【それなん句会 予行編】評

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1  おそるべき君等の乳房夏来る 黒=1
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黒〇【評】「君等」は、半袖の白いセーラー服を着た女学生の集団か。きっと衣替えの朝。「おそるべき」は「乳房」ではなく「君等」のその「無自覚さ」なのだ。ということを、作者が自分のおっさん臭さには無自覚に言っているという構図。


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2  反論のありて手袋はづしけり 麗ツツ黒黒雪波白=8
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波〇【評】手袋をはずして反論をすることの、真剣で律儀にみえて、実はその動作の儀式ばった演技的な様子の滑稽さを切り取っているように思え、かわいらしいと感じた句。

雪〇【評】手袋の持ち主はこの時、椅子に座り直しただろうし真面目な顔をしただろう。今は室内で、外は寒い。手袋の動作によって全てを言って、かつ冬の緊張感と話者に漲った反論のテンションを同期させて見事。

ツ◎【評】そうです、譲れない点で反論するときは自分を守ったり飾ったりしててはいけないんです。ましてや手を、ふわふわもこもこしているものなんかでは! でもこのひと、反論あって手袋まで外したけど、うまく言えたのかしらん。

黒◎【評】この人は心の荒ぶりを「手袋を外」すことで律している。まず、その高潔さが好き。きっと育ちが良くてとても真面目な人。でも、その高潔さは滑稽さにも繋がっている。本人に滑稽という自覚がなさそうなところが切なくて特選。

麗〇【評】黒さんの評が素晴らしくて蛇足になるが、一方的に批判されている状況での心の荒ぶりと一見冷静そうな態度の対比が秀逸。あと、言葉と態度で伝えようとしてるんじゃないか。殴るのではなく。手は気持ちを伝える器官だから。

白〇【評】あ、この人、もう帰るかと思ったのに、手袋はずしちゃった! これは長くなるぞー。という相手の気持ちも見えそうな一句。


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3  広島や卵食ふとき口ひらく  地重重=3
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重◎【評】ヒロシマの句から距離を置き、あえて間抜けなことをいうのが好印象。そりゃ開くよ、って言いたくなる。並選にしようと思っていたが、〈卵も「落とす」もの〉と読めてしまった瞬間ぞっとして特選に。

地〇【評】この広島はやっぱりあの広島なんだな。原爆落とされても、卵を食べるときは、口をひらく。それが日常。生きている人は卵を食べる。これからも生きていく。なにが起こっても変わらない。


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4  城亡び松美しく色かへず
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5  虹立ちて忽ち君の在る如し  鳥妹白=3
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妹〇【評】虹と空との境い目って、実際には、もっと曖昧で、ぼんやりとしていると思うんだけど、この虹の輪郭は、特別くっきりとしていて、空も特別に澄んでいそう。そこに「在る」だけで、くっきりと輪郭を残せる「君」に、すごく憧れる。

鳥〇【評】なんとなく虹そのものが好きで、選びました。窓外の、少し先の、住宅街に虹がはしかかっていて、大切な人がその虹のてっぺん付近に腰掛けてこっちを見ている、ような。ぬくもりみたいなものを覚えるというような。

白〇【評】これだけ書かれた葉書が旅先から届いたら、きゅんとするな、と思って。


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6  あるほどの菊投げ入れよ棺の中  黄地地里残C=6
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地◎【評】棺の中の人は、予想外に早く逝った人。悲しさより悔しさが先にたって「投げ入れ」と乱暴な言い回しになってしまう。だけど「あるほどの菊」で悲しさも隠してしまいたいという気持ちが見える。

残〇【評】最後まで特選と悩んだ。嫌な奴だったけど恨み辛みを最後に花を投げ入れて忘れようよ、と自分が棺の中から聞いている情景が浮かんだ。花じゃなく菊としてる所に様々な深さを感じる。

黄〇【評】棺に入れられた後は生者と〈今は形ある〉元生者との別れ。あぁ投げ入れますよ。ありったけの菊を。桟橋から船を見送る紙テープのごとく。あるったけ。これは悲しすぎます。そしていただきました。

里〇【評】実際棺に菊を投げ入れるってのはよっぽどの怨恨だと思うのですが…(^^; でも「投げ入れよ」だし実際は入れていないのでは?死という無常さへの憤りをよく代弁しているなと感じました。


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7  笑はぬ子麦茶を少し飲みにけり 凡き地朧酒ツ丼鳥鳥重C妹白栗=14(一)
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凡〇【評】◎が少ない最高点句(2番手評価が総合的にトップ浮上することはよくある)。クラスにそういうモテ方の子いるって句だなあ!景色だけでなく時間も少し描いてて、でもそれが物語でなく「景色」に貢献してる。

丼〇【評】無愛想な子と思って見ていると出された麦茶を遠慮しいしい飲んでいる。ははあ、この子は緊張しているのかと思うと妙に可愛く見えてきたと心が解れた瞬間に出来た句と見たが、そういうのは後付で何故か最初から妙に好きだった。

朧〇【評】笑わなかった子(子はよく笑うもの、の決めつけがあるとして)だから注意深く大人に観察されたのか、麦茶少し飲んだだけで句にされてうらやましい。

重〇【評】なんでだろう、「笑はぬ子」っていう言葉だけで、もうその子がとってもいい子な気がして気に入ってしまった。麦茶効果も間違いなくあるな。

C〇【評】『笑わぬ子』は堅苦しい席(つまらない場所)につれてこられて、麦茶を飲む他にする事がないのだ。そんな事が自分にもあった。いや、今でもあるなと共感からの並選(だったのだけど)

地〇【評】子供がみんなニコニコしているわけじゃない。そうじゃない時もある。この子は麦茶を飲もうかどうしようか?暑いなぁ、モー。などと考えている。その結果、むぅとした顔で麦茶を飲んだ。いまはたぶんニヤっとしている。

妹〇【評】奈良美智さんの描く女の子か、川島小鳥さんの「未来ちゃん」のイメージ。麦茶を「少し」飲むところがすごく好きで、こども用じゃないコップを両手で支え持って飲んでいる(持ち上げてごくごく飲めない)感じ。撫で回したい。

ツ〇【評】話すことも愛想笑いすることもできないときは、黙々と何か飲んでるしかない。飲み物があってよかったなあ。「子」、って思われてる身でもいろいろ考える。飲み終わったらまた気まずいので、ペース配分して用心深く飲む。

鳥◎【評】生意気盛りの子供(女子でも男子でも)が、何かで少しへそを曲げている。咽喉が渇いて麦茶を飲みにきたけど、大人(親?)と目があったときに、むすっとしたまま、茶を飲む。かわいらしくて、よいと思います。

栗〇【評】ぐずっている子供の様子が、そこはかとなく愛らしく感じられる。ちょっと機嫌が悪いくらいが、子供は基準値な気がするし、それがかわいらしい。子育てにまだ慣れてない、若いお父さんの姿が浮かび微笑ましいな。

酒〇【評】深刻な「笑はな」さではなく、例えば里帰りして祖父母を前に緊張したり所在なかったりするとか、そういう子が手持ち無沙汰的に麦茶を飲む、夏の1ページ。かわいい。ただ、読まれている事柄に対して「けり」が大袈裟かなとも。

白〇【評】いつもはよく笑う子が熱でも出してるのか元気がなくて、心配していたら、麦茶は少し飲んでくれて、ほっとした、という母目線なのかな、と。

き〇【評】「笑はぬ子」に対するあたたかいまなざしがいい。親以外の大人を前にかしこまっているだけなのは「少し」からわかるし、わかっていてその様子を眺めている大人はきっと微笑んでいる。とてもすてきな夏のひとコマ。


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8 「資生堂パーラーにゐます」春の月  重栗=2
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重〇【評】駅の伝言板からそのまま引き抜いてきたような言葉。場所以外になにもいわないのは駅だから。(※投句時に下五「春の月」脱記有り)
重〇【評】下五がついても駅の伝言板っぽさは変わらず。「春の月」が美人すぎてしゃくだが、待ち合わせの相手はぐっとくるかも。フジノさんの仰る通り(←でた)、けっこう待たされそう。あと、夜なんだなあ。

栗〇【評】資生堂パーラーでデート、してみたいなあ。下五が抜けた時点で選びましたが、印象はそれほど変わらず。いや、春の朧月夜にデート。さらに風流さが増したかな。駅の伝言板の文字なんだろうけど今ならメール?ツイッター


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9  ぬくぬくの卵酒って生意気だ
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10 鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる  ツ=1
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11 やせ蛙負けるな一茶これにあり
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12 蚤虱馬の尿(ばり)する枕もと
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13 枝豆の食ひ腹切らばこぼれ出む  黄藤=2
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藤〇【評】人間の切腹は汚くて大変だけど、枝豆の切腹はつるんとした豆が出て来る。それが自分の掌の上でおこなわれるのが愛おしいし、介錯している気分にもなれてお得。次回枝豆を食べるときにはこの心持ちで。きっと美味しさ二倍。

黄〇【評】枝豆の皮から枝豆が飛び出た。ただそれだけw笑。それがこんな詩に、俳句になるなんて。凄い!あぁ願わくば一事象をこんな表現豊かに詠めるナイスミドルになりたいもんです。笑笑のお通しを食べながら…。喜んでッ!


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14 いくたびか半分に切るメロンかな  朧朧丼丼里重波波栗栗=10
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丼◎【評】お盆の実家の台所で母親がメロンを切っている。すると親戚の一家が次々と訪ねてきて、切り分けたメロンをさらに半分に切ってということが繰り返されて薄くなっていくメロンという景色が見えて、強く惹かれた

朧◎【評】切り分けられたメロンだけを見た人(メロンを供された人、お客さん)は気づけない事象を、切り分けた側の人、またはそれを見ていた人が実感した句と思いました。使用人とか女中であってほしい。

重〇【評】半分を半分にしてそのまた半分にして、ずっと半分にしていくとどうなるんだろうと小さい頃はよく考えたけれど、実は大人のほうが「半分に」する人だったんだな。貧乏ぶらずにメロンを選んだのにも好印象。降参、って感じ。

波◎【評】 メロンをすっすっと二分の一、四分の一、八分の一と切り分けていく動作と、それによって、そこに描かれていないけれどこころに現れる柔らかく艶のあるみどり色。メロンが食いたくなる句。

栗◎【評】マスクメロンってお高いから、一気に食べずどんどん半分、また半分て切っていく感じが、子供の頃を思い出す。たぶん病気見舞いのいただきもん。真半分のメロンをすくって食べたいと思ってた。実際は4分の1くらいで十分

里〇【評】丼さんと全く同じ解釈です!みんなの輪の中でどんどん薄く切られていく貴重なメロン。「これ以上切らないでー!」と心の中で叫ぶ可笑しさが浮かびました。


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15 片つ方の耳にないしよ話しに来る  残栗=2
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残〇【評】子がきょうだいにやきもちを焼かせるために、何でもないことを耳打ちする。子がふっと横に来た時のあたたかさやお日様の香りを体感できた句。

栗〇【評】やっぱりこれも、子供を見守る親の視線を感じるなあ。両耳に手をつけて内緒話はできないよね、って突込みつつ。お母さんには内緒ね、ってお父さんにするのかな。逆かな。でも、そんなこと自分はしたことない気もする。


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16 むざんやなわが全開のかきつばた
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17 まだもののかたちに雪の積もりをり  凡黄黄き麗藤酒酒丼波白=11(三)
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凡〇【評】俳句で「まだ」「もう」は悪手となることが多い気がするけど、奇麗な成功句。ない前後(の時間や景色)を17文字で感じさせる、手本のような句(でも「まだ」なしで出来ないか?と疑う気持ちも……いや、無理かな)。

藤〇【評】 あなた雪が降るまえからずっとそのあたり眺めてましたね。今は下になにが隠れているかわかるけど、そのうち誰にもわからなくなると思っていますね。でもほんとにそうかなあ?と作者を脅迫して私も殺されたいです。

丼〇【評】雪景色というとロマンチックだが豪雪となると大変なことになる。まだ大丈夫というその間を詠んでいる。「まだもののかたちに」までがひらがなで、雪が最初の漢字というところに、雪の重さを感じるその配置が気に入った。

波〇【評】雪がすべての形を覆い隠してしまうその前の景色。時間も季節もまだ途中の感じで、途中ってなかなか切り取りにくいものだとも思った。

黄◎【評】今年初の雪だろうか。車も木も家も街も。徐々に雪に埋もれていく。最後「をり」で静かに全てのものが雪に埋もれていく状況を(「〜けり」ではない!)雪の上には足跡一つ無く、静寂な夜。◎いただきました〜!

酒◎【評】人が活動しだす前の早朝、車等をそのフォルム通り覆う雪の写生ととった。雪はいつか汚されるピュアネスの象徴(だから「まだ」)(やや凡庸な読みだが)。その儚さ、美しさと、夜明けにそれを眺めるかつて純だった自分。

麗〇【評】丼さんの評が素晴らしくて、同感!(では駄目か…。)雪国で生活したことがなく、大変さも想像でしかないが、少量の雪という一時の気楽さ、あと、間もなく雪と世界の境界がわからなくなっていく、その凄さを感じた。

白〇【評】本降りでない雪が、景色を白くはしているけれど、だんだんと境目のない、真っ白な空間になっていく。自分と世界の区別がつきにくい世界がやってくる感じ。

き〇【評】雪国に暮らしていても初雪はうれしいもので、朝起きてカーテンを開け、まっさらな白で覆われた庭を見て息を呑むんです。毎年。でもその新鮮な驚きもそれきりで、すぐに日常の景色になってしまう。だから「まだ」。


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18 日盛りに蝶の触れ合ふ音すなり  黄残=2
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残〇【評】夏、蝉の鳴き声の中で蝶のひそやかな音が聞こえる静寂。夏は賑やかしのようで、でも黙祷する機会もある。ウカレポンチの自分が諌められたようなそんな気になる句。

黄〇【評】蝶の乱舞。ずーと広がる大花野。蝶と蝶が触れ合う時、どんな音がするのだろう。鱗粉が舞って「シュボッ」と音がするのだろうか(中二〜)。夏の一番暑い時に。緩く流れる時間。花を求め飛び交う蝶。いただきました。


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19 ポンプポンプ音符ポンプの四重奏  炭丼C=3
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丼〇【評】町工場のポンプが稼働する音が響く中を一人下校しながらリコーダーを練習している。ふと、ポンプと音とリコーダーがしっくり合って、寂しい一人の下校がちょっと楽しくなってくる。そんな思い出を詠んだ句。

炭〇【評】 ポンプポンプと来て「音符」でまた「ポンプ」。一瞬違う物が混じって二度見した感じ。「学校の給油室で軽油をポンプでくんでいる間、近くの音楽室から音色が聞こえる」景が浮かびました。


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20 どうしても動かぬ牛が小便した  朧=1
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朧〇【評】ひいてもひいてもどっしりと動かない牛、困ってるおじさんの足下に生あたたかい小便の川が流れてきて「あっ!花子しょんべんたれて〜」とセリフも浮かびました。


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21 生きかはり死にかはりして打つ田かな  里重波=3
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重〇【評】スケールが大きい。「打つ」は「耕す」よりもずっと本能的な感じがする。人間の本性みたいなものを称揚するというよりは、そうやってしか生きてこれなかったことを言っているような気がする。

波〇【評】季節の移り変わりを「生きかはり死にかはり」ということの新しさ。確かに「死にかはって」もいる。非常な中立さがかっこいい。

里〇【評】同じ地に何度も植えられては刈り取られる(連作される)稲の姿に、死ぬような思いをしながらも生き続ける農民の貧しさ苦しさが込められているように感じました。


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22 隅占めてうどんの箸を割り損ず  凡丼鳥=3
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凡〇【評】あれ、これもっと伸びると思ったな。「(店の)隅(の席を)占めて」の上五が分かりにくかったか。句をみているうち、だんだん隅にいることが効いてくる。周囲はにぎやかなんだよ、きっと。

丼〇【評】上司とお昼にうどん屋に行き窮屈な隅に先だって座ったが、手をぶつけて割り箸がうまく割れなかった。ああ不器用と思われたぁ評価が下がるぅと、勝手に想像していくと、その程度の失敗をわざわざ詠んだことが面白い。

鳥〇【評】運動部の帰り道、小腹がすいて、友達数名とうどん屋に入る。割り箸を綺麗に割れたら成功! とか意味のわからんゲームが始まって、見事自分が失敗し、やんややんやといじられる。いじられキャラにはおいしいひと時。


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23 夏の河赤き鉄鎖のはし浸る  黄=1
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黄〇【評】頑丈な鉄の鎖は常に河に浸かっていた。雨の降らない夏だったのか。河は日に日に干上がった。目の前の事象と向き合い、観察の連続で到達した言葉「はし浸る」=軽い簡単な言葉ではないなぁ。いただきました。


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24 酒少し徳利の底に夜寒哉  黒=1
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黒〇【評】温泉旅館で、布団の横に徳利を置いてだらだら飲んでたんだけど、夜がふけるにつれて寝落ちする人も出て、残った人だけで話してるうちにあらら酒も少なくなっちゃったね、という句。旅館での正しい過ごし方。温泉行きたい。


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25 をりとりてはらりとおもきすすきかな  凡凡炭炭酒ツ里里妹=9
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凡◎【評】「有名な句」がいくつか並んだが、抜群に「覚えて」いた。「実感の強さ」と「たいしたこと言ってなさ」の高い次元での両立。すすきではもう生半可な句はよめねえ。音韻とかも言えるけどサカイさんに託すね!

妹〇【評】十七音を口にしている間は、自分の手の中に、確実に「すすきがある」。すすきの重さとか色とか、茎を折った感触とか、「手に持たされてる」感がすごい。拡張現実感があるっていうか、なんかARマーカーみたいな句。

ツ〇【評】兄妹さんの仰られたそのまま、付け足したいことはありません! すすきにさしたる風情を感じたことない身ですが、この句読んで思い返すと、あー世の中にすすきがあって良かったと思います。

酒〇【評】風にたなびいて軽やかなすすきの重みは、手に取る(折る)ことではじめて実感できる…から命の儚さがはらり〜とやるとつまらなくなる。説教的な意味でなく、ただそうなんだという気づき・事実を言う「俳句らしさ」。

炭◎【評】「はらり」と軽さを感じて次に「おもき」と重みを感じる言葉の対比。そして畳みかけるような「い」行の韻によるリズムの良さで特選に。(何故か榎本俊二ムーたち」を思い出した)

里◎【評】発音した時の気持ち良さが抜群!ど頭の「を」で一瞬躊躇させておいて、いざ読み始めたらとても滑らかなのが良いです。正直意味はあまり考えていませんでしたが、そうか、対比の妙もあったのですね。


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26 階段を濡らして昼が来てゐたり  凡麗藤炭雪=5
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凡〇【評】◎を最後まで争った。昼、階段が濡れていたという写生なのだが(←「決めつけ」も優位に立つ「テク」)、言葉をねじって「異なる感じ方」を人類に初めて感じさせる。「あるある句」的な共感ではない、詩だ。

藤〇【評】光と影のコントラストが実にジブリ。階段は濡れているんじゃなくて、陽光の落ちたところが濡れているように見える。いや、影のほうが濡れているように見えるよ、という意見もきっとあって実にトロンプルイユ。

雪〇【評】凡先生の仰るとおり、昼とはいつのまにか『階段をぬらして』『来てゐる』ようなものであるという、初めての現実感を持たせてくれる句。だからこそ、階段は「水」ではなく「昼」に濡れていると感じた。無音感も好き。

麗〇【評】どなたかもおっしゃていたが、そこだけ幸福領域といった、夏の日陰の清涼感がよかった。日向では陽炎がゆれて、セミの鳴き声と他人の窓から高校野球のラジオの実況。夏の正午のうだるような暑さ。アイス食べたい!

炭〇【評】 階段に日が差して(おそらく光沢のある)反射に気がついて、時間の経過に気付く。何かに没頭していたのでしょう。でもあまり気にしていないように下五で感じられます。


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27 月に行く漱石妻を忘れたり
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28 トランプのダイヤに似たる夏心  里鳥=2
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鳥〇【評】夏心といえば、心臓ドキドキのハートかな、と思うが、赤くて、とがっていて、私のような無骨者には、ダイヤ、といわれても、いいえて妙かも。ダイヤ形の心臓が、鼓動するときちょっと膨らんでたりする様が、目に浮かんだり。

里〇【評】赤くキラキラなダイヤマークが実に夏っぽく、しかし細く尖った造形が女子の、痩せてやろうとか、彼氏作るぞ!みたいな「夏心」を見透かしているようでした。


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29 雀のあたたかさを握るはなしてやる  地CC雪=4
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C◎【評】『生命力』や『暖かさ』と同量の『傲慢さ』や『残酷さ』を下5から感じた。握りつぶす事も出来たのだ(考えすぎ)。寛容さや慈悲は、直に触れる事から生まれるのかもしれないと思った。

地〇【評】小さい生き物が動いていない時、死んでいるんじゃないかと思う事がある。あたたかくてよかった、生きてる。雀のサイズは「握る」という言葉にふさわしい。握り寿司に似ているから。

雪〇【評】手の中に、どうとでも出来る生命があるときの昂揚と不安。『握る』(握りつぶしちゃう ?)で緊張させて『はなしてやる』(よかったー)で弛緩させる自由律のスピード感。雀の感触が句の後に残るよう。


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30 色々の人々のうちにきえてゆくわたくし  地=1
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地〇【評】「私」でないところに、きえてゆかない意志を感じた。「きえてゆくわたくし」が全て平仮名で弱くなっていくように見えるのだけれど、前が漢字なので、混ざっていかない感じ。平仮名の「わたくし」はここにいるよ。


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31 冬蜂の死にどころなく歩きけり  凡黒=2
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凡〇【評】俳句の魅力の一つに「格好いい!」というのがあって、今回のそれ代表。素材はただの「虫の軌跡」なのに「感じ方」で掛け算して手渡されたのは「無常」みたいななにか。しかも「冬だし虫が弱っている」と、内容に脚色もない。

黒〇【評】「死どころ」とはただごとではない。つまり蜂は死にたい。死にたいのに死ねない。最早飛ぶこともできずに歩いてる。見てる方はどうしようもないし、どうしたいというのでもない。このどうしようもなさに浸っていたい。


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32 松島やああ松島や松島や
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33 寒燈やおがくずに海老ゐて静か  ツ里=2
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ツ〇【評】お歳暮ですか。箱を開けたら、海に生きてた海老が死んでおがくずの中。神妙な空気で、海老を贈られ慣れてる方ではなさそうです。おがくず敷いて飼ってたハムスターを思いました。海老も静かに困ってるだろうな。

里〇【評】「寒燈」の寒さと暖かさの同居によって、高級なおがくず入りの箱に収められた「静か」で立派な活け海老が、逆に今にも飛び跳ねるんじゃないか!?という緊張感を感じました。


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34 七夕や髪ぬれしまま人に逢ふ  黄き藤酒鳥残妹波白白=10
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藤〇【評】遭ふ、などと白々しい漢字を使ってあるが、実はなにもかも仕組まれている。濡れ髪に浴衣で男性を誘惑する手練手管に完敗。乾杯。 (※投句時に「遭ふ」と誤記有り)
藤〇【評】あたし織姫。雨が降ったってへっちゃら。天の川なんて泳いで渡ればいいし。別に氾濫してても関係ないし。髪?そんなの乾かしてる暇があったら一分でも長く抱き合ってたいんですけど。

波〇【評】濡れた髪のまま人に逢うぞんざいさと、それを言ってのける背景にあるナチュラルメイク的な女の自信に気圧される一句。

黄〇【評】七夕といえば雨のイメージが(当社比)晴れるといいな。という願いがあるからなのか。…待ち合わせ時、雨が。身だしなみを正すことなく急ぐ。逢いたい。七夕だから。サラダ記念日の次の日だから…いただきました!

妹〇【評】髪を乾かす間も惜しい、かつ、濡れた髪のまま(不完全な状態で)会うことも気にならない「許した」相手でもありそう。いつでも会える相手かもしれないけど、常に「会いたい」って気持ちを募らせずにはおれない相手なのかも。

残〇【評】大事な人ではなかったんだろうな。急な呼び出しや謝罪だったんだろうな。せっかくお風呂に入ったのにね。ゆったりしようと思ってただろうにね。七夕なんて気にしてられない人になってしまったね。

鳥〇【評】七夕の夜、恋人と会う、恋人の髪が濡れていて、シャンプーのにおいがほのかに香る、萌えて、胸をかきむしりたい衝動にかられる、と「妄想」しながら地下のうらぶれた喫茶店で一人コーヒー(今年の俺)。

酒〇【評】なんてセクシーな! 嬉しくて慌てるキャピキャピ感と、濡れ髪の大人な艶やかさのギャップも美しい。作者は若い女性と信じて疑わないが、仮に無精な男性がその怠惰さを詠んだ句(長嶋作)だとしても、それはそれでぐっとくる。

白◎【評】普段特別なことなど何もない女が、「七夕」も気にせずマイペースに過ごしていたら、不意にめずらしく「人に」逢ってしまったのかな、と。何かのはじまりかな。

き〇【評】浴衣の着付けだ髪のセットだで家じゅう巻きこむドタバタの果てに準備を負え、でも完全に乾いていない頭で初デートの相手が待つ場所へ急ぐ小学生くらいの女の子、というシーンが浮かんだら票を投じるしか。ねえ?(誰かに)


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35 さっきからずっと三時だ  き藤藤朧丼雪妹妹=8
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藤◎【評】実際にずっと三時なのだ(時計が止まっているとかじゃなくて)。この事態を怪訝と思うか、恐ろしいか、面白いか、あるいはまだ大丈夫と思うか(締切的な意味で)は人それぞれだが私は全部。複数の感情が居心地よくひとまとまり。美。

