよね。ありませんように(疎ましく思ってる言い方だから)。

残◯【評】座敷わらしは守り神。子どもにしか見えないらしい。お互い年取っちゃったねぇ、ありがとうねぇ、お疲れさんと労わる感じ。温かい気持ちになれたので選句しました。

麗◯【評】歳を取らないはずの座敷が老いるほど、古くから長く栄えた家。その家の歴史を見てきた座敷童と、新しい年をまた一つ越せたことをめでたく思う家の主人(同じくご老人)。まるで夫婦みたい。そこがいい。

地◯【評】赤ちゃんみたいなお年寄りっているよね。あくまでも座敷わらしであって、子泣じじぃでも砂かけばばぁでもない。かわいいんだな。

ツ◯【評】年末年始と妖怪がしっくりくるのは、普段忘れてる土着の文化の感覚を改めて確認する季節だからでしょうか。「年老いて」いるかつてのわらしにしんみりしつつ、でもまだここにいると。喉、つまらせないようにね。

ひ◎【評】若い頃からつきあってきた連れ合いの、愛すべき老いた姿を表現すると同時に、描かれていない相方は一体どんな妖怪なんだろうかと想像してしまいました。結論、出ませんでしたけど…気になる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
149 添い寝する唇紅き雪女郎 朝=1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
150 鰭酒や酒呑童子となりにける 丼里=2
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
丼◯【評】酒に溺れていつしか人が酒呑童子になる。人が妖怪になる恐さが妖怪句の本領かなと思うので高評価。鰭酒への違和感と、酒で酒呑童子へという意外性の物足りなさで、一歩、垢舐めに及ばなかった。

里◯【評】鰭酒はほんとおいしいので、酒呑童子になっちゃうのも分かります。妖怪の酒呑童子はよく知らないけど、気が大きく声でかそう。とにかく妖怪を知らないので、この題は作るのも選ぶのも苦労しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
151 大広間座敷わらしのくしゃみ聞く Cひ丼じ大裏=6
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
裏◯【評】なにかを妖怪に見立てるより、真っ当な妖怪体験談のほうがすんなり物語のひろがりを感じた今回。旅館の宴会場で座布団を片付けながら耳をすます仲居。座敷童の加護もあり繁盛している旅館のつかのまの静寂。

C◯【評】大広間に一人。どこかでくしゃみの音がしたような。無い物を有ると感じる。妖怪出現。

じ◯【評】座敷わらしがその家について、豊かになり、家が大きくなったのはいいけど、少しさみしくなったのかな。気づいてほしくて、くしゅん。

丼◯【評】田舎の親戚の家に泊まる。部屋がないので仕方なく大広間に布団をひとつ敷いて寝る。静まりかえる中で聴こえる子供のくしゃみ。子供のなんていない筈なのに。このまま眠れるのだろうか。冬の夜は長い。

ひ◯【評】ふすまの向こうから聞こえてきた物音。くしゃみに聞こえたけれど、誰のものかは分からない。親戚縁者のくしゃみが聞き分けられる訳でもないし、でも、向こう側に誰か居たのかな…既視感を誘われました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
152 雪女こっそりビキニ買ってある くる剣鯖助爽麗彗じ朝=10
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
剣◯【評】171の雪女と違ってお茶目です。自分が色白なのが嫌で日焼けしたい、でもきっと雪女は夏に出ると溶けてしまうのでしょう。そう思うと「人魚姫」のような悲しいお話にも思え、泣き笑いしました。

鯖◯【評】買ったのは男か雪女か。どちらでも面白く転がる。正直ビキニ姿見たいです。

く◯【評】かわいい。雪女は夏はどうしているのだろう。想像したこともなかった。どこまでもかなしい雪女の生涯の中に、こんなかわいらしい一幕があったと思えるだけで、「よかったね」という気持ちになる。

助◯【評】117の句のような雪女の閉塞的で憂鬱なイメージを逆手にとっていて、語のチョイスも好きだった。こっそり、ビキニを買うというのはイメージを崩さないためではなく、単に「らしくない」から恥ずかしいのだと解釈。

じ◯【評】今年の勝負水着はもう買ってある。白い生地に控えめな雪の模様、その名も『雪女こっそりビキニ』。

麗◯【評】雪女は、けっこう自分の美貌に自信があるはず。スタイルもよい。肌の白さも自慢したい。(ぽっちゃり雪女、いたらごめん。)そりゃ、ビキニ着たいよね、と。着物の下にもう着てるかもしれない。脱いでもすごい女!

爽◯【評】たぶん似合うのだろうにもったいない! ひとりで着てみるのだろうな。氷に立ち姿うつして。

る◯【評】多分着る機会はない。たんすの奥にしまってある。和風美人キャラに合わないから周りにも内緒にしている。でもちょっと気になる。あれ、かわいいぞ。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
153 手袋をもらい戸惑う手の目かな 茅少寝爽炭藤白凡残雪雪数=12
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少◯【評】本来、不気味で怖い存在であるハズなのに、自分のアイデンティティをひっくり返されるような贈り物をされた事に怒る事もできない、間抜けさに。

数◯【評】くれた人はきっと悪意ないんだろうなぁ。もらったことは嬉しいけど、着けられないからどうしたらいいか分からないんでしょうね。でも、この手の目は我慢して手袋するんじゃないでしょうか

雪◎【評】 手袋くれたのはきっと人間。お互いの存在に慣れなくて、コミュニケーションがなんだかぎこちなくてどっちも戸惑いがちで、でもその間にあるのは好意。よいなぁと思って特選です。仲良くなれるといいね。

凡◯【評】T音(手袋、戸、手)とM音(もらい、惑う、目)を破産での繰り返しが実に心地いい(←出た!音をアルファベットでいう)。手袋だから(だけ)じゃなくて、親切自体に戸惑ったんだな。切れ字も気持ちいいです。

残◯【評】その昔、エリーゼのためにのオルゴール(バレリーナがくるくる回るんだよ)をいきなり手渡されたのを思い出した。自分には必要ない物をいただきしかし邪険にできない気持ち。わかるわぁ。

藤◯【評】妖怪句は、妖怪と仲良くなりたい気持ちにせっつかれるように選句した。なかでも、これがもっとも衝動的に選んだ句。戸惑う手の目を見たい、あるいは我こそが手の目を戸惑わせたいと思った人も多いのでは。

茅◯【評】荒れ野のただ中、手袋をつまんできょろきょろする手の目。アイデンティティを否定された手の目は今後正しく人を脅かすことができるだろうか…親切は時に残酷。

爽◯【評】戸惑いつつもしてみてほしい。あたたかいとおもいながら、開いた目。

炭◯【評】知り合い始めの異性に「いつも手が寒そうだから」と貰ったプレゼント。嬉しいけど、どうしよう、戸惑う手の目が見えてどきっとした。(頭の中では完全に女子)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【なんでしょう句会 妖怪評】togetterまとめ http://togetter.com/li/230392
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー