第一回【なんでしょう句会】氷評

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1 奥信濃かの湖の結氷す 丼朝=2
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朝◯【評】実体験や目の前のことでなくても、共有されうる地名というものの力を感じました

丼◯【評】野尻湖でしょうか?結氷しにくいのですよね、たしか。私にとって縁深い榛名湖も最近は結氷しません。湖が結氷するというのは生活に大きな影響があるのだと思います。そして、とてつもなく寒い。その厳しさがすっと入ってきました。

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2 氷噛む昨日の空気の味がする
  科炭地地鶴藤波波白白凡幽ツ珍珍夕里大大飼=20
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ツ◯【評】早朝の道中で見つけた氷を口に含んで登校したことあったなーあったあったと、氷を噛んで出てくる味の感覚ごとが句を追うに伴って思い出されました。ちなみに冷蔵庫の氷は、冷蔵庫の中の空気の味。

夕◯【評】氷独特の「氷味」でも「昨日の味」って想像したら「どこどこで○○してた時の味かあ」なんてその時その時しか無い味わいが生まれておもしろいかもしれないなあと思いました。

地◎【評】当たり前のことにハッとさせられた。マックのサクサクした氷っぽい。これからは氷を食べるとき「昨日の味か」と思うだろう。

科◯【評】初見時は理屈で解釈した。氷に昨日の空気が閉じ込められてる、と。がその後「確かに氷って少し古びたような味する!」と気付き驚嘆。理屈と感性の融合した句。なにより「昨日の空気の味」という新しい言葉を発見した事に喝采

鶴◯【評】氷ってつかみどころのない独特の味がしますよね。その味をまず思い出して、それが昨日の空気の味といわれるとしっくり!昨日というちょっとだけ過去を味わっている、ぼーっとしてものさみしいような時間。

炭◯【評】この氷は地面の水たまりに張った氷と考えました。その氷は「昨日までに降り注いだ雪が変化したもの」だと気づかせてくれた句です。(大人は地面の氷をあまり食べませんが)

藤◯【評】氷ってほんのちょっとだけ苦くて体に悪そうな味しますもんね。さっき飲み干したジュースのフレッシュさまで偽装工作されたもののように思えて、でもそういうのも別にいやじゃない、ジャッジしない感じがよかった。

凡◯【評】たしかに発見がある。一噛みして、まだ噛んでる顔だ。(……NHK俳句ばりに「添削したいー!」とも思うが、後で作者の方よければ。……きっと添削前の方が良いんだが)。

波◎【評】「昨日の空気の味」という言葉で、句の中に時間を表現している点、またその時間が突如立ち現れる感覚も「噛む」という言葉で描かれ、非常に難しいことをやってのけていると感じて特選。氷の氷性に時間があることにはっとさせられた点も良かった。

珍◎【評】ガリガリと噛み砕いてしかわからない、水の味とは異なる独特の風味が氷にはあって、それを「昨日の空気の味」と表現されて、なるほどな、と。着眼点と発想がおもしろく、「噛む」「する」の投げ出す感じがかわいい句。

里◯【評】氷の中に、空気と共に昨日の雰囲気まで閉じ込められているようで、想像が膨らみました。最初は製氷器の氷のことかと思っていましたが(古くなると味が変わるので)、屋外で自然にできた氷のことかも(そっちの方がイイ)。

飼◯【評】昨日の空気ってなんか空虚な感じを受ける。そういえば氷もガリガリ噛んでいる時はその食感が楽しいけど、これといった味もせず正体がない。そこにただぼんやりと過ぎる今が重なって、その何もなさが淋しい。

白◎【評】流れている水とちがって、氷って時間のかたまりなんだよねって、その発見にがーんときて、即座に◎でした。

大◎【評】僕は氷を噛むと鼻に抜けるような独特な味を感じた気になる。そうか、あの味は気泡に封じ込められた昨日の空気だったのか。あの味が何の味か分かった、◎

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3 あな悔し氷砕いて臼歯あり 子幽丼ツ飼=5
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丼◯【評】コップの氷水を口に含みバリボリしたら、奥歯がキーン。虫歯が進んでいるようです。あー歯医者いきたくないなーというコミカルな心理表現が込められた『あな悔し』に思わずこちらもニヤリとさせられて選びました。

ツ◯【評】奥歯でごりっと圧し砕く強度と、あな悔しの語感。言葉ごとそういう気分なんだなと。あと臼歯の臼の、どんなに強く噛んでも動じない安定感に、気持ちと身体のいい関係を見ました。

子◯【評】ゴリリという感触。硬いものを噛むことで、普段気にしていない奥歯の存在に気づく。そしてちょっと痛い。

幽◯【評】臼歯という言葉でもって歯の存在を体感するってあんまりないですよね。さらに悔しいという感情も意外性があって面白かった。存在そのものがだらしない草食動物の血筋を思い起こさせて悔しいんじゃないかな

飼◯【評】砕いてという言葉に強い意志を感じた。前回は梅の種に挑戦したが敗北、次こそはと御しやすい氷に挑戦したが再び敗れ去りあろうことか歯が欠けた…うおー悔しいぜ!そんな人物を想像してにやにや。

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4 氷の手はあと息吐く通学路 彗=1
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5 トラックのシートのたるみ初氷
  C崖茅甘子酒酒重重少寝爽炭地白凡麗朧雪珍夕夕じ大裏裏=26
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少◯【評】寒い朝、荷台に見える氷。どおりで冷えるはずだよ…、と。

子◯【評】日常の中に季節の変化を感じる。路面の氷ではなく、トラックのシートという少し高い所に気づく視線の動きにも、見てないようで見ている氷のない今まで(日常)を感じられて良かった。

C◯【評】寒い朝の通勤や仕事はいやなもの。そこに『初氷』という発見、気付きがあると気持ちがリセットされて前向きに活動をはじめられる

茅◯【評】いつもの通り道に放置されているトラックのシートに水が溜まっていること(を毎日見ていたこと)に氷ができてはじめて気づく。日常の景色がかわる瞬間を見せつけられた。

夕◎【評】段々寒さを増してきたある朝、とうとうこんなに寒くなったと思いながらの出掛け。道端のトラックのシートに張った薄氷に寒さの程度を感じて少し驚きひとりうなずく様子が浮かびました。真冬の始まりの発見という感じが好きです

地◯【評】これも「そこに張ったか!」と。投句者は実際にシートの氷を見て冬を感じている。生活が見えるような所が好き。

雪◯【評】日常の中で、そんなところに寒が見えるのか、という驚きをもらいました。初氷の薄い、崩れそうな風情とトラックのシートの頑丈さ、氷の張りつめた平たさとシートのたるみの対比が、奇を衒わずに意外さを強めて素敵。

重◎【評】水によるたるみと氷によるたるみは、やっぱり違うんだなと気づかされました。

麗◯【評】朝まだ早い出勤時に、荷台にこの冬はじめての氷を見つけた作者。動き出す前の町、周りの空気、までみえてくるような一句。冬の事象(=冬そのもの)に出会った、そのことだけを言う強さ。シンプルで胸に残る。

爽◯【評】シートのたるみ「だけ」が見え前夜の雨(水)を思っていたが、ある瞬間あそこにあるのは氷だとハッとしたのではないか。氷自体を直接見ていなくても想像と推測で水は氷になるし、その速度は実際の氷結とは違うものになれる

炭◯【評】最初に初氷に気付くのは、習慣的に触れているものではないかと。だからこの句は朝のトラック運転手か農家の人の気づきを表した句なんじゃないかと思いました。

甘◯【評】通学路の同じ所にいつも置きっぱなしの軽トラの白いシートのたるみに溜まっていた雨水が今朝は氷っている。シートのゴワゴワした感じだとか、氷の薄汚れた感じだとかがすごく鮮やかに想像できた。

凡◯【評】トラックのシートといえば座席だと思い(荷台には必ずシートがあるわけでないが座席は必ずある)、それがたるむってどういう状態だとまだ悩むが、お尻や背中で感じたのだろう、と。アイスバーンに気を張ってハンドル握る朝。

裏◎【評】たしかにそこ(軽トラの荷台の緑のカバーと読みました)が一番に凍る。しかも好奇心で触るとたるみの凸と凹が逆転した造形のまま、ぽこっと手に取れる。初物且つへんなカタチでしげしげと見ちゃう。俳句=観察だなあ。

じ◯【評】トラックの氷に反応するのは地方の小学生だけかと。畑のトラックくらいしかシートに水がたまって凍るようなことは無く、中学は自転車だから気づかない。だから僕はすごくこの光景を懐かしいと思い、単純に好きです。

珍◯【評】これも(北国出身の自分には)「あるある」系。「トラック」は青の軽トラで、「シート」は荷台のブルーシート。トラックの持ち主は氷を見て「今朝は冷えたもんな」と思うくらい。いつの間にか消えています氷。その儚さも○。

朧◯【評】トラックの荷台になにかを満杯に積んだ後、荷をおろして荷台にかけたシートにできたたるみ、さらにそこにたまった雨水は明け方には氷に。“寒さ”と“ひと仕事終えた”感が年末っぽいマッチングと思いました

酒◎【評】椅子の偽革がたるんでいるのだとばかり(そうか荷台か)。説明的での〜の〜と熟れていないことがかえって『そのことを詠みたかった意志』を強く感じさせる。毎朝トラックに乗る人が、運転席に座りエンジンをかける前の一息、窓外の発見。

白◯【評】寒くなってちょっとお休みしてるトラックの荷台のシートにできた氷。氷のことを想像すると、空中に浮かんだ不思議な形のオブジェのよう。説明しがたい形を、しっかりとイメージさせた力がすごい。

大◯【評】トラックの無骨さから一転して、不定形なシートの上に出来た薄い氷。トラックが動き出すまでの儚い美しさを直観させる。

寝◯【評】まず、氷はそんなところにも張るのかという驚きがあった。トラックやシートのゴツゴツ、ゴワゴワした感じと、薄く張った氷の質感のギャップが新鮮だった。

崖◯【評】トラックのシートのたるみに発見がある。初氷、最初は動くと思いきや、これはこれで、緊張感みたいなものも漂う。

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6 寝るきみの腹に氷を詰めて縫う ひ甘甘二二蓬数=7
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甘◎【評】冷たくなった身体に更に冷たい氷。でもそれは愛しい人を少しでもこの世に留めて置く為の愛の詰まった熱さだ。淡々と詠まれた行為の中に悲しみ、やりきれなさ、愛情を感じた。うまく言えないのがもどかしい位文句なしの特選

ひ◯【評】腹を割き、埋め、縫い戻す行為って、なんだかとても淫靡。煮えきれない相手に、溶ければ無害な水となる異物を腹の底に置き去りにする積極的な観察者の姿もなんだかじれったくて、面白い

蓬◯【評】憎しみまでいかないもやもやした気持ち。あったかそうに寝ている人のおなかに、頭の中で氷を詰めてみて溜飲を下げたのかな。ほんとに詰めてるシュールな風景でも味わい深いですが。

二◎【評】全体的に飛び抜けてぐっときた句はなかったから並選との差は少ない。この句は奇抜さより意味的に面白かった。次の日にきみなる人の腹に縫い目だけが残る謎に、意図を越えた発展を感じさせ、経験できてないことを歌にした面白さがあった。

数◯【評】よく分からない、けれど何か気になりました。ファンタジーなのかホラーなのか、何かの比喩なのか…その情景をありのままイメージすると、不条理ながら素敵な雰囲気

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7 軽装で氷上に立つ四人組 くく科科崖茅茅黒鯖助森爽白珍彗彗数数=18
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く◎【評】みんなが厚着でスケートとかしてる中、この4人だけ薄着で所在なげに立ってる。ドライブで通りがかりに湖を見てテンションがあがり、おりてみよーぜ!っていうことになったのだな。など、物語が浮かんでにやにやしてしまった。

森◯【評】どんなアイドル?もしくは戦隊モノ?って微笑ましく吹いた。下五が堂々としていて例えTシャツ一枚でも寒さを感じさせない気持ちの強さおよび滑稽さを覚える。三人組でも五人組でもないのがグッと来た。五なら一人穴に落ちてるね

茅◎【評】思い出したのは『防衛漫玉日記』のワカサギ釣りの回。ノリで氷上に出てはしゃいでいるけれど準備不足をちょっと後悔するような「遊び仲間っぽさ」への憧れをかき立てられる。

科◎【評】4人の所在無く立ってる感じがすごい。三人組や五人組だったら安定感が出るが、「四人組」だと実に所在無さげ。軽装で、手はポケットで。「どうすんだよ、こんなとこ来て」と声が聞こえるよう。平易な言葉遣いでこの臨場感! と◎

爽◯【評】寄り添う姿がすぐに出てきたのと、その理由のわからなさが気持ちよかったです

鯖◯【評】軽装という言葉で想像が拡がる。MIB感あり。超科学的素材の衣服をまとっているのか身体そのものが常人とは異なるのか。もしくは動作の敏捷性を優先しているなんらかのプロフェッショナルチーム。不用意に近づくべからず。

黒◯【評】四人が予定外に氷上に立つことになった理由とは?近づいてみると四人の足元には五人目が横たわってたりするんじゃないの?という落ち着かなさを感じました。映画「ファーゴ」のイメージ。

珍◯【評】四人は全員男。女がひとりでもいれば「あぶないよー」って言うもんね。全員彼女なし。もっといえば童貞であってほしい。さらにいえばこのあと氷が割れてほしい。真っ青な顔でガチガチガチ。と、おもしろ妄想が膨らんだので。

彗◯【評】メタフオリックな解釈かもしれませんが。売れないバンドかカルテットを連想。四人の絆は溶解してしまうか固まるかとミメージが膨らみました。

白◯【評】ぎゅうぎゅう小さな車に乗って、浮かれて降りちゃったけど、ちょっと猫背で、みんなポッケに手。格好悪いビートルズみたい。

崖◯【評】軽装と四人組の取り合わせの妙味。氷ゆえに、やや、理に走った感じが気になるも、立つ、というぶっきらぼうな言い方が、この句を支えている。

数◎【評】大学生くらいの男子四人組が「さみ〜!」ってきゃっきゃしてるのかな。おそらく次の日は全員風邪ひいちゃう。普通の言葉をさらりとならべてるのに、物語の広がりをすごく感じさせます

助◯【評】読んだ瞬間にミッシェルの「high time」のジャケットが頭に浮かんだ。それで四人組は僕の中で勝手に覆面強盗の格好になっていて、その四人組が氷上に立っている姿が、とてもキマっていたので取りました。

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8 朝早く氷の下の鯉静か る朧残珍じ妹=6
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妹◯【評】生きた鯉が棲んでいる池の表面に氷が張る、という状況は未体験で、どんなにか、鯉は静かで、辺りの空気は冷たいんだろう!などといった空想がいっきに膨らむ句だった。寒い日の透き通った気持ちよさみたいなものを感じた。

る◯【評】見えないところで、静かだけど確かに水の中にいる鯉の気配。朝の研ぎ澄まされた空気の中で、そういうものに敏感になっている。別の時間帯では気づかない。

残◯【評】雨戸を開け、池の照り返しが普段と違うことに気づく。池に氷が張り、鯉は寝ているのか水の冷たさに耐えているのか。旧家のデカイ庭の冬の情景がくっきり浮かんだので選句しました。

じ◯【評】ゆらりとしていて死んでるのか生きているのか。あまり遠くない位置で、氷のすぐ下なら庭の池でしょうか。大丈夫かなと思うだけで小石を投げ入れて確かめようかなとは思わないんですよね、死んでたらめんどうだし、寒いから。

珍◯【評】一読、自分ももう何度もこうした光景を見ているような心持ちにさせられたので。詠んでるのはその家主でもただの通行人でもいいな。「朝早く」はほかに表現あるかも、とか、「静か」は「しづか」だとどうかな、とも思いましたが。

朧◯【評】朝の、自分以外の生物がまだ本格的な活動を始めていない時間帯を素直に詠んでいる句と思いました

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9 年越のグラスの氷なごり惜し CCく重妹=5
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く◯【評】年が明けた瞬間、氷は「去年の」ものになる。グラスの氷は冬だけのものじゃないけど、年越し感がすごくよく出てて、ちゃんと冬の句だ! と思った。

C◎【評】年忘れと言うけれども、溶けていく氷と共に、行くことを惜しんでやる。そういう年越しにしたいなあと思いました。

妹◯【評】コタツで紅白かなんか観ながら過ごして、もうすぐカウントダウンが始まりそうなんだけど、卓上の氷だけはまだ『今年』を持ち越したまま『来年』になろうとしてる、という1コマがすんなり浮かんだ。部屋のあったかさとかも。

重◯【評】融けかかった氷は角がとれて水の膜を持っていい光り方をすると思います。その氷を見ながら年を越すなんていいですね。なごり惜しいという常套句もすっと納得いきました。季重なりかもしれませんが、どっちも必要と思います。

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10 舎利となり氷の水へかへる頃 黒黒寝波幽丼雪飼飼=9
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丼◯【評】葬儀が済み、斎場に遺体が運ばれ荼毘にふされる頃、日も高くなり寒かった朝も暖かくなります。悲しみに凍りついた心もやがて溶けていくことでしょう。

幽◯【評】例外的に永久凍土とか根雪とかあるけど、氷が水になる時間のイメージって割と早いですよね。それに対して「舎利となり」なんて大仰なことを言い出してしまったところのギャップが面白かったです。よし、なれ!

雪◯【評】舎利、骨も氷も白く固く冷たい。けれど氷は水へかへり、骨はこれから何かに変わることはない。最後の形へ行き着いてしまった静けさが動かなさが、水へと緩んだ氷と比べることでしんと際立って感じられました。

黒◎【評】地球上の全ての氷が水に還る頃には、人類はみんな骨となってしまっているだろうというスケールの大きな句だと思いました。淡々とした口調が好みで◎。

波◯【評】2と同様、氷が水へと帰る可逆的な性質もまた、氷の題詠で他の句に見られなかった観点ではっとした。ただ、上五が意味としても言葉としても私には少し過剰に思えて、特選にはできませんでした。

飼◎【評】溶けて温くなった水から火葬場の匂いや熱さまで思い出してしまった。氷は水にかへり、舎利になった後は土にかへる。静かな鎮魂の句。

寝◯【評】人は骨になって土に埋れ、氷は水にかえる。地球の営みの一部の私。壮大だ。しかし、声に出して読むと「シャリと鳴り」とも聞こえる。氷を噛んで水になってゆく様子を詠んでいるようでもあり、おもしろかった。

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11 冬が来てソバ屋のコップの氷消え くひ鶴ツ彗じ=6
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く◯【評】夏にはあった氷が冬にはなくなる。「氷がない」ことで冬をあらわしてる句なところがおもしろかった。

ツ◯【評】ああ冬だなとしみじみするシーンにもいろいろあるんだなと。蕎麦屋の常連って憧れます(きっとこの人はこの店で二度目以上の冬なのだ。いいなあ)。

鶴◯【評】コップから想像したのは高級な蕎麦屋じゃなくて、チェーン店とか町の食堂みたいなソバ屋さん。そういう店に通う、一見単調な日々。でも実はそこに、季節の発見とか小さなドラマがある。ソバとコップのカタカナもいい。

ひ◯【評】この時期、ソバ屋ならお茶かそば茶かほうじ茶か、温かいものを出してくれそう…きっと、カレー南蛮か、鍋焼きうどんか、暑いものを、食べてる最中に汗をかく様な食べっぷりだったのではないでしょうか

じ◯【評】水からお茶に変わるんですよね。でも冬にきちんと入った後に変わることが多いんですよね(毎日行かないから)。季節が変わったことに気づくというよりも、もう確実に冬だということが決定された感じです。

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12 人肌の恋し氷を口うつし 剣助=2
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剣◯【評】氷を使ったプレイといえば『ナインハーフ』。エロティックで、(俳句的には分かりませんが)性的に大人の句ですね。温もりを求めているのに氷を使ってしまう倒錯した感じに一票です

助◯【評】タイトルは忘れましたが有名な映画のラブシーンを詠んだ句だと思いました。「人肌の恋し」が氷の修飾語だとしたら、そのパラドックスがとても儚げで好きでした。

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13 氷とは幸せの熱で固まる 蓬=1
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蓬◯【評】氷は冷えて固まるものだし、熱は固めるよりは溶かすものですが、「冷える」とは「熱がよそに移った結果」でもあるので、幸せな状態で外を見たら、こっちに熱が移っちゃったからあの氷は凍ったのね、とも思えるかと思いました。

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14 初氷踏み踏み歩けランドセル ひ茅少麗残残真真妹飼=10
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少◯【評】可愛い、通学路で我先にと氷った水たまりを踏む姿が浮かぶ。

茅◯【評】歩くではなく『歩け』なので、高い位置から小学生をみている。作者はもう氷を踏むような年齢ではない、という寂しさと子供のフレッシュさ、拙さのコントラストが氷の冷たさ、透明感に似合っている。

麗◯【評】子どものころ、確かに、氷の張った道を歩くのは楽しかった。道行くランドセルは、蛇行しながら上下に跳ねたり立ち止まったり。登下校の楽しさが伝わってくる。(大人はこんなに通勤が楽しくありません!)羨ましいぜ!

妹◯【評】『ランドセルが歩いてる』みたいな1年生が、踏み踏み、踏み踏み、下ばっかり見て歩いてるとこ想像して、愛しくなった。氷割って歩くのすっごくたのしいだろうなあ、パリパリいって嬉しいだろうなあ、可愛いなあ、って。

ひ◯【評】口に出して楽しいリズミカルな風情の中に転ばずに行きなさいねって感情がうかがえました

残◎【評】あまり雪が降らない東京辺りの子どもは、霜柱が立っただけで一番にそれを踏むことに命をかけてる。氷も我先に割りたいんだよ。誰かが既に割ってるだけで凹むんだよ。その気持ちを思い出させてくれたので特選にしました。

飼◯【評】重ねた言葉のリズムが楽しい。大きなランドセルを背負った子ども達が元気よく氷を割っていく。靴が汚れても気にしない。大人になると人が見ていないところでしかできないんだよ。

真◎【評】体に合わない大きいランドセルを背負った小学生が、下ばかりを向いて懸命に氷を踏む。それを見守る作者を想像し、微笑ましく感じました。踏み踏みという繰り返しが楽しいです

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15 プレゼント氷の微笑でアリガトウ 剣少二栗数=5
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少◯【評】怖い…と同時にコミカルさも? ひきつり笑いは何故だろう?プレゼントの内容?それとも…?

剣◯【評】氷のお題で『氷の微笑』は私もやりたかった。シャロン・ストーンに渾身のプレゼントをあげたのに、足を組み替えつつ冷たく『アリガトウ』と返されたと思うとゾクッとします

栗◯【評】くそつまらないもんよこしやがって、と思っても、大人だからとりあえず微笑を浮かべてみる、というバブル時代のクリスマスの情景がくっきりと浮かぶな(アテクシはそんな経験ないけどね)。

二◯【評】上の句と下の句のカタカナを交互に読んで行くと、プアレリゼガントトウ、になる。それが気になって面白かった。

数◯【評】アリガトウがカタカナってところが、氷の微笑を強調させてていいです。笑顔も硬いけど、言葉も硬い。絶対喜んでないんだな

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16 色悪や良い氷とか言いにけり 酒二蓬凡凡朝真=7
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朝◯【評】や、けり、に、『色悪』『とか』がまざり、それが、色悪に氷を持ち出すぎこちなさとなんとか感がマッチしていた

凡◎【評】切れ字が二個の「お行儀悪い」俳句だが「色悪」に似合ってる気がする(色悪を辞書的にしか知らないが)。水割りの氷くらいで蘊蓄いう人もだが、それをからかう心持ちのこの人ももちろん酔ってる。

蓬◯【評】「や」と「けり」を一度に使ってはいけません、のはずですが、文語に「とか」を混ぜてる時点で覚悟の上かなと。氷はグラスの中の丸いのでしょうか。色悪にちょっと好感持っちゃって、乱れた語法で強がってる気もします。

酒◯【評】ニシノユキヒコが氷の話をしていたかはわからないが、のような人に伊右衛門を見た。あ、色悪ってこういうことを言うんじゃん?という現代人による昔言葉の発見の面白さ(『とか』)。であるなら切れ字の重複が余計惜しい。口語の方が良いか。

二◯【評】色悪がどう読むかどういう意味か分からなかったが、良い氷とか言われたら歌にしたいな、と思った。

真◯【評】子ども達があちこちから氷を取ってきて比べている様子を浮かべて微笑ましく思っておりました…また辞書をひき色悪を悪い人とよみ、ちょっと意地悪な子が色の悪い氷を良い氷とか言い張る様子を想像

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17 外灯や氷踏むときだけ黙る
 くるる科芽剣剣黒鯖鯖子酒寝寝森地鶴鶴藤二波白幽幽朧ツ黄残雪朝大妹裏=33
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く◯【評】携帯で電話しながら歩いていたのかな。「あ、ちょっと待ってて」って言って、無言で氷を踏む。外灯の白い光も寒そう。(「なんだったの?」「えー、ちょっとね」とかっていうその後の会話も想像してしまった)

朝◯【評】張られた氷への特別な気持ち、憧れの年長者へ向かうような、緊張感や、畏れるような思慕するような気持ちを感じた

子◯【評】並んで歩く夜道。外灯によって光った氷に気づく。踏もうとして一瞬動きを止めるその緊張感が相手にも伝わりふいに黙る。その瞬間の切り取り方が良かった。

地◯【評】おしゃべりしながら歩いている時に氷を見つけて、踏む時に静かになる。その後、顔を見合わせて笑ってる。楽しそう。次の氷を探しているかも。

ツ◯【評】喋ってる時は緩んでいて、黙ってる時は高まって、という会話と緊張感の交代の仕方、切り替わるポイント(×氷の上を歩き慣れてない人数分)がまた楽しい冬の夜だなーと思い返しました。

森◯【評】凍てつく寒さの夜。澄んだ空気と無音に限りなく近い静寂の中でパリンという音が静かに響いて沁みる。外灯の光の色はオレンジでもいいけどできれば青白い方で。僕はひとりの句って読んだな、頭の中の沈黙をより研ぎ澄ます感じ

幽◎【評】会話をしている二人が氷を踏むときにそれに集中する。それをスポットライトたる外灯が照らす。時系列的にも空間的にも切り取られているのが巧いですね。句の後にほんとうに沈黙が「見える」気がします

科◯【評】外灯が黙る、と読み(読んでしまい)ました。外灯の唸る音は継続している。氷を踏む音は一瞬。二種類の時間を表現している。そして氷を踏む音により外灯の音がかき消されることで、光だけが残る。外灯の光を反射した氷の輝き

妹◯【評】確かに、氷は音を聞きたくて踏むんだ!って気付いて、すごい!と思った。靴底に残る感触もたのしいけど、やっぱりパリッていう音が聞きたい。おしゃべりの相槌は打ちながらも、踏む瞬間だけは足元に意識がいってるんだなあ。

雪◯【評】夜道を歩く二人。道に幾つも氷が張っていて、いちいち踏んで割るのは一人だけ。でも、あ、割るな、ってタイミングで二人ともが黙る。割らない方も、割ってほしいのだ。二人で氷の割れる音を聴く。街灯がそれを照らしている。

る◎【評】暗くなった道で話題が尽きない。で時々変なタイミングで沈黙が混じる。そのせいで、会話のリズムが少しぎくしゃくする。その犯人を「発見」した時の静かな断言がいい。「外灯」も二人?にスポットライトを当てて効いている。

鶴◎【評】私も山科さんと同じく、黙るのは外灯と解釈しました。外灯のかすかなかすかな音を、さえぎるただ一つのものが氷を踏む音。きっと真夜中。どこともだれともつながっていないような、とほうもない時間を想って特選にしました。

鯖◎【評】寒いって実は騒々しいものだ。口には出さなくとも頭と喉と体には『ゔゔゔ寒い寒い寒いfっhdっfg』等と震え・言葉・音が満ち続ける。それが止む。体思考言葉の振動が止まる一瞬の静寂。

剣◎【評】熟達を感じました。付き合って間もない、会話が楽しくて仕方ない時期のカップルの自宅への帰り道でしょうか。氷にわざと滑って一緒に倒れ込む等の展開もありそうな微笑ましい二人です

黄◯【評】若いカップル。足元に外灯の当らない処で“バリっ”か“ツル〜っ”か女性の足は氷上に。会話は途切れ一人遅れる足どり。最初は驚きでの沈黙。その後道中恐る恐る。照れ。恥ずかしさ。初々しさを感じます。冬なのに青い春。

藤◯【評】暗黙の了解で氷踏んで歩く二人連れの大人。話題に上っているのは氷のことではないけれど、やっぱり暗黙の了解でいちいち氷のきしむ音を聞いてる。何十年も経ってから思い出すのは多分こういう数分のこと

黒◯【評】昔の外灯ってブーンジジジという音をたててましたよね。冬の静かな夜、聞くともなしに外灯の音を聞いていて、氷を踏む時だけ意識が足元に移る感じがよく分かる句だと思いました。

波◯【評】「氷踏むときだけ黙る」は文句なしに、黙らされた!確かに人は氷を踏むとき、ふっと息を詰めるように思う。それは些細なことだが、危険や遊びや破壊的な衝動などが入り混じった行為なのだろう。外灯やの必然性があまり感じられず、これも並選にした

裏◯【評】黙るのは氷を踏むときだけ。氷を踏むぞと身構えられるのは明るい外灯の下だけ。スポットライトが当たったようにその空間だけが儀式めいていて面白いです。

残◯【評】パンプスで氷の上を歩くというのは本当に気合がいる。滑らないように、滑ったとしても頭打たないように。その真剣さに外灯すらも息を飲む。そうそう!と膝を打った句でした。

芽◯【評】談笑しながら歩いていて、外灯でふと氷に気づくその瞬間を切り取った感じが好きです。

朧◯【評】おしゃべりは楽しいが、「ぱりん」といい音に耳をすますときだけは黙るんだな大人も子供も。1年のうちの、今しか聞けない音を聞きたい

幽◯【評】昨日の空気をそれ単体として切り出そうとすると、氷が「額縁」のような機能を持つことに気づかされました。空気が主で、氷がいれもの。しかもこの額縁、噛んで破壊しないといけない

酒◯【評】そうか氷は音なのだなと一番意識させられた。帰路の他愛ない今日の総括(あのマリネ美味かったよねーとかそういう)に挟まる秒単位の静寂という暗黙のルール。とてもカップルぽい。ただ後半の方が強いのに切れで外灯の句になってしまう点は疑問

白◯【評】外灯がジジーって鳴っているんだけど、わたしが氷踏むなって感じると静かになって、パリッって音が響く。深夜のアンサンブル。

二◯【評】当確間違いなし、の句だと思ったが、「ときだけ黙る」の音韻は川柳だし、外灯やの音の並びにはちょっとすんなりしないなかんじで、ごめん、あえて辛く「並」にした。

大◯【評】管が切れかけなのか、蛍光灯の街灯がちらつく夜、水溜りの氷を踏んでみた。ひびに目を奪われ景色が見えなくなる。一瞬の恍惚。

寝◎【評】なにか真剣に話しながら歩いている二人連れ。街灯の下に見える氷のことには触れないが、そこを通る時は一瞬会話が止まり、相手が氷を踏む音を確かめる。踏まなかった方の句。一番はっきりとイメージが浮かんだ。

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18 氷上でホバリングする第一歩 朧妹=2
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妹◯【評】凍結したアスファルトの上を歩くときの(すごく慎重に踏み出したのに)摩擦が得られなくて身体が一瞬ふわっとなる、あの感じを思い出してゾワッとなった。そうか、あれはホバリングだったんだ。二歩目で転びませんように。

朧◯【評】第一歩と言ってるのにホバリング(空中停止)とはこれいかに。動と静が妙な印象。運動音痴の人のスケート始めたばかりってこんな感じかな、と思いました

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19 舌先に氷ぶらさげ子が笑う 炭鶴丼丼光夕=6
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丼◎【評】学校への通学路、道に面した家の軒先から下がった氷柱を折り取って口から下げて自慢気にしている男の子の姿が目に浮かびました。「んなもん食うと腹壊すで!」とか大人に怒られたり。堪らなく微笑ましかったのです。

夕◯【評】冬でも冷たいものを飲みたがる子供がコップに入れた氷を舌にくっつけて遊んでいる。親に怒られつつも「みてみてー」っていいながら。呆れつつもしあわせな楽しい日常。

鶴◯【評】子どもの遊びって、はじめは同じようなことをしていても、そのうち独自に開発され発展してよくわかんないところまで行きますよね。その発展途上の一部分に遭遇してしまった喜びがある句だなと思いました。

炭◯【評】こどもが舌に氷ぶら下げて、兄妹か親に舌足らずな言葉(氷がくっついているから)でふざけてる。親に真っ先に怒られそう。光景を写真に撮ったら画になりそう。

光◯【評】ファミレスかパーラー。大人たちは暖かい飲み物なのに、ひとり冷たいジュースを平気でごくごく。とどめに氷を舌で弄んで見せる無邪気さと少し生意気な得意顔。子供の「体温の高さ」という決定的な差を見た感じもした。

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20 反論を言いたくなくて氷噛む Cる甘剣炭炭地鶴波蓬光光珍里里真裏=17
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C◯【評】反論するぜ!と手袋をはずす時もあれば、言いたくなくて氷を噛むときもある。どちらも自分の中にもある。

地◯【評】わたしが黙っていた方が丸く治まるんでしょう!という怒りと、早く終わらせたい抗議の氷ガジガジ。わかる。

る◯【評】喫茶店?で冷たいものを飲みながら会話している、まだ付き合い始めたばかりのカップルとかどうだろう。相手の言ったことに反論しそうになるも、まだそれほどお互いを信じきってない。氷を噛む変な間を捉えている。

鶴◯【評】ファーストフード店とかファミレスで、氷をちょっとずつ食べながら我慢してる人が浮かびました。その氷なくなったらどうなるのかな。決壊して反論してしまうかなあ…。

炭◎【評】反論を言いたくても言えないなら唇を噛む。でも言いたくも無いときは?コップに入った氷水の氷を噛みじっと耐え、その場をやり過ごそうとしている居心地の悪い状況が思い浮かびました。

剣◯【評】氷噛んでいるのは女性だと勝手に想像しました。惚れたダメ男のいつもの繰りごとに言い返したい心をぐっと抑えてガリガリバリバリ、こういう女性に色気を感じます

甘◯【評】これ以上なにか余計なことを言ってこの状況を続けたくないから。噛んだ氷の冷たさで自分の中のイラッと熱くなった所も冷やしたい。って大人の対応が出来るようになりたい。確実に反論します、はい・・・

光◎【評】反論があるが、それを口にすること自体が負けである、と「思い込んでいる」。それへのささやかな抵抗。寧ろわざわざグラスの氷を口に含んでごりごり、くらいの「負けず嫌いさ」を感じてにやっとした。

波◯【評】反論をぐっと飲み込もうとしても、飲み物はあらかた飲んでしまってあとは氷ばかりなり、飲み込めず噛みついている様子、というのはとてもイイ。こういう女、イイ。のだが、これは俳句だろうか、と悩む気持ちがもたげたりもした。

裏◯【評】先の句会の『反論のありて手袋はづしけり』を踏まえたものでしょうか。反論を胸にしまいっぱなしじゃなく、氷がりりアピールをする本人は、なんだかんだ対話相手と同じくらい頑固なのかも。

珍◯【評】なんか妙な間が生じてグラスの氷を口に含むことってあるよねえ。ってこれも「あるある」か僕。反論を呑んでいるのは女性で、だから「噛み砕く」んじゃなくて「噛む」。ぐっと。相手に心の裡を読まれないように。

里◎【評】理不尽な相手との勝てない口喧嘩。黙ることでの抵抗。くやしさをこめて氷を噛む。その冷たさで冷静になろうとしている。熱と冷たさの両方が感じられる。自分は理不尽に勝ってしまう方なので…、自戒も込めて特選。

蓬◯【評】一句の半分が「言いたくなくて」に費やされてるのが、そのまま反論しようかするまいかの逡巡を表してるようです。

真◯【評】「本当は色々言いたいことがある。でも言えない悔しさ、声にならない色々な言葉を氷の一噛みに込める様子、また氷の冷たさによって熱を覚まそうとする気持ちを想像し共感するような心持ちに

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21 液晶の向こうの氷をガラス越し 寝裏=2
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裏◯【評】液晶もガラスも氷も、透け透けだけどなんにもこちらに伝わらなそうな突き放した感じがする。ベランダから部屋のテレビを見る本人もどことも繋がってないような夜の孤独な(でもさみしくない)感じは嫌いじゃないです。

寝◯【評】液晶とガラスと、入れ子になった景色。その中の氷も透明。何となく胸がゾワゾワする句。氷の中には何が見えたのだろう。

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22 手のひらにいのち閉じこめ氷面鏡 芽黄黄=3
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黄◎【評】手のひらにいのち閉じこめ氷面鏡「音読みして読み間違えた“ひもかがみ”を読めた時、大景が。一面真っ白に凍った湖。そこでの魚釣。氷点に近い水中を泳いでいた魚は地上でぶ厚い手袋に包まれて凍て果てる。小さく儚い命と大きな景色。いただきました

芽◯【評】ひもかがみで調べた時に、手の平の氷片に自分とその後ろの背景(空や木かなぁ?)を見た時に広がるすべての命がいとおしいような切ない気持がうわっと思い浮かびました。

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23 初氷百人乗っても大丈夫 甘森爽爽藤藤麗朧朧栗里妹妹=13
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森◯【評】ぜったい大丈夫じゃないでしょ?という面白さ。つっこみや解釈欲を喚起する句が好き

妹◎【評】あのCMの100人が、くちを揃えて『だいじょーぶ!』って言ってる顔が浮かんで、声出して笑いそうになった。100人乗っても大丈夫なほど分厚い氷が、毎冬、身近に、当たり前に存在するひとの詠んだ句だったらすごいなあ。

麗◯【評】まず笑ってしまった。イ○バ物置の尋常じゃないCMを共通認識として、友人と氷上でふざけてるのが、とにかく楽しいお年頃。冬も元気!という感じ。このくだらなさ、(←褒め言葉です)、元気さがいい!

爽◎【評】どちらにも乗ったことがないのに、あっちのことを百人乗っても大丈夫なんだろうと漠然と信じていた自分がひっくりかえされました。どっちも乗ってみないとわからないな。というか、ぶはっと笑ってしまったので素直に

甘◯【評】いやいや大丈夫じゃないでしょう!危ないよ!ってツッコミを入れたい。そのドキドキさせてくれた所が選につながりました。

藤◎【評】大丈夫なわけないから!そんな氷、一人乗っても割れちゃうから!でも初氷を発見した喜びは百人分。あまりにもかわいい。あるいは、大丈夫じゃないとわかってるものに対して大丈夫であってほしい切実な心持ち。あまりにも切ない。

里◯【評】有名なCMのもじりだが、薄い初氷、「そりゃ無理だろう!」というありえなさに爆笑。なのに堂々と言い張っているあまりの可笑しさに、「むしろ100人乗って欲しい」とまで思ってしまいました。

朧◎【評】初氷に喜びつつそっと乗ってみる。乗ってみても意外と割れない。安心してから心に浮かんだのは某イナバ物置の名コピーであった。私が思いたかった

栗◯【評】物置か筆箱くらい丈夫な氷、都会じゃ無理でも、山奥の池ならあり得るんじゃないかしら。笑いとともに、そんな子供心の夢を刺激されました。

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24 長嶋を氷づけにせよ監視員 黒彗=2
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黒◯【評】命令口調が面白くて。監視員に命令してるこの人は一体何者?長嶋なる人物は何をやっちゃったの?というのがサスペンス映画の導入部みたい(氷づけを免れた「長嶋」はこの後八面六臂の大活躍をするに違いない)。

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25 アンペアを超した夜窓に氷柱立つ 茅少黄里じ=5
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少◯【評】寒い夜、夕食の準備中か。エアコンや炊飯器、レンジの同時稼働での負荷。一瞬真っ暗になるも、外の明かりから照らされるツララの輝き。

茅◯【評】ブレーカーが落ちた直後にいきなり静かになる。がっかりしてさらに氷柱かー、そりゃ寒いはずだと。寒さに納得すると同時に少しうれしいかんじ。暗さと光る氷柱の取り合わせもきれい。

黄◯【評】冬は暖かいもの食べたいですよね。レンジとオーブンを同時に使ったりして…ブレーカーが落ちた部屋は真っ暗。暗い部屋だから気がつきました。月光(街灯)に照らされた窓の外の氷柱を。カーテンも閉め忘れてたことも。

里◯【評】旧式暖房のヒューズが飛んじゃって、その換えもない夜、電気がないとつららできるほど寒いのかしら。ツララを見ない地域で育ったので、体験したことない寒さというものへの憧れも少しありつつ。

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26 氷上のクレパスはまるペンギンくん 重少少栗=4
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少◎【評】見たことが有る!経験値に訴えかけるビジュアルに笑ってしまいました。モニターの向こうの景色。

重◯【評】なぜクレパス? と初め思ったが、クレパスの〈つや〉ってペンギン(イラスト)と似ているなあと納得。相性いい。クレヨンの厚ぼったい塗り色に比べてクレパスの〈塗れなさ〉は、氷の大地に適しているとすら思えます!

栗◯【評】ペンギンくんのよたってる姿が冬の情景として、とてもすんなりきたので。映像的な句。 クレバス、が正確なんだろうけど、日本語ってそういうところあるしね。ジャクージよりジャグジーが言いやすいみたいな。

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27 髪氷る肩こり少しきつくなり 芽甘黒子藤栗光飼=8
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子◯【評】せっかく暖かくなった風呂上がりでも、長い髪をそのままにしていると首筋から冷える。暖まって凝りがとれたかと思ったのにまた。それほど部屋が寒い。分かる!と思って○。

甘◯【評】濡れ髪のまま出掛けるのには辛くなる時期、寒さで身体が縮こまっていつもより肩がこってくる。まさに普段ドライヤーを使うか否かで冬の到来を感じている私にはとても身近に感じた句。詠んだ方も選んだ方も肩こり仲間だ!

藤◯【評】風呂上がり、髪を乾かす気力もなくて1時間くらいぼーっと座りつくしている無常観。肩凝りだけがなんとなく現実とのきずな。

黒◯【評】慌ただしく動いてる時には忘れてるけど、ふと立ち止まった時に肩こりに気付かされる。寒いとなおさらに。氷のちょっとした重さが肩こりとつながるのは、同じ肩こり持ちとして共感できます。

光◯【評】髪氷る、の容赦ない寒さと、思わずぎゅっと肩を縮めてしまう反射。あー、そうそう!寒いと肩凝るよねー!と思わず共感した。

芽◯【評】夜も遅くの湯屋から背中を丸めながら急いで帰る、ほんのちょっと侘しい感じが…何故か色っぽいと言うか艶っぽく思えたのです。

飼◯【評】皆さん仰る様、肩こり持ちとして大共感の句です。肩こり持ちに首回りの冷えは大敵。しかし髪が氷るほどの寒さとは…北国住まい?それとも冷凍食品の在庫管理をしている人?まだ名も知らぬ肩こりさんが気になります。

栗◯【評】年末の忙しさで切りに行けなくて、伸びっぱなしになった髪の毛。風呂上がりに凍るように冷たくなって重くなって、肩も凝る。すごく実感がこもっている。「神田川」的でもある。

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28 氷上を滑る朝日と子等の声 C助助ツ黄里=6
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C◯【評】早朝。氷の上を長く伸びた光。元気にすべる子供達。ほっぺも赤い。

ツ◯【評】光景の澄み切った印象と、静かな中に聞こえる子供の声、言葉自体のすべりの美しさがなんだか冬のいい朝そのものでした。いつもの朝をこんな風に見守っている人もいるのだ、と思うと無性に心強いです

黄◯【評】“氷上を滑る朝日”が何とも良いですね。光が“キーン”と反射しているのではなく“ズサーっ”と拡がる、朝日が登りゆく感じがして。“と”ではなく“や”で切れが入った方が…とも思ったが…さておき冬の朝の情景。好きです

里◯【評】湖一面に張った氷に、朝日の反射光がだんだんとこちらへ近づいてくる。そして氷上で遊ぶ早起きの子供達の声。暖かく清々しい情景と、朝日と声、形のないものが滑るという表現に、幻想的な印象を持ちました。

助◎【評】「子等」という表現がとても好きでした。朝の時間の経過の体感的早さが「滑る」でよく表されている。

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29 円筒の穴の予定地張る氷 く科崖鯖朧朝大裏=8
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く◯【評】まだ穴は掘ってないけど、軽くへこんでるから水がたまる。「穴の予定地」っていう言い回しがなんか好き。ここに掘ろうとしてちょっとえぐっといたのか、既にちょっとえぐれてるからここでいいやってなったのか(後者がいいな)

朝◯【評】『円筒の穴』が、どういった用途のためにつくられたのかはわからなかったが、なんとなく『これから』と『今』のリンクされた感慨を得た

科◯【評】地面を少し削った円い穴。工事をする予定地なのだ。だが主人公は工事(世間の関心事)より、そこに張った氷を見ている。まるで氷の張った状態が穴の完成形であるかのごとく。そんな普通と違う価値観(美意識)を見せてくれる句

鯖◯【評】丸く掘削された跡に貯まった水。何かが建つという『意味』しか持たなかった事象がその冷える朝『形』を伴ったイメージとして心に納まる。それは氷が溶け工事の進むとともにまた霧散するだろう。だから俳句にする甲斐がある。

朧◯【評】円筒の穴には何が建つんだろう、というわくわくとそこに氷まで張ってる!というわくわく(流れるスケートリンクにしたい)でテンションあがりました

裏◯【評】穴があいていたところが埋まる、白くなる。ミニマムだけど劇的な変化。たまたま先日、地面に刺さったパイプの断面に芝が緑だったのを面白く見ていたので、作者の視点に親しみを感じて嬉しくなり選びました。

大◯【評】『予定地』に空いた穴は一体何の為の穴だろうか?人工的に開けられた円筒形の穴。予定を待つ地の穴にも水は入り込み凍り付く。無常観を感じた。

崖◯【評】写生句として、出来ていると思う(いやーん「出来てる」とか一度言ってみたかっただけです。ごめんなさい)。

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30 氷踏む子のまわりには白けむり る芽芽子子真=6
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子◎【評】朝で気温の上がり切る前。張った氷で遊ぶ子供の様と、気温差での白けむりに加え、子供の体温の高さまで感じられ、よりきりりとした朝の感じがした。

る◯【評】「氷」と「白」のイメージの重なりで、本格的な雪景色であることを示している。はしゃぐ子どもの周りにもうもうと白いものが立っている。この季題だと静かな句が多くなりそうなところで、動きのある景が鮮やか。

芽◎【評】ものすごく寒い中(多分朝)に一生懸命氷を踏んで、その吐く息で子供自体が見えなくなる程の力強い動きを感じました。逆光の中にいる感じ。

真◯【評】白い息を吐きながら色とりどりの服を着た子どもたちが固まり、懸命に氷を踏む様子を想像。冬の寒さ白さに浮かぶ暖かさにほっこりしました

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31 金魚ごと氷る火鉢に手をかざし 茅寝森森爽二白珍夕=9
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森◎【評】まず「氷る火鉢に」お?っと惹きつけられた。氷る/火鉢の部分で分けてもいいけど、却って凍ってる金魚と炎の燃えるような赤の相似、氷る鉢に暖をとろうと手をかざす様子にぞっとする美しさを感じた。

茅◯【評】暖房器具の金魚柄を『凍る』って言ってしまうロマンチックさがうらやましい。

夕◯【評】気温が下がってきて動きの悪くなった金魚。不憫に思いつつ自分も寒く、よいしょと金魚蜂を持ち出し抱えたまま一緒に仲良く火鉢に当たる。冷たい金魚蜂と温かな火鉢の対比でその温度差を肌で感じる様で好きです。小さい友愛。

爽◯【評】「金魚」と「氷る」と「火鉢」なので迷ったのですが、印象の強さに

珍◯【評】表面に氷が張っているだけで、中の金魚は元気です。008の鯉と同じで。その金魚をちろちろ揺れる炎と見立て、手をかざす行為は洒落っ気があっていいですね。三重の季語はどうなんだろうなあ。わからないまま選句。

白◯【評】氷の蓋の下で、ちろちろ動いて見える金魚が炎みたい。この火鉢は夏も目を楽しませてくれてたんだろうな。

二◯【評】最後の「し」が「す」じゃないのがいい。金魚は死んで拝んでいるかもしれない。

寝◯【評】使わなくなった火鉢で金魚を飼っている。極寒の朝、火鉢だった頃の事を思い出し、氷のはった鉢に手をかざしてみる。

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32 初氷よちよち転ぶこぶし締め 丼残=2
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丼◯【評】歩けるようになって外へ出るのが好きな幼児。恐れずよちよち歩く。でも氷に乗ってステンと転ぶ。泣きながら手を握りしめている。それを見ている親の心配しながらも逞しく育ってね、という心が伝わってきた。

残◯【評】よちよち歩きの自分の子どもを氷の上に置かないが、他所ん家で「我が子の成長記録を見て」とビデオでその様子を見せられてる分には微笑ましく可愛い。ただただ可愛い。その可愛さにやられ選句しました。

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33 朝くもる窓にふれ言う「はつ氷」 真=1
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真◯【評】窓にうっすらはる冷たい氷とそれを内側から触れる暖かい指。寒い外と暖かい部屋。ひらがなの「はつ」の「は」で息の温かさ、「つ」で冷たさを。色々な対比を想像し綺麗に思いました

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34 月氷る夜をながめつ窓辺でくるまり 炭光=2
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炭◯【評】丁度皆既月食があった先週の夜が思い浮かびました。その時は慌ただしくちょっとしか見られなかったので、この句のようにじっくりと鑑賞したかったものです。

光◯【評】窓の中、という安全圏と、「くるまり」はひとりじゃなくてふたりなんだろうなー、ココアとか両手で包んでふーふーしながら月を見上げてるんだろうなー、という少女漫画的に言えば萩岩睦美な情緒を感じた。

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35 初氷ぱりりと踏みて朝帰り Cひ芽崖子酒重助少地白麗麗夕里彗じじ真飼数=21
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子◯【評】楽しかった思いを持ち帰って、見つけた路面の氷をつぎつぎ踏んで歩く。まるでスキップしてるかのようで楽しそうなのが良かった。

少◯【評】14と対になってるようなイメージ。こちらはグッと大人か?学生ぐらいの若気の至り?それでも、氷はつい踏んでしまう。その後は布団に潜りこむだけだろうか?

地◯【評】昨日の夜はずいぶん楽しかったんだね。若い人かもしれないけど、少し大人が昨日の余韻を残して子供っぽい行為をしてみたようでかわいらしい。

C◯【評】氷を踏み割るときの小さな思い切りと開き直り。えーい。

麗◎【評】恋人と過ごした夜の室内の温かさと外の寒さ。感情と身体を交感した(特別な)朝の、特別でない平穏な日常にいる自分。小さな一歩の「ぱりり」が、世界を小さく壊し、新しい自分を響かせる。

夕◯【評】楽しかった余韻ややっちまった感なりを抱えた朝帰り。お酒の力も手伝って火照った昨夜と違い早朝の今は凍える寒さ。ふと見つけた薄氷。「あ、氷。」と思わず踏むその一瞬、ぱりりと小気味良い感覚に昨夜の事はすっかり忘れる。

重◯【評】ぱりりの音が清々しいです。僕も聞いたことがある音だったので親しみを持って選びました(そうそう〈ぱりり〉だよね、と)。

ひ◯【評】朝帰りのやましさが感じられず、とても楽しい夜を過ごしたのかなと思いつつも、静かに帰宅すべきところを、つい踏んでしまった氷が音をたてて割れてしまった瞬間だったのかも

じ◎【評】朝帰りは彼氏の家からでしょうか。先程までの布団の温度と氷の溶けぬ内の朝の寒さとのギャップや、ぱりりという音からの軽快さが気持ちの高揚に見えて楽しめました。初お泊りかなと。そりゃ踏むでしょう、えいやと。