朧〇【評】三時だ→三時だ→…また三時だ→さっきからずっとだ(イマココ)。詠んだ言葉以外のことを思えなくて面白かったです。自分が言いたかった。

雪◯【評】「三時」がいい。午前にしろ午後にしろ、いちばん「時が止まりやすい時間」だ。不可思議な句のようでいて、三時は60分あるから、その間に4回以上(回数独断)今何時?と時計を見たら「ずっと三時」。

き◯【評】締め切りを知るのがイヤで、時計を止めて「ずっと三時」。おやつを大事そうに時間をかけて食べる我が子。それを眺める自分には「ずっと三時」。 携帯に残るあの人からの着信履歴。声が聞けた時間を確かめる。「ずっと三時」。
き◯【評】「好きに解釈して!」と誘われているように思えたので(「それなん」脳の症状)。「それなん」の良問ぽい、というのは僕には選句の理由になり得ます。とらえどころのなさに惹かれるんだけど、「正解」があるなら知りたいとも。

妹◎【評】もう長いこと「さっきから」「ずっと」三時の印象。世間の時間は流れているのに、他者と交わらない自分の時間だけが「ずっと三時」。「切迫した焦り」とも違う、ゆるく取り残されて、もう、もがき方も忘れてしまったような感じ。

丼◯【評】自由律は好きではないので一度切ったのだが、ずっと三時が午前か午後か考え出したら嵌まって復活。午前三時で起きるかもう一眠りするか迷ったら眠れなくなり、時計が進まないのにイライラ煩悶する布団の中の男の様子が見えた。


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36 こころ白くなるまで抱かれ桃の花  酒=1
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酒◯【評】なんてセクシーな!そんなセックスがしたい(最低)。絶頂による真っ白と、芳香・紅潮・多幸感の桃花色の対比だが、今気づいたけど誰の視点かが曖昧か(自らを桃花に例えてたら大胆、目前の女性を詠んだなら受動態が嫌)。


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37 白南風やイラブー燻製こちんこちん
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38 雨上がり土手のうんこのやわらかさ  炭=1
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炭◯【評】小学がの学校帰りに発見した興奮が「エウレカ!」とばかりにほどばしっている句。ばかばかしいけど、そのインパクトに負けて選句。


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39 こほろぎよあすの米だけはある
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40 さびしさを入れたる舌やかき氷  炭残雪雪栗=5
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残〇【評】さびしさがかき氷のように早く溶けてしまえばと思うが、舌にはいつまでもその冷たさが残っている。身体は汗をかくのに身体の部分部分はぎゅっと冷たい。とても切ない。

栗〇【評】実はよくわかってない。一人でかき氷を食べるさびしさなのか、さびしいからかき氷を食べてるのか。口さびしくて、かき氷食べちゃったのか。ひやっとする感じがさびしいのか。でも、暑いのに、しゃきっとした感じがいいね。

雪◎【評】いちばんエロかったので特選です。まずさびしさを、自分から舌の上に迎え入れる。それが『かき氷』、冷たく甘く舌のうえで形を失う。暑い夏の日に汗ばみながら、舌だけが冷えて取り残されてそれが『さびしさ』。エロい。

炭〇【評】夏休みの午後。家族の居ない家。暇をもてあます。小腹が空いて作ったかき氷。じっと見るかき氷。ふと思いついた好奇心。舌を。そっと。直に。かき氷へ。 (…これは選句ではないですね)


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41 手に指があってビールのコップに取っ手  藤朧ツ妹=4
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朧〇【評】ビアジョッキの取っ手と自分の指は類するものだったのか、そうか!と妙に納得させられました。

藤〇【評】泥酔者にとって生中のコップの取っ手こそ最良の友。リアルの友には相手にされなくなっているか、友もよれよれになるかしている。それにいまや、指に絡む取っ手の冷たさだけが昏倒を食い止める唯一のリアル。もう一杯。

妹〇【評】あるべき場所に、あるべき物がちゃんとあって、それらが、出会うべくして出会って、めでたしめでたし、という感じ。求めるものに、あつらえたような、ちょうどよさ。「しあわせ」って、こういうことなのかな、と。

ツ〇【評】そんで握手。取っ手のあるビールのコップはコップじゃないよジョッキっていうんだよとか、野暮なこと言うにははばかれるような相手、幸せそうに酔ってるのか、それともジュース入れて飲んでる子供かな。


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42 手袋は手のかたちゆゑ置き忘る  き麗黒C=4
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黒〇【評】すねたような、開きなおったような言い訳が可愛い。恋人から贈られた手袋をどこかに忘れてきたのかな。ベンチの上に自分の手(だけ)の分身が残っているという不思議な情景も、相手に甘えたこの言い訳に似合っている。

麗〇【評】ロマンチック。たぶん、手のかたちだから忘れたわけではない。手を重ねたとか長時間話が弾んで楽しいひと時をすごしたとかキスをしたとか、そういう出来事があってつい忘れてしまった。手袋は、その出来事の抜け殻。

き〇【評】「ゆゑ」、ですよね。この説得力のある二文字に票を投じたようなもの。手の形ぴったりなものを手にはめる窮屈さ、みたいなことはパッと浮かんだが、まだまだ解釈できそう。


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43 柚子腐るあらかた腐って棚にある  きき麗炭地酒鳥=7
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麗〇【評】冷蔵庫で、食材を腐らせ育てている自分を見ているようだと思った。使うことも捨てることもできず、気にしないように過ごしている、思考と行動が停止した自分。選びたくなかったけど、自分を選べと主張の強さもあった。

地〇【評】特選にしようか迷った句。これは絵画だと思う。夕方、薄暗い台所の棚にある柚子の油絵。食べ物としての価値がなくなった柚子を捨てずにしばらく観察したい気持ちはよくわかる。

鳥〇【評】人にもらった柚子。なんのきなしに本棚に置いていてしばらくほったらかしにしていたら、カビが生えてきて、腐りだしているが、気づかない。ふと、あるとき目をやってびびり、もらった人に、悪いな、とちょっと思う。

酒〇【評】経過した時間の発見だが、二度言う(言い直す)ところにリアリティとそれを詠みたかった意志や力を感じる。必然性も強い(腐るのは柚子で、棚に置かれたままでなければならなかった=元々よい匂いのものが、見える所で)。

炭〇【評】「柚子→柚子の集まり→柚子がある棚」とズームアウトされていく映像が浮かび、映画のワンカットの様。現象を写実的に書くことによる、強さとずぼらさがある。


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44 この鍵で錠ひとつあく星の秋  麗麗朧重残残黒C雪波白栗=12(二)
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朧〇【評】ロマンチック。これ読んだあと「他の星は鍵と錠が対じゃないのかな」と考えました。男と女に読むのは深読みですか。

麗◎【評】正直、この鍵をさす錠がある戸は、独り身の自宅なのか恋人の部屋の戸なのか、私は断定できかねた。どちらの戸でも、秋の夜に一人あけようとする戸の存在、その鍵の冷たさ重さが、秋の星と呼応していて、静かで秘めやで哀しい。

重〇【評】悲しいかな、自宅の鍵しか想像できなかったのですが、自分の住み処が一つあるということの幸福さと切なさを感じました。

雪◯【評】「この鍵」と「ひとつあく」錠のことしか語らないにも関わらず、「星」との響き合いによって、秋の夜空に無数に散る冴えた星々の光りと、地上の無数の人間が持つ「この鍵」の光を見せて美しい。

波〇【評】鍵と錠の一対一の対応は男女の組み合わせ、より明瞭に言えば男性器と女性器の結合を思わせる。そしてそうした性的な世界を「星の秋」と見下ろしてみれば、それは実は普通のことなのだと思わされる

残◎【評】自宅最寄駅に止めてある自転車の錠を解除してる情景が即座に浮かんだ。情景がここまではっきりと浮かんだのはこの句だけ。秋の空は澄んでいて星を見てると地球が本当に丸いことがわかる。星空を見上げる余裕のある日常がいい。

栗〇【評】あまりに情緒を訴えるものは好かんのだが、これはギリギリ踏みとどまっているところがいいな。一見、美しいファンタジーのようで、実は、ちょっと寂しい一人の秋の夜長を感じる。一人で何をするのも自由なんだけど。

黒〇【評】無限の可能性を持つようでいて「この鍵」はたったひとつの錠しか開けられない。「秋の星」ではなく「星の秋」としたことで、星雲から鍵穴へ、ぎゅーんと収斂していく感じがとても好き。雑貨屋さんみたいな道具立ても可愛い。

白〇【評】今持っているこのひとつの鍵によって、必ず開くものがわかっている。そこからは、小さな星まで包み込むような、永遠の可能性が広がっている。ただ、「あける」かどうかは自分次第だけれど。

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【それなん句会 予行編】togetterまとめ http://togetter.com/li/216929
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