里◯【評】「ぱりり」がひそかな音っぽく、申し訳なさげにそーぉっと帰ってきている様子が良い。忘年会で朝帰りしたお父さん?ほほえましい光景だなと思いました。

芽◯【評】夜通し楽しいことがあって、それを思い出しながらワクワクニコニコの中で氷をわざと踏んで歩く姿が浮かんできました。

酒◯【評】地さん評のように大人ととった方が粋だが、上中の語彙がどれも象徴的すぎて処女喪失句と思わざるを得ない。ドリカムを内包している(と勝手に断定)が、吉田美和と違ってこの人は照れずに胸を張る。『ぱりり』が力強く爽やか。

飼◯【評】火照った体の余韻が残っている中ぱりり。冷たい空気の中白い息を吐きながらぱりり。頭の中はさっきまで一緒に居た恋人から、すでに仕事に切り替わったぱりり。ぱりりという語感が句中の人物の印象につながっていく。

白◯【評】忘年会のシーズンなのか、ちょっとはめをはずして朝帰り。あ、氷、と見つけたら、ついつい足がのびてしまった。帰路まで続く楽しい余韻。

真◯【評】とても楽しかった昨日の夜を振り返り嬉しそうな女性を想像。目の前にはった氷を発見し、ステップを踏むようにぱりり。ひらがなのぱりりにも可愛さと優しさを感じました

崖◯【評】軽妙ですね。狙っていた男を落とした女の「してやったり」な表情を「ぱりり」に俺は発見した。ああ、発見したんだ。あ、そうそう、句は座に出したら作者の手は離れ解釈は自由になります。他意ないです。

数◯【評】どういう朝帰りかによって、ぱりりと踏む事の印象が変わりますね。お父さんが酔って朝帰りだと、おっかなびっくりな足どりでぱりりと。乙女が好きな人と過ごしての朝帰りなら、軽快な足どりぱりりと

助◯【評】「ぱりり」という擬音語が、朝帰りの嬉し恥ずかしのテンションと見事にマッチしていて、とても上手だと思いました。甘ったるいだけでなく凛とした空気が句に漂っていたのも良かったです。

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36 くすりゆびやがて氷の張る池に 爽藤凡幽=4
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幽◯【評】これは謎めいていますね。くすりゆびだけが切り離され池に沈められる、と取りました。さらに「やがて」のもつ、逃げようもない定められた運命が不安をかきたてて面白かったです。

爽◯【評】まだどれで想像していいのか定着していないのですが、「くすりゆび」と「池」のつながりをどうにか解釈しようとしている自分がいて、それは「言葉」ができることだなと

藤◯【評】これはマリッジブルーの句。変転してきた今までの自分と自分の人生が終わって、これから自分のものだけじゃなくなる人生がまるで不変の氷みたいに感じられてセンチメンタル

凡◯【評】本当は「やがて」じゃなくて今もう張りつつあるんだろう。指は五本とも差し伸べただろう。でも触れたのは薬指だけだった。……「本当は」ってのも変で、全て作者の想像だろう、とも思うのに魅了される細工の格好よさ。

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37 お尻の下氷の足をいれていい? 科剣鯖蓬麗栗雪雪裏=9
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科◯【評】「お尻」「いい?」という口調から主人公と相手の親しさが分かる。「氷の足」という冗談めかした言い方もその親しさと響き合っている(わざわざ「いい?」と確認するのも面白い)。氷という語を使っているのに温かみがある

雪◎【評】親しくて可愛くて一等好き。外から帰ったのか冷たい板の間にいたのか、つま先を芯まで冷やして、暖かい部屋に入れば家人が炬燵に温もっている。そのお尻の暖かそうなこと。この句には「家」があってきゅんとします。

麗◯【評】いいわけはない!だろうが、可愛く恋人(子ども)に言われたらまんざらでもない人もいそう。甘えた調子に仲のよさが見え、ほんのりあたたかい。本当に、本当に足は氷のようになる。お尻の下に入れさせてくれる人は貴重。

鯖◯【評】やだよ。あっ!やめろよ!こん…のや…もう!..ほれ!…わ!……ん……うん…ん………

剣◯【評】可愛らしい。半年以上付き合って身体的一体感が醸し出されてきたカップルでしょうか。尋ねているのは女性だと思いたいです。ともかく『お尻』の語が出て来た時点で票を投じざるをえませんでした

蓬◯【評】寒い外から帰ってきたら同居者が寝てた、みたいな。リア充め、とやっかむ句でありつつも心なごみました。

裏◯【評】金麦のCMみたいなイラっと感(すいません…)もあるけど、氷の句なのに暖かさだけを感じるのが不思議で面白いなあと思いました。

栗◯【評】子供の頃、足が氷のように冷たいとよく母に言われていたのを思い出した。こたつで気を抜いている家族のお尻の脇から、足を突っ込んでみたいね。こたつないけど。ユーモアと同時に郷愁があるな。

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38 仏人のひそむる息や初氷 酒幽残=3
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幽◯【評】仏人ってフランス人なんでしょうけど、仏って文字があるので、フランス人観光客と、それが見つめている仏像が、共に息を呑んで見つめ合っている情景が浮かびました。外には初氷の張った池が緊張感を演出しているようです

残◯【評】仏人とはフランス人か亡くなった人なのか。しかしフランス人だと結論づけた。何故ならピエール(仮名)の息を感じてしまったから。あとは妄想妄想で止まらなくなり、こんなに妄想した句はこれだけだったので選句しました…

酒◯【評】最初『でもフランスも寒いしな』と思っていたが、寒さに息をひそめたのでなくてもよいと考えたら良句に見えてきた。幽さん評も素敵だが、僕は日常的にフランス人が近くにいる人の詠んだ句に思えた(下宿している留学生を観察しているとか)。

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39 窓氷りハンドル擦りて帰れない
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40 うしろ襟に氷すべらせ笑いをり 凡麗=2
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麗◯【評】悪友(腐れ縁)にされた悪戯。驚き、立腹し、怒ろうとして相手を見ると、いけすかない顔でニヤニヤしている。された自分もマヌケだと弛緩するくらいのにやけ顔。悪戯をされる不幸と、心許せる友がいることの幸福表裏一体。

凡◯【評】「いちゃつき」系(あるのか、そんな系)とも取れるけど、笑いをりの「をり(切れ字)」で、甘ったるさが俯瞰されてる。

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41 友の背にこっそり氷を放り込む ひひ崖=3
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ひ◎【評】子供の頃、通学の途中、凍りついた水溜まりの薄氷をすりガラスの様に覗き込んだり、踏んづけて銃弾の痕に見たてて遊んだりした。主に大きな声を上げ、ふざけあったり…こっそり背中に入れる親密さが、とても魅力的だった

崖◯【評】この句の面白さを成立させるために、私はストーリーを考える。女性の句とした。そして、この女性は、この友を、恋人にしたいのではないか? 結構慣れてるんでは? とヴィットゲンシュタイン。

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42 氷用絵の具ってなに透けてるの 蓬蓬雪朝=4
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朝◯【評】氷用絵の具というのを私も初めて知って、その不思議さに、そして、絵の具の種類にやはり思いを馳せた。透明か不透明かどうかは重要だなあと

雪◯【評】新しく興味深いものを知ったときの色めき立った感じが面白かったです。なんでか詰問口調になって、詳しく知らずにはいられない。すぐに分からなかったら想像(妄想)が始まっちゃう、その寸前。え、で、透けてるの?

蓬◎【評】「なに?透けてるの?」と会話っぽい表記にしても通る句ですが、そうしないリズムの速さが私は好きで特選です。あと「?」をつけないことで、リズムは速いのに「なに」で一度切れる感じがするのもいいです。

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43 かえりみちまたぐか氷歩道橋 波凡彗じ大=5
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凡◯【評】心に浮かんだ順番のままに言葉を並べた、拙さと引き換えの臨場感。「またぐか氷」の倒置が、はった氷の大きさを伝える(……またぐものか、の意じゃないよな?またごうかな、だよね)。

波◯【評】「またぐ」、「歩道橋」とぐっと地面から視点を上に引き上げられるような感覚と、リズム感の良さが気持ちの良い句。前半がひらがなで、後半が漢字でそのバランスはちょっと視覚的に気になったりもした。

大◯【評】おそらく50cmも避ければ跨がないで済む筈だが、寒い中帰り道を急ぐ身にはそれすら億劫なのだ。危険は承知である。一周の緊迫感を良く捉えていると思う。

じ◯【評】歩道橋の氷は平坦で固くて割れないから滑りやすい。大きければ滑るし、またげる大きさなら滑ってもつまらないのでまたぐ。「またぐか」の言い方が玄人だ。

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44 氷張りゆくタクシー多く走る夜 崖崖助黄=4
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黄◯【評】師走の風景。都心の喧騒から家族の待つベッドタウンへ。今日は晴れてました。更けていくにつれ深々と寒さが。綺麗な夜空の下。タクシーは高速道を猛スピードで。そんな夜、静かに氷は結晶してゆく

崖◎【評】特選。今回は第1回ということで、特選は他の題とのバランスもあった。5も17も十二分に特選候補。氷張りゆく、とも、ゆくタクシー、とも。曖昧さがある。エッシャーっぽい○。句またがりってなんか贅沢で○。

助◯【評】氷が張るほどの凍える夜でも、タクシーの運転手は黙々と仕事をこなす、うまく言えませんがこの都会的でハードボイルドな冷たさが好きです。

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45 氷など見たこと無いと拗ねる父 く黒助森炭地二丼光=9
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く◯【評】どういうシチュエーションなのか想像するとおかしい。「あそこいつも凍るんだよね」「うそ!見た事ないぞ!」

地◯【評】ちょっと酔っ払った父だけが「そんな所の氷なんか知らん!」と拗ねているが、明日絶対確認しに行くと思う。たぶん父以外の家族は女。

丼◯【評】昔話、現代がどれだけ恵まれているか、という話をしているうちに機嫌が悪くなってしまった父。何か嫌な事を思い出させてしまったのかもしれない。家族の会話が始まっていく。温かくて微笑ましい家族の様子に選びました。

森◯【評】父親ってつまらないことに頑固で子供だ。氷を見たか見ないかはそれほど重要ではなく、家族がその話で盛り上がっていること、その輪に加われないことに、拗ねることでしか存在感を示せない。あたたかく見守ってほしい

炭◯【評】子供らの会話に入れず、意地を張り拗ねる親。その姿が滑稽でいじらしくもあり、威厳を保とうとする頑固さに、その父の長年の生き方も感じられます。

黒◯【評】拗ねる父、がイイ。対等な親子関係が見て取れる。子供は、海外で見たきた氷った湖の話でもしたのかも。仲良くお酒を飲んでる姿が浮かぶ。

光◯【評】「あ、父ちゃん冷凍庫の氷全部使っちゃったの!?」「し、知らねぇ!氷なんか見たことねぇよ!」しかし手には焼酎ロック、というありふれた日常の愛おしさが溢れ出る。私の「想像上の父」の可愛らしさ。

二◯【評】氷というのが季語なら冬なのか夏なのか分からない私、これは夏の句と読んで楽しんだ。以上。

助◯【評】ありえないだろ、と思いましたが、漫画のようなことが現実にはたくさんあるので、ひょっとしたらこれを詠んだ人の父上のことを詠んだ実話かもしれない、と思わせられました。その奇妙なリアリティに票を入れました。

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46 貧血のサインの掲示に「氷食う」
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47 氷道そっと踏み出す赤い靴 る科酒爽雪=5
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科◯【評】氷と赤い靴のコントラストが鮮やか。この鮮やかさのために好きになった句。道と靴だけをクローズアップした絵を見ているかのよう。逆にいえば氷道と靴以外がどうなっているのか分からない。その少しミステリアスな雰囲気も良い

雪◯【評】 白と赤の対比とクローズアップ、jnc_klgさんと同感でした。赤い靴はきっとエナメルで、よそ行きの格好をした大事な日。でもその靴は氷道を歩くのに向いてない。滑りそうでおそるおそる+大事な用事への緊張。冬っぽい。

る◯【評】氷の上に踏み出すのが赤い靴ということで、多分女の子なのだろう。それにより別のハラハラ感が。いっそ氷の上に全く似合わないハイヒールとかで、それでも外に出なきゃいけないシチュエーションとかだとぐっとくる。

爽◯【評】寒さだけではなくて、氷と赤という色の組み合わせが印象的でした

酒◯【評】皆様仰るように色の対比の鮮やかさ。氷道を慎重に歩くのは『ただごと』感があるのだが、子どもの足ととれば許せてしまう子どもマジック! また、氷道は厳しい社会の〜とやると煩いけど、35(の拙評)と同じ事を詠んでいるようにも思える。

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48 氷りたる川面の下に溺れる子 甘重森藤数=5
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森◯【評】おもわず助けてあげて!って声をあげた。つっこみを喚起する句は楽しい

重◯【評】ヒヤッとさせられました。氷の下でそんなことが起こっているなんて。氷だから透けて見えたのでしょうか、怖いです。

甘◯【評】氷る川面の静けさと溺れもがく子の動き。静と動。とか言ってる場合じゃないよ、早く助けてあげて!

藤◯【評】氷りたる川面は記憶、溺れる子は私。割って助けても助けてもいつも溺れてる。

数◯【評】本当に溺れている子がいるのじゃなくて、溺れる子の幻を見ているっぽい。自分が亡くした子なのか、それとも氷の下に誘い込もうと恐ろしいモノが見せている幻なのか…高橋葉介さんの描きそうな世界観

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49 窓閉めて星空ごと氷になれ C芽ツツ残夕=6
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ツ◎【評】寒いなか窓開けて(わざわざ開けて)星見てたけれどもう寝なきゃいけない! 布団に戻る前のガラス戸引く一瞬の動作に生じた、窓ガラスを氷に見立てる感性と星空ごと固めて残したい気持ちのまっすぐなリンクに打たれました。

夕◯【評】澄んだ空気のせいかいつもの窓からの星空なのに綺麗で閉じ込めたくなる。閉めた窓のガラスを氷に見立ててこのまま固められたらいいのに。そのまんまだけど普段のはずの星空を美しくいとしく思う。

残◯【評】今冬一番の寒い夜。でも雲一つない。星が綺麗に出ている様がありありと浮かぶ。甘いようで甘過ぎず、キリっとした寒さも感じる。好きです。

芽◯【評】凍てついた夜に降り注がんばかりの星が真っ黒な空に映えているのを眺めていたいのに…こういう人を端から見てたら可愛いなぁと思うんだろうな。

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50 ドラキュラの氷柱紫青緑 茅鯖鶴=3
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茅◯【評】多分元ネタがある気がしますが知らないので、ドラキュラが大量に凍っているゴシックっぽい景色を想像。パイプオルガンの音がきこえてきそうな俳句って面白い。

鶴◯【評】うさんくさくてどうしても忘れられなくて選びました。アメコミみたいな色味と、「氷柱」という言葉の厳しさの対比が気になる存在です。

鯖◯【評】『景がみえる』し三題すべて網羅しているのが面白い(まあ「模様」という言葉ではないが)。このたくらみはぼくもちょっと考えたが形に出来なかった。

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51 氷踏む猫の背に落つ月あかり ひる剣鯖重寝波黄栗栗光朝朝大数=15
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朝◎【評】氷踏む猫の背に落つ月あかり」「足の重さと氷との接触による緊張感と、光に照らされるネコの模様という動と静がよかったです

る◯【評】特選と最後まで迷った句。孤独な感じの猫の背に月と氷がよく似合う。冬の猫といえばこたつで丸くなっているイメージが強いけど、何かの理由で寒夜にねぐら無くさ迷う猫。胸がしめつけられる。

重◯【評】人ではなく猫が氷を踏ませたところ、冬の月を詠み込んだところが際立っていました。静かな光景。

鯖◯【評】解釈の余地なく驚きもない。でもそこがいい。なんの夾雑物もなくきれいなイメージだけが手渡される。これにも俳句という形式の『甲斐』があるのではと思った。

ひ◯【評】まるで写真を読み解いた様にありありと映像が浮かぶのですが、猫は飛ぶ様にやってきたのか、悠然と目前を横切っていったのか、その瞬間の前後が、とても気になるのです

剣◯【評】猫の歩みは軽やかすぎて氷を『踏む』と日常では言わない気がするのですが、『踏む』と言った瞬間に夜の息をひそめるような静けさが立ち現れる素晴らしい句。熟練を感じました

黄◯【評】月明かりは氷面を照らし、その氷上の存在を知らしめる。猫だった。白なのかブチなのか三毛なのか?黒猫だろう。月光を浴び蒼黒い毛並みの。足音も鈴の音もなく通り過ぎようとした猫の存在が月下のもと露わに

光◯【評】私的には真俯瞰の光景。足音のしない猫のひそやかな気配と、月明かりに浮かび上がるしなやかな背中がもうそれだけで叙情的。猫の持つ色っぽさが出てる!犬じゃだめなんだよなー!犬じゃなー(畳をぺぺんと打つ)!

波◯【評】しんしんと冷える夜道を歩く猫と、寒い時期ゆえのくっきりとした月の明かりが浮かぶ。ただ、猫は氷踏むか?と立ち止まらざるを得ず、猫は氷は避けるだろうと、個人的にわだかまりもした。

栗◎【評】猫は寒がりだから普通、氷踏まないだろうけど、間違えて踏んで飛び上がってたら、冬のファンタジーとして可愛いな。いつも帰り途にいるバカ猫ならやりそうかな、と情景が浮かびました。

寝◯【評】恐る恐る氷を踏む猫のピンと立った尻尾が、月明かりでくっきり浮かぶ姿を想像した。冬の澄んだ空気が伝わってくる句。

数◯【評】夜中に見た風景でしょうか。月は満月、猫は黒猫。月明かりで黒い背中がてらっと一瞬輝く。物語が始まりそうな、ドラマティックなイメージです

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【なんでしょう句会 氷評】togetterまとめ http://togetter.com/li/229396
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